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45.幸せの鐘の音。

***前回のあらすじ***

セドリックに頼まれて、騎士の正装で登城したクリスティアナはそこでセドリックが見知らぬ女性と仲睦まじくする様を見てしまう。心が凍り付くクリスティアナだったが、彼女はセドリックの兄、フェリックスの妻、リュシアーナだった。普段のクリスが見たいとわざわざ訪問をしてくれたらしい。勢いのあるリュシアーナにたじたじになるクリスティアナだったが、セドリックの両親も歓迎してくれている事が伝わったクリスティアナはほっと安堵の息を吐くのだった。

 あの後、セドリックが誤解をされたままなのは嫌だからと、説明をしてくれた。リュシアーナ様がセドリックの腕に自分の腕を絡めているように見えたのだが、実際は腕を組まれていたのはフェリックス様だったらしい。どうしても早く会いたいと門まで出て来たリュシアーナ様につき合わされ、フェリックス様は門の壁に寄りかかっていたらしい。興奮したリュシアーナ様がフェリックス様の腕をがっしりとしたままセドリックの方に身を乗り出していた為、細身のフェリックス様は大柄なセドリックの影にすっぽりと隠れてしまい、リュシアーナ様がフェリックス様に絡めた腕だけが見えた結果、腕を絡めて寄り添っているように見えてしまったらしい。


 飛んだ勘違いだ。誤解をして申し訳ないやら恥ずかしいやら。けれど、セドリックは妬く程好いてくれているんだろう?と嬉しそうに笑った。


 次の休日、私は今度こそ正式にウィンダリア伯爵家の屋敷に訪れていた。此方の屋敷は元々社交界シーズンの為のタウンハウスだった物を、今は城で働くセドリックとフェリックス夫妻が使っているらしい。ウィンダリア卿は現在王都から離れたウィンダリア領で暮らしているそうだ。というのも、ウィンダリア卿が半年ほど前に病が原因で少々体が不自由になった為、社交界に出るのが難しいらしい。


 ドレス姿で訪ねた私に、リュシアーナ様はあからさまに落胆をしていたが、お茶を頂きながら少し会話を交わすと、直ぐに目を輝かせ鼻息を荒くした。


「だってお可愛らしいご令嬢や高飛車なご令嬢ってもう見飽きていますでしょう? その点クリスちゃんはよいわ! 恰好良いご令嬢! ああ、わたくし新しい分野に目覚めてしまいそう……!!」


 リュシアーナ様は安定のテンションの高さだ。両手で頬を押さえ、今にも鼻血を吹いてしまいそうな顔をしている。慣れた様子でフェリックス様がお茶を口に運びながら、どうどうと宥めていた。

 ……うん。納得。きっとこれがウィンダリア家では通常仕様なんだな。隣国の第五王女だったとはいえこの姫君を嫁に迎えるくらいだ。私の変わり者っぷりなどきっと変わっている内に入らないだろう。

 因みにフェリックス様とリュシアーナ様にはリジー君というそれは可愛いお子様まで居た。リジー君は最初こそ恥ずかしそうにリュシアーナ様のスカートの後ろに隠れていたが、帰る時になると、「クリス、いっちゃやーー」っとギャン泣きしてくれて、私はリジー君にめろめろになった。


***


「そうか、気に入って頂けたか!」

「良かったわぁ」


 夕食の席で今日の報告をすると、父も母も喜んでくれた。明日にでも神殿へ報告に行くという。神殿からの許可が下りてから、婚約式で誓約書にセドリックと共にサインをし、晴れて婚約が成立する。嬉しくて胸がどきどきとした。

 婚約式には兄も帰ってきてくれるという。ウィンダリア卿夫妻も、婚約式までは王都に残るらしい。てっきり社交界シーズンに合わせ王都に上がって来ていると思っていたが、どうやら私に会うためにわざわざ出て来てくれたらしい。セドリックがウィンダリア領に私を連れて行くと言ったらしいが、ウィンダリア卿が早く会ってみたいからと仰ってくれたそうだ。

 歓迎してくれていると思うと、とても嬉しくて、胸が熱くなった。


***


 ──神殿は、荘厳な空気に包まれていた。ステンドグラスから差し込む光が美しい。神殿の祭場には、両親の他に、一時帰宅をした私の兄のヒースクリフと、セドリックの兄夫妻のフェリックス様とリュシアーナ様も私達の婚約を見守ってくれていた。

 祭服に身を包んだ神官が婚約の同意の是非を問うのを、緊張しながら聞いていた。


「汝ウィンダリア卿は子息セドリックとアデルバイド公爵家令嬢クリスティアナ=アデルバイドとの婚約に同意しますか」

「はい、同意致します」

「汝アデルバイド卿は令嬢クリスティアナとウィンダリア卿子息セドリック=ウィンダリアとの婚約に同意しますか」

「はい、同意致します」


 まずはセドリックの両親と私の両親が婚約の同意を示す。セドリックと私も、神官の問いに同意の意思を宣言した。お互いにどちらからともなく顔を見合わせ、笑みをこぼす。神官が台座に乗せた指輪を運んでくる。セドリックにはアクアマリンの銀の指輪を。私には、ガーネットの指輪を。私達はそれぞれお互いの色を示す指輪をお互いの指に交換する。神官の一人が恭しく誓約書を差し出し、私達はそれぞれ誓約書へとサインをした。両親もそれに倣い、誓約書へとサインをする。


「これをもってセドリック=ウィンダリアとクリスティアナ=アデルバイドの婚約を神の名において正式に認めるものとする。若き二人の未来に祝福あれ」


 高らかな神官の声を合図に、神殿の鐘の音が響き渡る。セドリックが目を細め、愛し気に私を見つめ、私の両手を握る。私もセドリックを見つめ返し、彼の手をぎゅっと握った。幸福感が溢れだす。世界中の全てが祝福をしている様な気分だった。セドリックへの愛しさが募り、胸がとても甘く締め付けられた。幸せを告げる鐘が鳴り響く中、晴れて私は、セドリックの婚約者となった。

ご閲覧・評価・ブクマ評価有難うございます!やっと婚約にこぎ着けました!書きたいシーンがまだあるので、がんがん行きます。次は早くて深夜、遅くて明日の午前中の更新予定になります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 神官さんの確認のお言葉、ウィンダリアさん側は「卿」で、アデルバイドさん側は「公爵」なのはなにか理由があるのですか?
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