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39.シェリナの決意。

***前回のあらすじ***

クリスティアナはロンバートとの面会の後、祝勝会に盛り上がる詰所に戻った。いつもよりも遅い時間ともあって、セドリックに家まで送って貰う。セドリックには伝えて置くべきと判断したクリスティアナは、セドリックを家へと招き入れ、シェリナがロンバートに絶縁を申し渡された事、ロンバートが何かしようとしていることを伝えるのだった。

 ──夕食の席は、私の好物が並んでいた。私の帰還を祝ってくれるつもりだったらしい。なんとなく祝勝ムードではなくなってしまったが、皆気にしなくて良いと笑ってくれた。セドリックも一緒に夕食をと誘ったが、今日はまだやることがあるらしい。日を改めて挨拶を兼ねてお邪魔すると帰って行った。ちょっと残念。


「──そう、兄上は明後日あちらへ戻られるんですね」

「ああ、お前の顔を見てからと思ってね。大した怪我も無くて良かったよ」

「ありがとうございます。ああ、そうだ。これ。遅くなりましたが、コンフォートの土産です」


 私は持ち込んでいた土産をそれぞれ渡す。グレンとマリエッタには後で渡すことにした。皆とても喜んでくれる。わいわいとお互いの土産を見せ合う家族に、心がほっこりとする。使用人達にも土産を渡すと、屋敷の執事のジーヴスが感涙していた。そんなに喜ぶようなものかと思ったが、貴族の娘の私が使用人にまで土産を買って来たという行為が嬉しかったらしい。


「ところで、それもコンフォートのものだろう?髪留めとピアス」


 兄が行儀悪く頬杖を付き、からかう様な口調で私を指さす。


「良く似合ってるじゃないか。お前の銀の髪に深紅は良く似合う。そう言えばセドリック殿の瞳も深紅だったな。これはたまたまか?」


 ニヤニヤとした顔で言われ、私は一気に顔が赤くなる。私の反応に父と母が手を取り合って目を輝かせ、身を乗り出して来た。


「セドリック殿は、ウィンダリア伯の次男坊だったな。死神と呼ばれる男と聞いていたが、随分と穏やかな男じゃないか。私は気に入ったぞ。中々良い青年だな、うん!」

「まぁまぁ!! あんなことがあって、肝心の貴女はこんなだし、もう結婚は望めないと思っていたのに! こんな貴女を貰ってくれる方が居るだなんて夢の様!」

「ちょ! お母様何を仰っているんですか! 貰うだなんてまだそこまでは!」

「ならどこまで話が進んでるんだ?」


 思わず母に対しての呼び方が昔に戻ってしまった。兄上の突っ込みに、ぅっと真っ赤になって縮こまる。逃げ出したい。


「その……。まだ好きと言われたわけでもないし言ったわけでもないので…」

「何を言っているの、その髪留めとピアスはセドリック様から頂いたのでしょう? 好きだと言っている様なものではないの!」

「違います! ピアスは自分で買ったんです!」

「髪留めは?」

「……頂きました」


 針のむしろとはこの事か。もう部屋に帰っても良いかな。

 その後1時間くらい根掘り葉掘り質問を浴び、話はどんどん勝手に進み、やっと解放された私は部屋に戻るなりベッドに崩れ落ちた。


***


 翌朝、部屋にやってきたマリエッタとグレンに土産を渡すと、2人とも大層喜んでくれた。

 いつもの様に馬車で城へ向かう。道中グレンに『昼に騎士団の詰所まで来て欲しい』とシェリナへの言づけを頼んだ。此処数日シェリナは稽古に身が入っていないらしい。昼に彼女に話をすると伝えると、珍しくグレンがお願いしますと殊勝な様子で頭を下げた。彼なりにシェリナを心配しているらしい。


 騎士達は、いつもの日常を取り戻していた。久しぶりの基礎訓練のハードさが懐かしい。討伐中は訓練を行って居なかったから体がなまっているのではと思ったが、難なくついて行けた。基礎訓練に付いていく速度が上がったお陰で、少しの休憩を挟み、直ぐに実戦訓練に移る。

 私は久しぶりにセドリックに稽古をつけて貰った。あの数日間の甘さが嘘の様にセドリックの指導は容赦がない。必死に食らい付いていく。いつものパターンで後頭部に一撃をくらいそうになり、腕をクロスさせガードをすると、セドリックの表情が和らいで、「よし」と頭を撫でられた。


 昼になり、私は詰所の前でシェリナを待った。約束通り、シェリナがやってくる。私の顔を見るなり駆け寄って来る。お約束の様に躓くシェリナを抱き止めて、私はシェリナを自室へ案内した。

 流石に死神、セドリック=ウィンダリアの率いる赤の騎士団の詰所の中で良からぬ事を企む馬鹿は居ないとは思うが、私は念の為シェリナの隣へ腰かけて、小声で話す。


「昨日、何とかロンに会って来た」

「! それで? ロンバート殿下はなんて?」


 不安そうに身を乗り出し、詰め寄る様に私を覗きこむシェリナに、私の胸はずきりと痛む。

 シェリナには可哀想だが、素直なこの子に『馬鹿王子に遊ばれ捨てられたご令嬢』の芝居は厳しいだろう。シェリナがロンバートの真意を知れば、恐らく態度に出てしまいそうだ。それではロンバートの計画が無駄になる。


「何か事情はあるみたいだね。 だけどロンは本気みたいだ。私もお前の顔は見たくないと言われた。 私も殿下とは距離を取る。 シェリナ。……貴女はどうする? ロンの事は諦める? 貴女が辛いのなら、妃教育は辞めても良い。貴女がロンを見限っても、誰も貴女を責めはしない」


「────……」


 シェリナの顔が紙の様に白くなる。小さく震える姿が痛ましい。


「何か・・・。何か事情があるのですよね?」

「……今は、貴女や私が彼に近づくのは、彼にとって都合が悪いのだと思う。 貴女や私に近づいて欲しくないというのは恐らく本心だ」

「……『今は』?」

「うん。『今は』」


 シェリナは目を堪える様にきつく閉じて、震える自分の手を押さえる様にぎゅっと握った。


「──昨日は、取り乱してしまったけれど……。元々私と殿下では身分が違いすぎます。元々許されるはずの無い想いです。それでも、万に一つ、いいえ、億に一つでも、私が殿下のお傍に居られる可能性があるのなら、私、諦めるなんてできません。勉強も、続けます」


 シェリナは、声は小さいけれどはっきりと言い切った。


「殿下には近づきません。 声も掛けません。 それでも、お慕いする気持ちは変わりません」


 シェリナはぎゅっと膝の上で手を握りしめ、俯いていた顔を真っすぐに上げる。

 シェリナの決意に、私も小さく笑みを浮かべて頷いた。

いつもご閲覧・評価・ブクマ・ご感想・誤字報告有難うございます!サブタイトルどうしようか大分悩みましたが、シェリナを持ってくることにしました。計画通り進められるかなー。これからもう1つ書く予定です。途中で睡魔に襲われなければ次の更新は明日の朝、睡魔に負けたら明日の夜の更新になります!

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