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38.ロンバートの嘘。

***前回のあらすじ***

ロンバートに会うべくエメリックを探すクリスティアナ。口論をしながら向かった先はロンバートが居る部屋だった。ロンバートの部屋へと入ると、そこには酒に溺れ、堕落した様なロンバートの姿があった。何もかも投げやりになったかのようなロンバートの言動の裏に、別の真意が別にある事を見抜いたクリスティアナは、彼の意思に沿う様にロンバートに絶縁を告げた。

 私はそのまま一度詰所へと戻り、どんちゃん騒ぎになっている中、セドリックに声を掛ける。気にしていてくれたらしい。セドリックは酒を飲んでいなかった。私はこのまま帰宅する旨を伝えると、セドリックは送るといって席を立つ。私もセドリックに話があった。有り難く申し出を受ける事にする。


 セドリックの馬で、屋敷へと向かった。道中セドリックは私に何も聞いて来ない。ロンバートの警戒っぷりを考えると、私もまだこの場では話せない。屋敷に着くと、私はセドリックを招き入れた。きっと彼の力が必要となってくるだろうから。

 私の帰宅に喜んで出迎えようとしていた屋敷の者は、私が険しい顔でセドリックを伴って帰ってきたことに何かを察してくれたらしい。父と母も、セドリックへ簡単に挨拶をしただけで引き下がってくれる。

 私はマリエッタにお茶の用意を頼むと、応接室へと案内をした。


「それで?何があったんだ?」

「ロンバート殿下がシェリナ=オッド嬢に絶縁を申し渡したそうです。私も関わって来るなと言われました」


 セドリックの言葉に、私はふっと力が抜ける。そんなことで拗ねなくても。

 私はエメリックがこっそりと私に渡した紙を広げる。私はそれをセドリックに渡した。セドリックは紙を一瞥すると私に返して寄越す。


『明日、お前の家に使いを寄越す』


 書かれていた文字はそれだけだ。私は棚の引き出しから火口を取って暖炉の中でその紙を燃やす。


「エメリックからか」

「多分、城の中では誰も信用するなという事でしょう。考えられるのは、サーフィス殿下の後ろに居ると思われる鼠を引っ張りだす算段だと思います。そうでも無ければ、殿下のあの念の入れ様の説明がつきません。私が殿下の芝居に付き合っている事を殿下も気づいていますし、多分使いの者が来るという事は、殿下は多分何か私に頼みたいんでしょうね。十中八九シェリナのことかと」


 私は念入りに灰になった紙を粉になるまで潰して置く。家の中は流石に安全だと思うが、念には念をだ。


「殿下は私やシェリナ嬢が関わると、私達の身に危険が及ぶか、若しくは炙り出すのに邪魔になると思ったんだと思います。彼の考えそうな事だと、殿下が孤立することで敵の油断を誘って尻尾を掴むつもりかと。彼の周りを私やシェリナがちょろちょろしていると敵も警戒をするでしょうし、遠ざけた方が油断を誘えますから」


 私はざっくりと、ロンバートの部屋であった事を話す。セドリックが苦笑を浮かべていた。何だろう?


「まともな会話はしなかったのだろう? 何故判る?」

「殿下は幼馴染でもありますし、幼い頃は色々悪さもしたので、性格を熟知しているだけです」

「だが、性格が判っても考えることまではそう判るものでもあるまい? お前と殿下は心が通じ合っているんだな」

「いや、何度もやっていれば流石に大体わかりますよ。彼、すっとぼける時には、本気で自分は無関係、何も知らなかったという様に驚いて見せるんです。知らない人はコロっとそれに騙されます。私もあんまり久しぶりなんで、うっかり騙されかけましたから。で、殿下は芝居を振られた側が上手くそれに乗らないと怒るんですよ。問答無用で共犯に仕立てて来るんです。お陰で私は彼の小細工に合わせるのは得意なんです。目で判ってるなって訴えて来るので。エメリックは彼の側近ですし、付き合いも長いようですから、私と同じようにつき合わされたんだと思います」

「……。 そんなに力説しなくていい。あんまり仲が良いから拗ねているだけだ」


 ……拗ねてたのか。


「で? お前はどうするつもりだ?」

「何もしません」


 セドリックの言葉に、私はにっこりと笑みを向けた。セドリックがきょとんとした顔をする。


「多分私が何かをすれば邪魔になるだけですから。殿下が私に与えた役どころは、ロンバート殿下に愛想を尽かした元婚約者の女騎士。なのでロンバート殿下にはそっけなく振る舞いますし、エメリックともこちらからは接触もしません。変に避けるのも変ですから、ばったり会えば話くらいはしますが、多分芝居は継続になるでしょうね。殿下が敵の尻尾を掴んで、彼がしようとしていることを成し遂げるその時まで、何もしません。彼への忠誠心は、私の胸の中にあれば良い」

「……ふ─────ん」


 ……不味い。更に拗ねてしまった。


「……セド? ただの忠誠心だよ? セドが国王陛下に忠誠を誓うのと同じじゃない」


 私は立ち上がってテーブルを回り、セドリックの隣へと腰を下ろす。膝に頬杖を付いてそっぽを向いて居たセドリックが、ちらりと私に視線を落とした。尖らせている口を摘んでやりたくなる。


「クリスは随分と酷い事を言われたんだろう? なのに何故そうもあの殿下を?」


 ふて腐れた様なセドリックの声。私はふふっと笑って、幼い頃の話をした。


「ロンバート殿下なら、民の為に、国の為に、力を尽くしてくれると思ったから。平民に寄り添える王ってあんまり居ないんじゃないかなって」

「──そうか。なら、俺もその時は尽力するとしよう。お前が信じるものを信じるというのも悪くない」


 小さくため息をついて、セドリックの目が優しく緩む。同じ騎士として思う所があったのだろう。納得をしてくれた様だった。

いつもご閲覧・評価・ブクマ・ご感想・誤字報告有難うございます!よっしゃー!書きたかったシーンまで書けました!いよいよ最終話に向けて、ラストスパートの段階です。がんがんいくぞー!最終話の目標は来週の日曜日。書きたいシーンがまだ色々あるんで、詰め込むだけ詰め込みたい。次の更新は明日の夜になります。あともうちょっと、楽しんで頂ける様にがんばります!

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