37.一触即発。
***前回のあらすじ***
シェリナが待つ部屋へと急いだクリスティアナは、シェリナからロンバートに悪い噂が流れている事を聞く。更にロンバートはシェリナにも、もう会わないと手紙をよこしたという。余りにも不自然なロンバートの行動に、クリスティアナはロンバートの部屋を押しかけることにした。
「良いから会わせろ!!」
「だからできねぇっつってんだろうが!!」
エメリックに会いたいと女官に渾身の笑みを浮かべ、壁ドン付きで頼み込み、やっと此方に向かって来るエメリックを見つけて駆け寄ると、エメリックはあからさまにしまったという顔をして、私から逃げる様に元来た廊下を戻っていく。ロンバートに会いたいと告げると、それは無理だと一蹴され、そのまま「会わせろ」「無理」「会わせろ」「駄目」と続け、結局近衛兵が見張りをする扉の前まで辿り着き、現在進行形で押し問答を続けている。
お互い襟首を掴みあい、一触即発の状態だ。最初は事務的に断っていたエメリックも声を張り上げる私に釣られるように徐々にヒートアップし、今に至る。扉を護る近衛兵もタジタジになっている。
「──良いよ。入れろ」
扉の向こうから気だるげな声が聞こえる。エメリックが舌打ちをし、私の手も払いのけた。
「おい。開けろ」
エメリックが不機嫌な様子を隠そうともせず、顎で示す様に近衛兵に命じると、近衛兵は慌てた様に扉を開けた。扉の向こうには、だらける様にソファーに体を崩して座り、シャツを着崩してグラスを煽るロンバートが居た。酒臭い。
「──何か用?」
面倒そうな声。僅かに私の琴線に何かが引っかかる。
「シェリナ嬢に会わないと仰ったそうですね」
「ああ、言ったよ?」
気だるげなまま、ロンバートがグラスに入った酒を煽る。
「何故ですか?」
「えー? 別にィ? 面倒になっただけだよ。正味どうでも良いんだよね。まぁ、ちょっとは可愛かったかなぁ。あの子スタイル悪くないしさぁ、結構美人じゃん? でももう飽きちゃったんだよね。どうせならもう少し色っぽい肉感的な女の子が良いなって思ってさ」
ロンバートはニヤニヤと笑って、こぉんな、と女性の体の線を片手で描いて見せる。私はじっとロンバートを睨み付けた。先ほど感じた引っかかりを見逃すまいと。
「ほら、俺どうせ王位継承権は剥奪されちゃうしさぁ。もうね、好き勝手にやることにしたの。俺みたいなのはさぁ、頑張ったところでどうせ駄目なんだよ。元々がね、才能ないの。それなら頑張るのやめて好きに生きようーってね。クリスもさぁ、婚約破棄したわけじゃん? お前それ受け入れたんでしょ? 一々首突っ込んでくんなよ。鬱陶しいんだよそういうの」
へらへらと笑って小馬鹿にする様に手をひらひらと振るロンバート。 煽る様に言い放ち、ゆらりとこちらに目を向けた。
──嗚呼。なるほど、ね。
その目を見て、確信した。
私はロンバートを、憎々し気に睨み付け、つかつかと歩みよると、彼の手の中のグラスを思いっきり払いのける。酒が弧を描き、グラスは壁に当たって砕けた。私は吹っ飛んでいくグラスを目で追っていたロンバートの襟首を捻り上げ、ぐっと顔を寄せる。
「ああ、分かったよ!! お前の事などもう知るか!! 金輪際お前には関わらない、これで良いだろう!? お前の様な馬鹿王子に仕えたいと本気で思っていた自分に反吐がでる!!」
──これで、良いんだよな? ロン。
私は目だけでロンバートに問う。
面倒そうに私の目を見つめ返したロンバートの目が、一瞬だけ引き締まる。私にだけ判る様に向けたその目は、至って正気だった。へらりとした笑みから、ほんの僅かに、口元が引き締められ小さく口角が上がる。ロンバートは直ぐに気だるそうな表情に戻り、面倒そうに視線を外すと、襟首を掴んだ私の手を払いのける。
「判ったんならもう出て行ってよ。あ、もう来るなよ。お前の顔見ると酒が不味くなるんだ」
「誰が来るか! お前の面などもう見たくも無い!」
私はロンバートの顔も見ずに踵を返し、扉に向かう。びくびくと扉の内側で待機していた近衛兵に怒りをそのままぶつける様に「退け!」と怒鳴りつけると、乱暴に扉を開けて勝手に部屋の外へと出た。
そのまま大股でずんずんと歩き出す。直ぐに後ろからエメリックが追って来た。
「おい、待てって!」
ぐっとエメリックが私の腕を掴む。私は掴まれる刹那に手首をくるりと返しておく。私の腕を掴むエメリックの手の中から、カサ、と手の中に小さく折りたたまれた紙が落ちた。私はそれをぐっと握り込む。
「煩い、私に構うな!」
「馬車まで送って行くって!」
「要らん!」
私はエメリックの手を払いのけ、そのままずんずんと廊下を進む。エメリックは追って来なかった。
いつもご閲覧・評価・ブクマ・ご感想・誤字報告有難うございます!感謝感謝です。連投でごめんなさい!さくさく読める様に文章は短め。ロンバートが大分馬鹿野郎様ですが、何か裏がありそうだぞ、って所で、更にもう1本、次は夜に更新します。




