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35.凱旋。

***前回のあらすじ***

セドリックに連れられて行ったソニン村で、クリスティアナとセドリックは少しずつ距離が近づいていく。恋人同士の様に村を歩く二人。土産を買いに入った店で、セドリックの瞳によく似た色のピアスを見つけ購入する。砦に戻った二人。セドリックを団長と呼ぶクリスティアナに、セドリックは愛称で呼ぶように言う。


 部屋に駆け戻った私は、ばくばくと騒ぐ胸を押さえた。先ほどの甘いやり取りを思い出し、その場にへたり込む。まだ、触れられた頬に、髪に、セドリックの指の感触が残っている。

 気づかないはずが無い。気づけないはずもない。こんなにも、セドリックを思うだけで胸が苦しいわけも、セドリックのあの甘い瞳のわけも。


 ──私は、セドを愛している。


 はっきりと言葉で意識すると、今まで気づかなかった事が嘘の様に思えた。

 私は、セドを愛している。そうして、きっとセドも私を……。

 幸福感と、気恥しさで、体が震えた。


 別れ際、セドリックから渡された箱に視線を落とす。箱を留めていた淡い水色のリボンをしゅるりと解く。そっと箱を空けると、中にはセドリックの瞳によく似た柘榴石の付いた髪留めが入っていた。

 ころんと丸いフォルムの髪留めは、シックな真鍮の細やかな透かし彫りの台座の中央に少し大きめの柘榴石が1つ。その隣に並ぶように、小さなの柘榴石と私の瞳によく似たアクアマリンが並んでいる。真鍮の繊細な透かし彫りとゴテゴテとしていない小ぶりの石のお陰で、シンプルな印象のその髪留めは、いつも髪を後ろで1つに束ねている私が、普段使えるようにと思ってくれたのかもしれない。

 私は鏡の前に立ち、髪に付けていたリボンを解き、髪をいつもの様に1つに束ね、いつもは首元あたりで留める髪を高い位置で纏め、セドリックのくれた髪留めで留める。首元がすっきりとする。頭の上から少し覗く銀の髪留めは、赤い石がきらきらと光った。


***


 着替えを済ませ、救護班にお礼を言いに行く。土産に買ったクラッカーとジャムを1瓶持っていくことにした。救護班の皆は、自分の事の様に喜んでくれた。

 レイアも他の救護班の女性達も、それぞれ誘われて皆楽しい時間を過ごしたらしい。コレットは砦の駐在の騎士と恋に落ちたのだそう。任期が終わるまでは、手紙のやり取りになるが、長い休みには会いに来てくれる約束をしてくれたらしい。

 レイアとエルヴィオも、王都に戻ってからも交際を続ける約束をしたそうだ。恥ずかしそうに頬を染めるレイアはとても愛らしかった。


***


 翌朝。私は、髪を高い位置で束ね、セドリックに貰った髪留めで留める。耳には昨日買ったピアスを付けた。

 1日掛けて王都へと戻る。私は少し早めに荷物を纏め部屋を出て、砦の駐在の騎士達に世話になった礼を言いに行く。ダグラスの事をお願いすると、出来うる限りの事はすると、頷いてくれた。


 セドリックの合図で、王都に向けて出発をする。皆久しぶりの王都に帰れる喜びで、道中は賑やかだ。


「セ… 団長。あの、これ……。有難うございました」


 私は馬をセドリックの馬の横へと付けて声を掛ける。今は帰りとはいえ勤務中だ。セド、と呼びかけて言い直した。セドリックはポニーテールにした私の髪と耳元で揺れるピアスを見て、引き締めていた表情をふわっと解いて目を細めて嬉しそうに笑う。


「思った通りだ。良く似合う」


 自分の瞳の色を写したアクセサリーか。私もセドリックに何か買えばよかった。少し後悔をする。


「王都に戻ったら一度街へ行こうか。俺もお前の色の何かを身に付けたくなった」


 心を読まれたかのように言われ、頬がかぁっと熱を持つ。ここ最近のお約束、とばかりにエルヴィエが冷やかして来た。


「あーもー、あっついなー。レイアちゃーん、俺も甘やかしてー。いちゃいちゃしよー」

「やー! そんな大きな声で! エルヴィエ様のばかー!」


 すかさず赤くなったレイアが馬車から身を乗り出して怒鳴り返す。どっと笑いが起こった。


***


 王都に着くと、ちょっとした凱旋のパレードの様になる。行きは早朝ということもあり静かなものだったが、帰りは夕刻だった為、城に通じる中央通りは道の左右で人が歓声を上げてくれる。私はセドリックと共に隊列の先頭で馬を進める。騎士達は沿道に並ぶ民へと手を上げて出迎えに答えている。


「え、ちょっと、あの騎士様女性?!」

「うそ、恰好いい!」


 そんな黄色い声が聞こえ、私もにこりと笑みを浮かべ、軽く手を上げて見せる。キャ───ッと一際大きく声が上がった。不思議なもので女性というのは男装の女騎士というのが好きらしい。隣で馬を進めているセドリックが苦笑する。私達は歓声に応えながら無事城へと到着した。


***


 到着後も慌ただしい。荷物を下ろしたり、纏めた書類を文官の元に届けたりと、まだ少し仕事が残っている。セドリックが次々に出す指示に、エルヴィエは薬師団に付いて遠征で使った薬や聖水の入った木箱を運び、チェスターは弓兵の使った弓矢や予備の剣を運び、私は報告書の束を抱え文官の執務室へと向かう。


 階段に差し掛かると、上から聞きなれた声が降ってきた。


「クリス様ッ!!」


 私は両手に抱えていた書類を小脇に挟み込み、階段を駆け上がる。こういう事に慣れてしまうのもどうかと思うが、このパターンは私にとってはとても馴染み深いものだった。


「ぁっ」


 案の定、階段を駆け下りて来て躓いた令嬢がそのまま私に飛び込む様に落ちて来る。ロンバートの想い人であり、私にとっては可愛い友人のシェリナだった。


 ドレスの時はヒールの付いた靴だった事もあり、シェリナの落ちて来る気配を察知すると突っ込まれれば自分も一緒に転げ落ちてしまう為、毎回避けて転がり落ちていくシェリナを見送っていたが、今の私はドレスでも無ければ高いヒールの靴でも無い。騎士のスパルタ訓練に耐えた今の私ならいける。


 落ちて来るシェリナの腹へ手を回し、書類を小脇に挟んだままシェリナの腕を支え、そのまま胸で受け止める。

 どすっと衝撃はあったが、セドリックの剣を受けるよりも楽だった。


「シェリナ?」


 私がしっかりと抱き止めると、縋る様に私の胸元を握っていたシェリナが、ぎゅぅっと私の背に手を回して抱きついてくる。泣いている様だった。


「クリス様、クリス様 私──」


 戻ってくるなり何事か。

 私は泣きじゃくるシェリナの髪を優しく梳く。そろそろ周囲の視線が痛い。男装の私に抱きついて泣くご令嬢。好奇に満ちた目が突き刺さる突き刺さる。


「シェリナ、すまない。まだ仕事があるんだ。終わったら話を聞く。少し待っていてくれる?」

「あ。申し訳ありません……」


 溢れる涙を手の甲で拭い、シェリナが抱きついていた手を解く。私はシェリナを安心させるように笑みを浮かべ、軽く髪に口づけを落とした。


「ん。良い子。直ぐに戻るから。赤の騎士団の詰所に私用の部屋がある。そこで待っていて? 騎士団の者に聞けば場所は直ぐに判ると思う」


 シェリナが驚いた様に目を見開き、頬を赤くしてこくこくと頷いた。涙は止まったみたいだ。よし、成功。涙を止めるには驚かせるのが一番だ。びっくりして涙が引っ込んでしまうから。


 ひゃぁぁ、っと階段の上や下で女官の黄色い声が上がったが、此処は無視することにする。私も急いで文官に書類を届けに行かなくてはいけないし、ゆっくり慰めるというわけにもいかないのだから、この場は止むを得まい。流石にしくしくと泣いたままのご令嬢を放っていくのも後味が悪いし。


 ほけりと放心気味のシェリナの頭をぽん、と撫でてから、私は文官の執務室へと急いだ。


ご閲覧・評価・ブクマ・ご感想、いつも有難うございますー!ぅがー。この回でやりたい事があったのにちょっと長くなりそうなので、2つに分けます…ッ。(無念っ)次のシーンを書きたいので、次の更新は今日の夜になります。

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