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33.彼女達の奮闘。

***前回のあらすじ***

ダグラスの捜索隊に加わったクリスティアナ達は、ダグラスの発見には至らなかったが、ダグラスの生存の可能性が高い事を知る事が出来た。明日は休日。セドリックと村へ買い物に行く約束をしていたクリスティアナの元に、医療班のレイアが訪ねて来る。レイアはクリスが男物の服しか持ってこなかった事を知り、明日のデートの為に、クリスティアナを可愛くしてあげようと張り切るのだった。

 早朝。私の部屋には救護班の女性が詰めかけている。狭い部屋に6人。

 きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ彼女達に囲まれて、女性のバイタリティーの凄さに圧倒されながら、されるがままになっていた。


 レイア経由で盛り上がったらしい。部屋に迎え入れるなりバスタブを持ち込まれ、全身磨き上げられて、マッサージを受け、甘い香りの香油を塗られた。


 コレットが貸してくれた服は、少しサイズが大きかったが、ウエストの紐を直し、ぎゅっときつく引き絞ると、ゆったりした服のお陰か、とても華奢に見えた。

 コレットは足のサイズも同じだったらしい。借りた靴は薄いベージュで、靴紐の代わりにブラウンのリボンが結ばれている。


 着替えを手伝って貰い、薄く化粧を施され、まるで夜会の前の様な騒ぎだ。

 たかが近くの村に買い物に行くと言うだけで、これでもかというほどの至れり尽くせり。皆貴族の令嬢らしく、お嬢様言葉が飛び交う飛び交う。

 私はまだ、現状が飲みこめない。


「此処って男性ばかりでしょう? むさくるしさ満載でしたもの! 埃っぽいし。覚悟はしていても気分が萎えておりましたの。まさかこんな場所で女性を着飾れるだなんて! それもあのクリス様のお手入れだなんて! ああ幸せ・・・!」

「クリス様お美しいですわお美しいですわ! 殿方に交じってらした時は凛々しくてらっしゃるのに、こんなにお可愛らしい方だったなんて! 普段の凛々しいクリス様も素敵ですが、こんなに可愛らしいクリス様を拝めるなんて夢の様ですわ!」

「セドリック様の瞳に合わせて髪飾りは赤い石が良いと思いますの! リボンも捨てがたいですわ。」

「やっぱり髪を下ろしませんこと? 折角こんなにサラッサラなのですもの!! 風で靡いたりすれば、さぞ美しいと思いますわ! 纏めてしまっては勿体ないですわ!」


 あああああ。姦しい。

 普段は落ち着きのあるしっかり者の印象のレイアも、しっかり彼女達に混ざり興奮気味に私の髪を上げて見たり横を編んでみたりしている。


 やがて話が付いたのか、私の髪は緩やかに両サイドを三つ編みにして、落ち着いたシックな赤いリボンのついた髪飾りで留められた。


 鏡に映る私は、次期国王の妻となるべく教育を受けていたあの頃の様に、銀の髪は香油を塗られてつやつやと銀糸の様に煌めいていたし、薄い化粧のお陰か、いつもよりも肌が透き通る様に白く見える。

 借りた服は大人っぽいが可愛らしいデザインで、私には似合わない気がしたが、こうしてみると意外にも違和感が無い。

 がっつりと手を加えられた気がしたが、少し上品そうな、商家の娘くらいに見える。

 馬子にも衣装とはこういう事か。


「ああああ、クリス様お可愛らしいー!!お似合いですわ───!」

「これなら団長もメロメロ間違いなしですわ!」

「セドリック様の驚くお顔を早く拝見したいですわ! まだいらっしゃいませんの?!」


 興奮気味に目をギラギラさせる救護班。普段は澄ました顔をして楚々としているのが嘘の様。

 ちょっと怖い。


 ノックの音が響くと、きゃあ───っと彼女達の黄色い声が上がる。扉付近に居たレイアがいそいそと扉を開けた。


 手を取り合って期待に満ちた眼差しを向ける彼女達と、扉の向こうで固まっているセドリック。

 シャツにベスト、リボンタイといったラフな服装だ。私の装いとも近く、隣に並んでも違和感は余りないだろう。


「その……。クリスと約束があるのだが……」


 困惑気味に言うセドリックに、すぐさま彼女達が答える。


「存じ上げておりますわ!!」


 勢いに押され、セドリックがたじたじになっている。彼女達の前では、死神と恐れられる男も形無しだった。私が椅子から立ち上がると、セドリックが気づいた様に私へ視線を向ける。その目がゆっくり見開かれた。


 じっと見つめられて何だかくすぐったい。彼女達が道を開けてくれる。


「あの、すみません、気づいたらこんなことになっていて……」


 少し申し訳なく思い、眉を下げて謝罪をすると、はっとしたようにセドリックが2度3度、ぱちぱちと瞬きをする。


「いや、少し驚いただけだ。……その……。綺麗だ」


 何かいう事があるだろう、さぁ言え、早く言えと目で訴える医療班の女性達に、セドリックは視線を彷徨わせて、お褒めの言葉を口にする。きゃぁ、と女性達の声が上がる。

 言わされた感が凄い。


 私は礼を言う暇もなく、ぐいぐいと背中を押され、セドリックと共に部屋を出る。騎士達がニヤニヤしながら待ち構えていた。


「クリスほんとに女の子だったんだ!!」

「凄い!ちゃんと女に見える!!」

「良かったなクリス、女装には見えないぞ!!」


 これは褒められているのだろうか。貶されているとしか思えない。すっかり見世物にされている気分だ。顔が熱い。

 ちらりとセドリックの顔を覗き見ると、セドリックの顔も赤かった。困ったように苦笑しながら頭を掻いている。


 ただの買い物だというのにこの騒ぎ。皆よほどこの手の事に飢えているらしい。セドリックのこういう顔が珍しいというのもあるのだろう。


 ひゅーひゅーと囃し立てる声に送り出され、私はセドリックの手を取って、彼の馬に乗せて貰った。

 今日はスカートだから、自分の馬は出さない。横乗りも出来るが、セドリックが自分の馬で行こうと提案してくれた。私の後ろにセドリックが跨る。


 距離が近い。背中に感じる体温に、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。


 ふと見ると、エルヴィエがレイアに声を掛けていた。頬を赤らめて、はにかんだように頷くレイア。

 エルヴィエも無事デートに誘う事に成功したらしい。


「それじゃあ…… 行こうか」

「はい」


 照れた様にしどろもどろになるセドリックに、私はうつむいたままこくこくと頷いた。

ご閲覧・評価・ブクマ・ご感想・誤字報告、いつも有難うございます! 誤字報告を頂いて今更ながらに知らなかったことがいっぱいあって目から鱗がボロボロ落ちています。セリフの「」の末尾には「。」は付けない、だとか、「・・・」ではなく「…」とか。 如何に思い付きで書いてたか改めて気づくっていう。これ大分恥晒してたんじゃないだろうか。今更だけども。折角なので、しっかり勉強して、直して行こうと思います。感謝感謝です! 次は夜に更新する予定です。

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