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31.瘴気の毒の持つ意味は。

***前回のあらすじ***

討伐も残すところ後2つ。討伐隊は北の森へと向かう。森の中に巨大な巣を作り上げていたのは、キラー・ビーという大きな蜂だった。ここに来て、討伐隊が一体となりキラー・ビーを殲滅する。休憩を兼ねてセインの案内で向かった泉で、セドリックに髪に口づけをされ、クリスティアナは大混乱のまま、次の討伐に向かうのだった。

「……だから謝っているだろう。そんなに怒るな」

「怒っていません!」


 休憩を終え、次の討伐先へと向かう。進路を西に取り、キラー・ビーの森を迂回する格好で進むと、やがて辺りは岩肌が多く見られるようになってきた。


 そう、別に怒っているわけじゃない。混乱してるだけだ。顔を見ると脳が沸騰しそうになるから、セドリックの顔を見ない様にして歩いているだけで。


「痴話喧嘩は討伐が終わってからにしてくださいね」


 先頭を歩くセインが苦笑をする。ほらみろ。怒られたじゃないか。

 セインのいう事はご尤もだ。私達が向かっているのは、魔物の居る場所なのだから。私は気を引き締める為に、2度3度頬を叩く。


 ふと見ると、セインが何とも言えない顔をしていた。悲しそうでもあり、怒っているようにも見える。呆れている様でもあり、憂いている様でもある。


「セイン殿?」


 声を掛けると、セインが立ち止まった。


「見えました。あそこです。 ──ゴブリンですね」


 見ると、岩場にぽっかりと洞窟が空いていて、見張りの様に2匹のゴブリンが洞窟の前に居た。

 が……。


 あれが、ゴブリン?


 緑色の肌、爬虫類を思わせる大きな目。尖った耳に、口から覗く牙。丸まった背。それだけ見れば違和感はないのだが、だが、身に付けているものが、何度か城の牢に連行される、盗賊の着ている服によく似ていた。

 少し貧しい平民の様な格好に胸当てを付けている。小さいと聞いていたが、ここから見えるゴブリンは普通の成人男性程の背丈だった。腰に剣を差している。


「各小隊ごとに1匹ずつ仕留める。──行くぞ」


 セドリックの声はいつもと同じく淡々としていた。弓兵が弓を引く。岩の影から狙い撃ち、見張りらしいゴブリンが倒れるのに合わせ、一気に中へとなだれ込む。色々と気になる事はあるが、今は魔物の殲滅だけを考える。


 通路は狭かったが、奥は広そうだ。直ぐに10匹程、ゴブリンが飛び出してくる。そのまま乱戦になる。


 妙な感覚を覚える。

 ゴブリンの攻撃は、騎士達の攻撃には大分劣るが、まるで人間の様な動きをする。フェイントを交えてみたり、味方を盾にしたりもする。少し、剣の訓練をする時の感覚に似ていた。人を斬った様な嫌な手ごたえ。これは本当に魔物なのだろうか。


 胸の奥がざわざわとする。

 ゴブリンは、騎士の敵では無かった。エルヴィエもチェスターも、困惑をしたような顔をしている。弓兵のジルや魔術師のクロードは、なんとも言えない複雑な顔をしていた。セインがしていた表情にどこか似ている。


 赤い血が、妙に生々しく感じた。


***


「瘴気を吸い込むとどうなるか。討伐が決まった際に聞いていますね?」


 帰りの道中、セインがぽつぽつと話してくれた。


「長く瘴気を浴びると、肉体も精神も侵されて瘴気が結晶化して魔物化する、でしたよね」

「ええ。兎角忘れてしまいがちですが、我々人も例外ではないのです」


 ──ドクン……。


 思わず足を止めた。軽くセドリックに背中を支えられ、また歩き出す。


「人は自分たち人間は特別だと、その枠には入らないと思いがちですが、我々人もまたこの世界に生かされている生き物なのですよ。瘴気の地は、ある意味宝の山と言えるでしょう。昼間に一度見ましたね? 水晶の泉を。あの水晶の大きな柱1つで、数か月は遊んで暮らせるでしょう。他にも魔物から取れる魔石に様々な魔力を含んだ鉱石、此処でしか採れない貴重な薬草。そういったものの欲に目がくらみ、森に居座り続け、やがて魔物になってしまう。我々がゴブリンと呼ぶものは、元は人間なのです」


 私は胸が詰まった。

 セインのあの表情は、ジルやクロードのあの表情は、そういう事だったのか。他の団員達も、複雑な表情で黙って黙々と歩を進めている。恐らく皆知っていたのだろう。私達よりも先に、同じようにゴブリンを退治することで。


「ああいう輩が入り込まない様に巡回をする。それも俺たちの仕事だ」


 恐らく彼らは盗賊の類だったのだろう。

 殲滅を終えた洞窟の奥に置かれていた古ぼけた木箱には、沢山の金貨や宝石、武具等が沢山詰まっていた。愚かと言えばそれまでだが、あの場に居たのがゴブリンではなく盗賊だったとしても、私達の討伐の対象となっただろうが、何とも痛ましい話だった。


 私を慰める様にセドリックにぽんぽんと背を叩かれ、私達は何ともやるせない気持ちで最後の討伐を終えた。

ご閲覧・ブクマ・評価、いつも有難うございます! サブタイトルちょっと変更しました。当然ですが、ゴブリンが元は人間だったという話はオリジナルの創作です。通常はゴブリンは妖精みたいな扱いになるっぽい? 次は明日のお昼くらいに更新予定です。

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