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30.北の森。

***前回のあらすじ***

東の森、最後の討伐へと向かう討伐隊。セインの案内でたどり着いたのは、巨大な毒々しい花を持つマンイーターと呼ばれる肉食の植物だった。多少苦戦は強いられるも、無事マンイーターを殲滅し、砦へと戻る最中に、セインから西側に闇溜まりが発生しない理由を聞く。近隣の村では西の森で取れるアクセサリーも売られているという事で、クリスティアナは皆に揶揄われながらも、セドリックと村に出かける約束をするのだった。

「大丈夫か? 目の下に隈が出来ているぞ?」


 翌朝、森の北側への討伐に向かう。森の入口で捜索隊と別れてから程なく、セドリックが私の顔を覗きこむ。

 誰のせいだと思っているんだ。


「ちょっと寝つきが悪かっただけです。問題ありません」


 いつも通りのセドリックに、ちょっとむかっとする。気になって眠れなかった私が馬鹿みたいじゃないか。大体今は討伐の最中で、私はまだ新米なんだ。集中しないとまずいのに一体何をしてくれているのか。

 最近妙に甘ったるい空気を発して来るお陰で、此方の調子が狂って仕方がない。どうにも落ち着かなくて、ぷい、と視線を逸らす。


 出来れば今日、2か所片付けたい。セインの話では、北側の2か所の闇溜まりは、割と近い場所で発生しているらしい。

 今まで倒したものよりは闇溜まりも然程大きくは無いらしいが、だからと言って油断は禁物だ。

 闇溜まりが小さくても、危険な場合が殆ど。前回よりも弱いだろうという推測は出来るが、相性次第では此方が全滅する場合もある。

 過信をしてはいけない。油断をしてはいけない。侮ってはいけない。

 それは判っている。

 だが、出来れば早く片付けて、ダグの捜索に加わりたかった。

 多分、自己満足なんだろう。

 このまま此処を去るのは嫌だった。何か痕跡だけでも見つけたい。

 あの時掴みそこなった手に、もう一度何かを掴みたかったのかもしれない。


「近いです……。見つけた、あれだ」


 セインの言葉に皆気が引き締まる。

 見えたのは大木を飲みこむ、瘤のように張り付いた巨大な蜂の巣だった。


「キラー・ビーの巣だ……」


 ヴン、っと耳障りな翅音が聞こえる。キラー・ビーは1匹がデカい。30㎝はあろうか。ただ、見た目は毒々しいのに、毒は無い。そう言った意味では前の闇溜まりの魔物よりはましかもしれないが、如何せん数が多い。

 噛みつかれたり針で刺されれば場合によっては命を落とす。巣の中に居る女王蜂を退治しない限り、幾らでも沸いて出る。闇溜まりが少なかったのは、闇溜まりを持つのが女王蜂だけだからだ。女王蜂さえ倒せば、残りの蜂は勝手に逃げていくらしい。

 炎に弱い性質なので、炎系の魔力持ちが巣を焼き、飛び出して来た蜂を残りの者で殲滅する事になる。飛べる分厄介だ。


 弓兵の矢の先に布を巻き付け、そこに火をつけて巣を射る。

 飛び出して来たキラー・ビーを真っ先に迎え撃つのは私とエルヴィエ、後数名の身軽な騎士だ。駆け抜ける私のすぐ横を、セドリックの放つ炎が渦を巻き一直線に飛ぶ。

 炎を掻い潜り、襲い掛かってくるキラー・ビーを一閃する。セドリックの炎は私には当たらない。半ば無意識にそれを確信する。次々と私の傍を掠める炎にも、不思議と恐怖は覚えなかった。

 緑色の体液を浴びながら、次々と襲い掛かるキラー・ビーを薙ぎ払う。


 バシャリと後ろから体液が掛かる。私と背を合わせる様に、セドリックが私の背後から襲い掛かってきたキラー・ビーを一閃した。セドリックに背を預けていると言うだけでこの安心感。流石は団長。

 私の前をエルヴィエが風の様に駆け抜ける。とっても生き生きとしている。楽しそうだ。

 次々に矢が飛び、巣が炎を上げる。

 チェスターは一振りで数匹のキラー・ビーを一度に叩き切っていく。走ったりするのは早くないのに、剣を振るう速度はやたらと早く流れる様な剣さばき。縦横無尽に大きな剣が踊る。正に無双といった感じだ。


 巣から炎に巻かれ、女王蜂が姿を現した。


「クリス!」

「はいッ!!」


 セドリックの呼びかけに私は女王蜂へと駆ける。私の真横を次々に矢が飛び、私の道を切り開く様に、エルヴィエが、騎士達が、キラー・ビーを切り裂いていく。

 私の前に一直線に女王蜂への道が開けた。

 鋭い鋏の様な顎で噛みつこうとガチガチと音を立てる女王蜂は、1mを優に超える。ヴーーっと不気味な音を立て、風が巻き起こる。巨大な翅を羽ばたかせ、上空へと離脱するつもりの様だ。飛びかけた女王蜂の翅を、弓兵の放つ火矢が貫く。あっという間に翅が炎に包まれ、女王蜂が地面へと落ちる。

 私は女王蜂の口を避け一気に女王蜂に触れる距離まで接近し、魔力を手へと集めた。団長と繰り返し行った訓練が活きて来る。

 足を、首を、腹を。踏み込んでは牙を避け、関節に重点を置き、氷の魔力で凍らせていく。1度触れるだけでは凍り付かせることは出来ないが、何度も同じ場所に触れることで、徐々に動きを鈍らせる。

 私が女王蜂に触れるタイミングに合わせ、セドリックが女王蜂の死角となる逆側から剣を振るい、他の団員達は私とセドリックの邪魔をさせまいと私達に背を向ける形で飛び交うキラー・ビーを次々と切り下ろし、矢で打ち落としていく。


 一瞬剣が煌めくのを見た私が後ろに引くのと同時、セドリックとチェスター、副団長のライドの3人が一気に女王蜂の腹を貫いた。


 四肢を奪われた女王蜂は、少しの間ガチガチと口を鳴らしていたが、やがて動かなくなった。


 体液でどろどろだ。だが、良い感じに連携が取れたんじゃないだろうか。赤の騎士全体に一体感が生まれた様で、少し嬉しい。第三小隊に守られていたセインが歩み寄ってきた。


「闇溜まりの消滅を確認──。 ……少し先に泉があります。もう一つの闇溜まりはその先です」


 泉。良いな。べたべたぬとぬとするし、洗い流したい。セドリックが団員の様子を伺う。今回は大きな怪我人は出なかったらしい。擦り傷や切り傷程度はあるが。


「どうだ? もう1つ。行けるか?」

「行けます!!」


 団長の声に、おう、っと元気な声が返ってくる。


「よし。セイン。泉へ案内を頼む。聖水を補給して、少し休憩を取ってから次の闇溜まりに向かう」


 団長の鶴の一声で、私達はセインの案内で泉へと向かった。


***


 セインに案内をされた泉は、次の討伐ポイントから少し東に外れた先にあった。

 不思議とこのあたりは瘴気が無い。あれだけの闇溜まりの近くで、何故瘴気が無いのだろう。不思議に思いセインに尋ねてみると、どうやらこの泉に理由があるらしい。


「泉の底を覗いてみてください。何が見えますか?」

「白い……。あれは、水晶群?」


「ご名答です。こういった闇溜まりの発生する場所には、こういった水晶が多くみられます。あの水晶には瘴気を吸い込み、正常な空気や水に変えるといった性質があるのですよ。あの水晶によって清められた水は清浄な空気を放出します。故にこのあたりは瘴気が育たないんです。我々が飲む聖水も、こういった水晶を沈めた水を、10日間月光に当て、夜通し祈りを捧げることで聖水となります。まぁ、不謹慎ですが祈りはオマケの様なものですからね。つまり、ここの泉は聖水と同じ効果があるということです」


 ……なんかそんなご利益高そうな泉で汚れを落とすのはとても罰当たりな気がする。聖水って確か馬鹿みたいな値段がしたはずだったが。


 思わず考え込んでしまった私の横を、早々と甲冑を投げ捨てて駆けだしていくエルヴィエ。

ひゃっほーい、っと子供の様にはしゃぎ、泉から流れ出た川にそのまま突っ込んでいく。他の騎士達も甲冑を脱いで川へ飛び込んでいくのが見えた。


 一瞬値段を考えて怯んだ私が馬鹿みたいだ。まぁいいか、と私も甲冑を脱ぎ、川へと向かう。セドリックも、川に頭を突っ込んで髪に付いたキラー・ビーの体液を洗い流していた。私もセドリックの隣で体に付いた汚れを落とす。


 水はとても冷たくて、火照った体に心地良い。横からすっと布が差し出された。

 濡れた髪の間から笑みを浮かべるセドリックは、妙に色っぽい。

 大柄な事もあって、無骨な印象だが、セドリックはかなり綺麗だと思った。無駄の無い筋肉も、男っぽい骨太の手も、良く焼けた褐色の肌も、均整が取れていて、見ようによっては芸術品の様だ。大柄という意味ではチェスターもかなり大柄だが、チェスターは鍛えすぎて熊の様だし。


 まじまじとついセドリックを凝視してしまっていたらしい。ん?と首を傾げ此方を見下ろすセドリックに、何でもありませんと答え、私も借りた布で濡れた髪を拭く。


 皆思い思いに乾いた喉を泉で潤し、携帯食を受け取って食事を始めている。私も食事を受け取りに行こうとしたら、つんっと髪が引っ張られた。振り返ると、セドリックが私の髪を一房手に取っている。


 ……あの。行けないんだけど。休憩の度に甘い空気振りまかないでほしい。集中力が途切れるだろうが。


 じっと私の髪を見つめていたセドリックは、何を思ったのかその髪の一房に口づけた。


 ちょっと────────────────────────っ!!!!??


「……あ。  すまん。つい」


 セドリックが私の髪から手を放す。

 ついってなんだ、ついって。

 私はあわてて髪を引き寄せて抱きかかえ、陸揚げされた魚の様に口をぱくぱくとさせた。

 顔が沸騰しそうだ。待って。何今の何今の。そっぽを向いたセドリックの耳も赤い。


 キラー・ビーの体液水で落としただけの髪に口づけないで欲しい。

 臭いんじゃないか? 寧ろ汗臭いんじゃないだろうか。どうせならちゃんと手入れしてる時に、じゃなくて。そうじゃなくて!!


「……あのさ? せめて討伐終わってからにしてくんない? こんなとこで砂糖に埋まりたくないんだけど」


 呆れた様なエルヴィエの声。


 ……それは寧ろ私が言いたい。

いつもご閲覧・ブクマ・評価・感想・誤字報告、有難うございます!!やっと金曜日ですねー。戦闘続きになっていますが、次回で討伐のお話は終わりです。舞台はまた城を中心としたものに戻ります。バトルばっかでうんざりしてた方すみませんっ。今日はもう1つ書けるかなぁ・・・。明日になるかもしれません。早くて深夜、遅くても明日のお昼には更新する予定です。

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