表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/52

03.幼い日の約束。

***前回のあらすじ***

婚約破棄を言い渡されたクリスティアナは迎えに来た従者のグレンと共に家へと帰された。幼い頃から次期国王としての資質が足りなかったロンバートは、努力が報われない事に失望し、そんな中出会ったシェリナに恋をした。シェリナもまた苦労をしてきた令嬢で、クリスティアナはこんな事さえ無ければ、二人の仲を祝福し、婚約解消をするつもりだった。クリスティアナには、叶えたい夢があったのだ。

「本当に良いのか?」


 夜。

 帰宅をした父と、がっくりと肩を落とす母と、眉間に皺を寄せてそっぽを向く兄とテーブルを囲む。


「ええ。一応殿下にはお話は後日聞くとお伝えしたのですが、聞き入れては頂けなかった様で。まさかあの場で言い渡されるとは想定外でしたが、私に異論はありません。どうぞ婚約破棄を受け入れるとお返事をなさってください。断罪については少し考えねばなりませんが」


 やっぱりマリエッタの淹れるお茶は美味しい。口元を綻ばせ、私はそう父へ告げる。

 頭痛がしてきたわと呻く母と、そうかー、っと額を押え呻く父。隣に座る兄から盛大なため息が漏れる。


「しかしな。クリス。お前も判るだろうが、流石にあれは駄目だろう。お前はもっと怒っても良いと思うのだが」


 苦虫を噛み潰した様な顔で眉間をぐにぐにと解す父のいう事も、尤もではある。私だって怒らなかった訳じゃない。婚約破棄に、じゃない。あの場で断罪をしたことに、だ。


「過ぎてしまった事は致し方ありません。何とか陛下にお願いをしてみます。出来れば私はロンバート殿下にお仕えしたいのです」


 ロンバートのやらかした事は、王位継承権剥奪が妥当だ。王家主催の夜会、それも各国の要人の前で、冤罪を生み出したのだから。


 けれど、サーフィス殿下を次の王位に当てる、と言うのもまた問題ではあるのだ。

 サーフィス殿下自身に問題があるわけでは無い。

 問題なのは、サーフィス殿下を推す貴族の中に、獅子身中の虫が居る、というのが問題なのだ。

 明確に刺客が送り込まれたり、毒を盛られたりがあったわけでは無い。

 が、事故と言うには不自然な事が、多々あるのだ。

 ロンバートの部屋に蠍が紛れ込んだり、遠乗りの最中に馬が暴走したり、馬車の車輪が外れたり、外交のルートで落盤があったり。

 それが1度や2度で無いのだから、危ぶむのも当然と言えよう。


 サーフィス殿下が王位に収まれば丸く収まる、とも思えなかった。

 何が目的かは不明だが、サーフィス殿下を担ぎ上げ、王位に据える事で甘い汁を吸える者が少なからず居て、現国王を退かせ、ロンバートを排除しようとする動きがあるのは確かだった。


 それに──。


 幼い日に交わした約束を、私は忘れては居ない。


***


 幼い頃、私は良く父に連れられ、王宮でロンバートと遊んだ。

 幼い頃は病弱で、気が弱かったロンバートを私は無理やり手を引いて木登りをし、草の上を転げまわり、泥んこになって遊んだ。

 少しずつ、ロンバートも活発な子供になっていった。

 ロンバートの友達は、私だけだった。

 ロンバートは、私を男と思っていたらしい。

 私は動きにくいドレスを嫌がり、少年の様な格好ばかりしていた。だから私にも同じ年頃の女の子の友達は無く、ロンバートだけが友達だった。

 最初の内は無理やり着せられたドレスも、毎回泥だらけにし、時には破いて帰ってくる私に、母も匙を投げたらしい。私の好きにさせてくれた。


 そうして、6歳になったあの日。

 ロンバートと私が婚約をしたあの日。

 私はロンバートと秘密の約束をしたのだ。


 婚約を決めるという事で、強引に着せられた淡い水色のドレスにリボン。

 その姿を見てロンバートはげらげらと笑い、国王に諫められていた。


「クリスはお前のお嫁さんになるのだから、クリスを守ってやるんだぞ」


 そう国王陛下に言われた時


「私の方がロンよりも強いから私がロンを守るよ!」


 そう言って、ロンバートと取っ組み合いの喧嘩になったりも、した。

 けれど、その後二人きりになった時に、ロンバートが私に言った。


「クリスにドレスやリボンは似合わない。着飾ったお前より、いつものお前が良い。俺とお前は相棒だ。だから、忠誠を誓うなら、お前は妃じゃなく、俺付きの騎士にしてやる」


 と。

 私は、それが嬉しかった。

 令嬢らしからぬ私を、私のままで良いと言ってくれたロンバートのその言葉が。


 婚約が決まってからは、私は未来の王妃としての教育を施された。

 ロンバートと泥んこになって遊ぶ事も、無くなった。


 けれど、本当は。


 私は護られるのを望む女じゃない。

 私はロンバートの相棒として、努力をしても報われない、この意地っ張りで虚栄心ばかり強い、寂しがりやの王子様を護る騎士に、なりたかったのだ。


ブクマ有難うございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ