24.討伐。
***前回のあらすじ***
討伐隊が編成された。クリスティアナは仲間と共に東の森のあるコンフォート砦へと向かう。少しずつ、セドリックとの距離が縮まっていた。討伐を明日に控え、クリスティアナは言いようのない不安感に襲われていた。
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残酷な描写が含まれています。メンタル削れるかもしれません・・・。
夜明け前、砦正門の前に、私達は集合をしていた。セドリックの声に、ざわめきが止み、ピリッとした緊張が走る。
「これより東の森における瘴気の除去及び魔物の討伐を行う。第三小隊は魔導士の護衛を最優先としろ。セイン殿は闇溜まりを見つけたら都度報告をお願いする。先頭は第一小隊。第三小隊はその後方に付き闇溜まりを発見次第速やかに第ニ小隊は第三小隊の前へ。しんがりは第五小隊。後方の警護を怠らぬ様に」
セドリックが名を言えば、第三小隊の魔導士、セインが一歩前に出て頭を下げる。
魔物は瘴気より生まれる。瘴気が結晶化し、その結晶を核として持つのが魔物だ。魔物は瘴気の中でしか生きられない。その為、魔物は少しずつ瘴気を広げる。故に魔物が居る場所は、強い瘴気を発している。その魔物の吐き出す瘴気が溜まった場所、それが闇溜まりだ。
セインはその闇溜まりを読む事が出来る。つまり今回の討伐に、セインは欠かせない、という事だ。
薬師団の手によって聖水が配られる。この聖水は神殿で精製されたもので、体内に入った瘴気の毒を中和する。長く瘴気を浴びると、肉体も精神も侵され、やがて吸い込んだ瘴気が結晶化し、魔物化してしまう。
「聖水を!」
セドリックが聖水の入った小瓶を掲げる。セドリックに倣い、私達も聖水を掲げ、飲み干した。
飲み終えたガラスの小瓶は地面に叩きつけて割る。ガラスの砕ける音が響き渡る。
これは士気を上げる効果もあるらしい。
「出立!」
セドリックの号令に、私達は砦の門を潜り、砦の向こうに広がる森へと踏み込んだ。
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入口の当たりはまだ、鳥が囀り、普通の森と言う感じだったのだが、半時程進んだあたりから、愛らしい小鳥の囀りは徐々に聞こえなくなり、ぼんやりと、霧の様にうっすらと赤い靄の様なものが漂い出した。
この靄が瘴気らしい。生臭い、腐臭ににた匂いがする。
護衛に囲まれ、勾配のある道なき道を先頭を行くセインが示すままに進めば、赤い靄は徐々に赤黒い血を霧に流した様な色になる。匂いだけで具合が悪くなりそうだ。頭が重い。
やがて片側が崖になる。ずっと下にも森が広がっていた。落ちたらひとたまりもない。逆側は森とはいえ広さがあるからまだいいが、狭くなったら大分分が悪い。
「──近いです」
セインの言葉に、第二小隊が前に出る。
緊張が走る。
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
息を殺し、周囲を警戒する。
セドリックも剣を抜き、じりじりと進む。
──オオオォォォォ────────ゥ
「──発見!!!」
狼の様な遠吠え。第二小隊に居たエルヴィエの鋭い声が飛ぶ。茂みの向こうに幾つもの赤い目が光る。
黒い、バサバサの毛の狼の様な魔物の群れだった。ギョロリとした目は大きく、大きく裂けた口元からは鋭い牙が覗く。だらだらと口からは、糸を引く様に涎が垂れている。地面に落ちると、ジュっと焦げるような音がした。魔物は私達を崖側へと追い込む様に広がっていた。
エルヴィエの声を合図とするかのように、黒い魔物は茂みを飛び越え一斉に襲い掛かってくる!
「クリス!!」
「はいッ!!」
弓兵のジルが1匹に狙いを付け、その鼻先向けて矢を放つ。私はジルの矢に合わせ、魔物への接近を試みた。
大丈夫。やれる。行ける。
直ぐ後ろをセドリックが追う。
弓兵の牽制に横へと跳ね避ける魔物の動きを読む。着地のタイミングで、剣を手に踏み込み、直ぐに大きく横へと身を翻す。私が踏み込むことで私に意識の向いた魔物は、鋭い鉤爪を振るう。その攻撃の瞬間を狙い、セドリックの剣が弧を描いた。魔物の首がスパーーンっと飛び、鮮血が舞う。血飛沫が降り注ぐ。
私とセドリックが1匹を仕留める間、弓兵のジルと魔術師のクロードがこちらを狙う魔物を牽制していた。すぐさまジルの牽制した魔物へと狙いを移し、先ほどの要領で魔物をかく乱する。私にピタリと張り付いているセドリックが、次々と魔物を仕留めて行った。
5匹の魔物を仕留めた処で、魔物は全て動かなくなっていた。崖下に叩き落したものも居た様で、数は大分減っていた。
皆、荒い息を吐き、返り血を拭う。座り込んでいる者もいた。私も膝に手を当てて、呼吸を整える。
「お疲れさん。怪我は無かった?」
ダグラスの声に顔を上げる。
「ああ、大丈──」
言いかけたところで、険しい顔で周囲を見渡すセインが見えた。
「セイン。どうした?」
セドリックが、セインへと声を掛ける。
焦った様に、セインがセドリックに向きなおる。
「セドリック団長!まだです、闇溜まりが消えていません!!」
「!全員体制を整えろ!!」
セドリックの声に緊張が走る。第三小隊の騎士が剣を抜きセインを護る。
どこだ?!
視線を巡らせる。
「そこですッ!!」
「ッ!?」
「「クリス!!!」」
セインの声と同時。
私に向かって風の様に飛び出して来た真っ黒い熊の様な魔物が視界いっぱいに広がった。
咄嗟に腕でガードする。セドリックとダグラスの声が同時に私の名を叫ぶ。激しい衝撃で吹き飛ばされた。2度3度地面に叩きつけられ、口の中に血の味が広がる。寸での所で崖からの落下は免れた。
口に溜まった血を咳込みながら吐き出して顔を上げると、追撃を仕掛けんと、魔物が私に向かって突進して来るのが判った。次に喰らったら、崖下への落下は避けられない。何とか避けようと立ち上がり掛け、足首に激痛が走る。
まずい──。
ダグラスが魔物を追って切りかかるのが見えた。魔物の後ろから、セドリックも剣を突き刺す。次々に魔物の体に矢が突き刺さる。
雄叫びを上げ、魔物が身を捩る。大地を震わせるような咆哮をあげ、魔物が闇雲に腕を振り被った。
ゾ ク リ。
危ない───!
そう、叫ぼうとしたのに。
喉が、張り付いた様に、声が出ない。
見開いた目が、離せない。
届く筈の無い距離なのに、無意識に、手が伸びた。
─── ド ク ン……
ダグラスの、からだが、まもののうでに、はじかれる。
─── ド ク ン……
おどろいたような、ダグラスの、かお。
─── ド ク ン……
ふきとばされた、ダグラスのからだ、は。
─── ド ク ン……
わたしの、よこをふきとんでいく。
はりついたような、わたしのめは、ダグラスから、そらせない。
ダグラスの、とばされた、そのさきには──────
じ め ん が 、な か っ た 。
目が、あった。
おどろいたように、みひらかれたままの、そのひとみ。
わずかにあけられた、くちもと。
伸ばした手は、空を掴む。
───いやだ。 いやだ! いや──────!!!
ゆっくりと、ダグラスのからだが、とおのいていく。
「──ダグ・・・ ダグラスッ! ダグラス─────────ッッ!!!」
喉が焼き切れそうな程、彼の名を、呼んだ。必死に遠のいていく彼の姿に手を伸ばす。
私の、血を吐く様な叫びだけが、暗い森に、木霊する。
小さくなっていくその姿は、深い森の中に消えて、見えなくなった。
いつもご観閲覧有難うございます!
ダグラス推しという方(いるのか分かりませんがもしいたら)、ごめんなさいっ。ちょっとお叱りが怖い・・・。
次の更新は、明日の予定です。




