22.シェリナからの手紙。
***前回のあらすじ***
ロンバートと別れてから、クリスティアナはシェリナの元に報告に訪れた。それから時が流れ、やっとセドリックの攻撃を全て避けれるようになったクリスティアナは、ついにセドリックの急所に拳を当てる事に成功する。が、直ぐに一撃をくらって気を失ってしまったクリスティアナだったが、目覚めた後に眩暈でふらついたところをセドリックに支えられ、慣れない感情に戸惑うのだった。
「さっきは驚いたな。団長を笑わせるなんて、何をしたんだ?クリス」
訓練の後、着替えを終えて馬車へと向かう最中に、ダグラスに声を掛けられた。肩を並べて歩く。ダグラスの言葉に、私は軽く肩を竦めて見せた。
「別に面白い事は言ってないけど。単に体起こしたら眩暈がして、よろけたところ支えられたから咄嗟の事で驚いただけだよ?」
「は?それ面白いの?」
ダグラスがきょとんとした顔をする。寧ろそれは私が聞きたいんだが。
「私が男性に支えられるのに慣れてなくて驚いたのが面白かったみたい。私でも女の子らしいところがあるのかって言われた。」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・ん?」
「「・・・・・・・・・・・。」」
「あっ!! 忘れてた!! そう言えばクリスって女の子だったっけ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ああ、うん。そうだね。一応女だよ性別は。
見た目も女には見えそうも無いもんね、うん知ってる。
じとっとした目でダグラスを睨み付ける。
「ごめんごめん、冗談だよ。ちゃんと覚えてたって、ほんと」
嘘くさい。
ぽんっと頭に手をやられそうになって、がぅっと噛みつく真似をする。ダグラスが慌てて手を引っ込めた。
「ぅわっ。あっぶないな。クリスって本当にあのクリスティアナ=アデルバイド公爵令嬢? お淑やかで気位の高い氷の令嬢にはとても見えないんだけど。猛獣でしたって言われる方が納得する」
「五月蠅いな。そのクリスティアナ=アデルバイドだよ。令嬢らしくなくて悪かったな」
んび、っと舌を出して見せる。
ダグラスは可笑しそうに笑った。
***
帰宅をするとグレンが手紙を届けてくれた。
シェリナからの手紙だ。封蝋に香水を練り込んであるのか、ふわりと良い香りがした。
彼女は今、オッド男爵を手伝って、書類の整理などの政の公務にも携わらせて貰っているのだとか。最近では、怖くて中々行けずにいた貴族のお茶会や夜会にも出席をしているのだそう。
社交界は様々な情報が行きかう。ただの雑談の様に見えて腹の探り合いだ。ロンバートの傍へ行くために、強くなりたいと書かれていた。
ロンバートの謹慎も間もなく解ける。もうすぐ会えると手紙が来たと、嬉しそうな様子が伝わってきた。
「シェリナも頑張っているみたいだね」
読み終えた手紙を丁寧にたたみ、リボンで留めて文箱へと納める。読み終えたタイミングを見計らって、マリエッタがお茶を淹れてくれた。
「ええ、あの子飲みこみが早いですね。好奇心も旺盛らしくて、気になる事はかなり突っ込んで質問してきます。シェリナ嬢が焼いたというお菓子を頂きましたが、かなり美味しかったですよ。あれは良い嫁さんになると思います。ロンバート殿下って見る目あるんですねー。お嬢から乗り換えたの大正解だと思いますよ」
どういう意味だ。
それは私が良い嫁にはなれないと言いたいのか。
……なれないだろうな。うん。正論だ。
正論過ぎてぐうの音も出ない。
ぎりぎりと歯噛みをして拳を震わせる私。マリエッタがこら、っとグレンを肘で突く。グレンはちろっと舌を覗かせると、ふ、っと表情を変えて僅かに眉を寄せ、話題を変えた。
「──時にお嬢、知ってますか? 最近東の森でまた魔物が活性化してきたそうですよ。近隣の村人が襲われたそうです。そろそろ大々的な討伐隊が組まれるだろうって」
グレンの言葉に、マリエッタの顔がさぁ、っと青ざめる。
魔物の討伐は、赤の騎士団の仕事だ。時期的に見ても、私達の初陣となる可能性は高い。
騎士となるという事は、戦地に赴くという事でもある。判っては居た事だろうに、かたかたと震えるマリエッタの手を、私はそっと握った。
「大丈夫。その日に備えてしっかり訓練を積んできたんだ。心配は要らないよ。ちゃんと無事に帰ってくる。まだ討伐隊に加わると決まったわけでは無いんだし、そんな顔をしないで?」
私が微笑むと、マリエッタは、そうですね、とぎこちなく笑みを返してくれる。
──私の、討伐隊への参加が命じられたのは、それから3日後の事だった。
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