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17.公爵令嬢、ヒロインに会いに行く。

***前回のあらすじ***

騎士団団長、セドリックの訓練はスパルタだった。筋肉痛に打ち身に擦り傷で動くのもままならない程疲労困憊するクリスティアナだったが、マリエッタのマッサージで疲れを癒される。どれほど厳しくとも、生きているという実感をクリスティアナは噛みしめるのだった。

 慣れない騎士としての訓練の日々はあっという間に過ぎていき、久しぶりの休日。

 私はシェリナの屋敷へとグレンと共に向かっていた。

 服はグレンが用意してくれた男物。

 あの日以来、シェリナとは会っていなかった。

 久しぶりの再会に、少しの緊張と不安。この格好で彼女に会うのは初めてだ。

 シェリナは少しは落ち着いただろうか。


 予め使いを出していたこともあり、屋敷に着くと執事が応接室へと案内をしてくれた。

 待つ事数分、ノックの音が響き、顔をのぞかせたシェリナはそのまま硬直してしまった。

 良い反応。ちょっと嬉しい。


 私は腰を下ろしていたソファーから立ち上がり、胸元に手を当て一礼する。


「お久しぶりです。シェリナ様」

「え、え、クリス様? えーーーー、どうなさったんですか? その格好……! あ、お似合いです! とっても!」


 両手で頬を押さえる様にして興奮気味に目を輝かせるシェリナ。ほんのり赤く染まる頬が愛らしい。

 良かった。いつものシェリナだ。


「ぁ、どうぞお掛けになって? グレンさんも、どうぞ」


 シェリナに勧められて、私はソファーに腰を下ろす。私の後ろに仕えていたグレンも、どうもと私の隣へと腰を下ろした。

 グレンは私がシェリナに付き合えない間、彼女の教育係を頼んである。お互いすっかり馴染んでいる様だ。


 慣れた手つきで侍女が運んで来てくれたお茶を、シェリナ手ずから淹れてくれる。


「ロンバート殿下は、謹慎を仰せつかったそうだよ。まだ当分は城から出られないらしい。ああいう事があった以上、ロンバート殿下の国王即位は厳しくなったね。王位継承権の剥奪は、国王陛下に思い留まって頂いているけれど、いつまでも今のままではいられないだろうし。シェリナ。貴女はどうする?妃教育を続けていても、王妃になるのは叶わないかもしれない」


 随分と頑張ったのだろう。

 シェリナの所作は見違える程優雅になっていた。

 私の砕けた口調に、少し驚いたように目を丸くし、直ぐに嬉しそうに微笑むシェリナ。


「クリス様。私は元より、王妃になる事を望んでいたわけではありません。ロンバート様のお傍に居たい、ロンバート様を支えたい、それだけです。あの方がどのような道を進まれたとしても、お傍で支えて行きたいんです。私、王妃になる為のお勉強だけではなく、今はお料理やお裁縫も勉強しているんですよ。まだまだ下手なんですけれど。お庭で野菜を育てたりもしているんです。どんな所でもついていける様に」


 はにかむ様に笑うシェリナは、何だかみずみずしい可憐な花の様で、瞳をキラキラとさせて語る様は、とても輝いて見えた。ただ嘆いているだけじゃなく、この娘は自分で自分の道を決めて歩き始めている。


「クリス様は、騎士になられたとグレン様から伺ったのですが……。大丈夫なのですか? 騎士の訓練と言うのは過酷なのだとお聞きしました。毎日とてもお疲れと伺って心を痛めておりました。もうお怪我は大丈夫なのですか?」


 心配そうなシェリナに私が答える前にグレンが横から口を挟む。


「大丈夫大丈夫、元々お嬢は野生の猿みたいな方ですから。殺しても死にませんよ。寧ろ多少ボロボロになってるくらいがお嬢らしいです」


 手をぱたぱたと振ってケラケラと笑うグレンの足を私は思いっきり踏んづけてやった。

 大概失礼だな。こいつは。

 まぁ、私もその通りだと思うから何も言い返せないけど。


「訓練はきついけれど、最近はやっと団長の剣を避けれる様になってきたんだ。筋肉痛も大分マシになってきたし、最近では爪先の向きや剣の切っ先の向きで次の攻撃を読めるようになってきたし、少しずつ出来ることが増えていくのは楽しいよ。討伐隊に加われる様になって初めて一人前の騎士を名乗れるって所かな。いつか私も、ロンバートに仕える事の出来る騎士となれるように頑張るよ。その時は、シェリナはロンバートの妻になっていて、私がシェリナにお仕えすることになるのだろうね。貴女を護る騎士となれるのは僥倖だよ。その日が楽しみだ」


「私もクリス様とご一緒出来たら嬉しいです」


 嬉しそうにシェリナが笑う。

 ただ、ほんの少し、その笑みに慈しむ様な、何かを見越している様な、そんな色が浮かんでいた気がするのだが。気のせいだろうか。


***


 ロンバートが、漸く周囲に目を向け始めたのは、何日も経過してからだった。

 特に他意があったわけでは無い。ただ、ふと、クリスティアナが今どうしているのかが気になったのだ。


 警護に当たっている騎士に声を掛ける。そこで初めて、クリスティアナが赤の騎士団に入団したことを知った。


「クリスが、騎士に……? 何故……」


 クリスティアナが何を考えているのか、分からなかった。そのまま令嬢として、別の誰かと婚約でもするのだろうと思っていた。自分は何も知らない事に、気が付いた。


 自室の机の隅に置かれた文箱を開ける。

 中には、綺麗に束ねられ、リボンで留めたシェリナからの手紙に混ざり、無造作に放り込まれた何通かの手紙。クリスティアナが寄越したものだ。

 内容は日々の他愛もない事。そうして最後に毎回、話したいことがある、時間を作って欲しいと綴られていた。


 俺の気を引こうとしている、そう思っていたが、クリスは何を話そうとしていたのだろう。シェリナが違うと言っていた意味も、恐らくクリスは知っている。

 クリスに、会わなくては。

 今度こそ、きちんと話をしなくては。


 何か、自分はとんでもない誤解をしていたのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。もしもそうなら、例え許しを得られなくても、誠心誠意、謝罪をするべきだ。頭を下げて教えを請おう。


 ロンバートは即行動に移しかけるのを留まって、クリスティアナとの面会を許して頂けるよう願い出る為、父王の部屋へと向かった。

ブクマ&感想&評価&誤字報告、有難うございます!ブクマ3500件超えました!感想20件目頂きました!なんと、週間ランキング4位、日間ランキング3位頂きました! 友人に言われるまで気づかなかったというこの体たらく・・・。ちょっとガクブルしています。 大顰蹙のDQN王子、漸く動き出しました。今日はもう1本投稿出来るかな?頑張ります!

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