15.公爵令嬢、騎士の訓練を受ける。
***前回のあらすじ***
騎士の正装が届けられた。真新しい騎士の正装に身を包んだクリスティアナは騎士叙任式を経て、晴れて騎士の仲間入りを果たした。
屈強な男がずらりと並ぶ様は圧巻だった。
城内で見かける騎士は、優美な装飾の施された白銀の甲冑に騎士団の象徴とも言える色を纏ったサーコートとマントと言う出で立ちで、何処か美丈夫といったイメージだったが、こうしてみるとごつい。筋肉凄い。
そうか。
騎士服と言うのは2割増しなんだな。
新たに叙任を受け、赤の騎士団に配属をされたのは私の他に三人。ずらっと並んだ騎士の前に立ち、名前を呼ばれれば一歩前に出る。
エルヴィエ=アントリム。
チェスター=シンプソン。
ダグラス=ルトラール。
私は、クリス=アデルバイドの名で呼ばれた。アデルバイドの名を知らない者は居ないだろうし、嫌悪の眼で見られたりするだろうと身構えたが、流石は騎士と言った所か。皆表情を崩さない。
挨拶を済ませ、軽く基礎訓練に入る。
いや、軽くと聞いたけれど、実際は尋常じゃなくハードだった。全身が悲鳴を上げる。あっという間に酸素が足りなくなって喘ぐ。へばると容赦なくバケツの水をぶっかけられた。
私だけでなくエルヴィエもダグラスも滝の様な汗を流してひぃひぃ言っている。まともに着いて行っているのは新入団者の中では一番大柄なチェスターだけだった。
フラフラになりながら、何とか基礎訓練を終えると、少しの休憩の後、直ぐに講義を受けることになった。講師は白の騎士団の副団長で、私と同じように新たに叙任を受けた騎士達が10人ほど集まっていた。諸外国との関係などの基礎的な知識から各騎士団に与えられた任務、書類の書き方まで短時間で詰め込んでいく。不思議な事に騎士として必要な知識だと思うと、まるで水がしみ込む様にするすると頭に入った。
昼を告げる鐘が鳴り、思い思いに昼食を取りに行く。私は赤の騎士団の新入り組と一緒に食堂へと向かった。この食堂は城に仕える者の為の食堂で、庶民的な料理が並ぶ。私はゴロゴロと肉の入ったスープにライ麦パン、果実水にした。形式ばらずに食べられる、飾り気の無い食事が嬉しい。
「クリスってあれだろ?ロンバート王子に婚約破棄されたっていうご令嬢?」
ダグラスの言葉に、エルヴィエが口に含んだ水をブーっと吐き出した。チェスターは興味が無いらしくちら、っとこちらを見ただけで黙々と大きな肉にかぶりついている。
「うん。そうだよ」
ダグラスの口ぶりは、今日は晴れたね、と言うくらいに軽いものだったから、私もさらっと返しつつ、エルヴィエに手拭を渡す。
「思い切ったよな。公爵家のご令嬢が騎士団に入団するなんて前代未聞だろ?騎士の訓練なんて絶対無理だと思ってたのにさ」
けらりと笑うダグラスに、私も思わずつられて笑った。
「ああ、うん。想像以上にきつかったのは確かだな。死ぬかと思った」
「いや、令嬢じゃなくても死ぬわあれは。俺も死ぬかと思った」
「な。あれで基礎訓練だぜ?午後が怖ぇ」
「うんうん」
──良かった。
誰も私を令嬢として扱わないでくれる。
事情を知っていても普通に話してくれる。
食事をしながら他愛もない話をする。
ダグラス──ダグは、鳶色の髪と瞳で精悍な顔立ちの割に性格は子供っぽい。
今年18歳で、今年17歳になる私の1つ上になる。犬が苦手というのが、何だか可愛らしい。明るい性格で良くしゃべる。思った事と言葉が直結しているらしい。普通なら言いにくい事もぽんぽんと口にする。
エルヴィエ──ヴィーは、少しおっとりとしていて、穏やかな性格だ。
柔らかそうな金髪は癖のある猫っ毛で、ふわふわとしている。年下かと思ったら、23歳だそう。ダグ曰く、訓練の時は別人の様だったそうな。ちょっと想像がつかない。
チェスターは、寡黙な性格らしい。
大抵誰かが話すのに相槌を打っている。見た目も熊の様で、短い黒髪はわさわさと逆立ち、少し固そうだ。グレイの瞳は少し怖い印象を与えそうだが、黙って食器を片付けるのを手伝ってくれたり、水差しの水をグラスにさりげなく注いでくれてたりと、結構マメな男らしい。
ガヤガヤと賑やかだった食堂も少しずつ人がはけて来て、午後の訓練の時間が迫っていた。私達も急いで食器を片付けて、訓練所へと走って戻る。
一波乱も二波乱もあるだろうと思っていた騎士としての滑り出しは、あっけない程に順調だった。
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次の更新は明日になります。




