13.ロンバートの嘆き。
***前回のあらすじ***
シェリナと二人きりになったクリスティアナは、自分の思いをシェリナに告げた。叶えたい夢がある事。ロンバートとは婚約を解消するつもりでいること。シェリナに妃としての教育を施すつもりでいる事。クリスティアナの思いを知ったシェリナは、クリスティアナの計画に乗ることを決めるのだった。
夜会から退場を命じられたロンバートは、そのまま自室へと戻された。王から言い渡されたのは、謹慎。今後の処分は追って伝えると言われた。ロンバートは焦っていた。
何故、こうなった。
何を間違えた?
焦れば焦るほど、分からなくなった。
どうしても、シェリナが欲しかった。彼女以外を妻にするなど、考えられなかった。クリスティアナとの婚姻まではもう間がない。誰の眼から見ても、クリスティアナが王妃に相応しくない女だと知らしめるには、またとないチャンスだと思ったのに。
シェリナには泣かれ、冷たい視線を浴び、いつ出られるかも判らない謹慎処分。今すぐシェリナに会いたいのに、会う事も出来ない。自分に、王族に仕えている筈の衛兵も、自分のいう事を聞いてくれない。国王陛下のご命令ですと、一人で自由に歩く事さえ認めては貰えない。1日、2日と過ぎるに連れて、気持ちばかりが膨れ上がり、気が狂いそうだった。
シェリナに会わせてくれと懇願しても、出来ないと一蹴された。本当は、今すぐにでも抜け出して、会いに行きたい。シェリナに会えさえすれば、この現状が変わるような気がした。
けれど、扉の外には衛兵が張り付いている。窓から抜け出すには高すぎる上に、窓の下には衛兵が巡回をしている。城内を歩くことは出来るが、どこに行くにも衛兵が張り付き、目を光らせていた。
いっそ地位も何もかも捨てて、シェリナをさらって逃げようか。そんな考えさえ、浮かんでしまう。けれど、別れ際のシェリナの絶望の浮かんだ泣き顔が頭から離れない。
自分を見据えた冷たいクリスティアナの氷の様な目が胸を抉る。
怒りをあらわにした宰相の顔が、馬鹿にするような周囲からの嘲笑が、向けられる嘲りを含んだ眼差しが、顔も見たくないと立ち去った母が、弟の憐れむ様な目が、失望の色を隠せない父のため息が、余計にロンバートを混乱させた。
今は、自分の味方は一人も居ないのだ。
シェリナも、愛想を尽かしてしまったのだろうか。
自分は王位継承権を剥奪されるのか。
それ程までの罪を犯したのか?
何が真実で、何が過ちだったのか。
今、どうなっているのか。
誰も教えてはくれない。
否、教えてくれていたのかもしれない?
判らない。判らない。判らない───。
一度曇った視野は、自分の中で完結し、思い込みが目を、耳を塞ぎ、いつの間にか迷い込んだ迷宮は、どちらに行っても行き止まり。
きちんと、向き合わなくては。頭では判るのに、心は血を吐く様に叫ぶ。会う事の許されない環境が、余計に想いを募らせる。
シェリナ。
シェリナに会いたい。会いたい。会いたい。
あの頬に触れたい。髪に触れたい。笑顔が見たい。会えさえすれば、決して離しはしないのに。何もかも捨てても構わない程、愛しているのに。
落ち着いてわが身を振り返るには、まだ、時間が必要だった。
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次の更新は明日、やっとこ回想終わり、クリスのお話に戻ります。




