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83 卒業イベント 偽りのヒロイン




「その反逆者共を捕らえよっ!!」

 国王の叫びが響き渡り、ハッとした騎士や衛兵達が動き出す。

 一人は王位簒奪を企み、王都を破壊して投獄された反逆の令嬢、フレア。

 一人は魔族に通じた罪で極刑を申し渡され、王城を破壊した容疑者である行方不明の令嬢、キャロル――まぁ、私のことですが、フレアを救出してVRMMO時代の服を貸してあげたところで、武器を持った兵士達が私達に迫ってきました。


「フレア様っ!!」

 それを妨げるように観客達の中から、盾代わりの左手の小手と短剣を持った平民達が柵を跳び越え、兵士達に横手から襲いかかった。

「キャロルっ!」

 あちこちから悲鳴が上がる中、こちらに駆け出そうとするカミュ。それを阻止しようと騎士達が武器を抜いて彼に迫ると、乱入者達の一部がカミュを護るように立ちはだかった。

「カミーユ様、ご無事ですか?」

「ニコラスかっ!」


 検閲無しの許可を取った商人達の荷物に紛れて、ニコラスやフレアの信奉者達――そして、こちらに味方する地方領主の兵士達を王都に入れることが出来ました。

 今この時を狙って、騎士の詰め所なども襲撃しているはずです。


「二人とも私に内緒で何をしてるんですかっ、ずるーいっ」


「「………」」

 聞こえてきた、まるで仲間はずれにされた子供のような台詞に、私とフレアは思わず顔を見合わせ、無言のままフレアは左手を、私は右手に魔銃を構える。

「「煩い」」

 ドォンドォンドォンッ!!!

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


「きゃあああああああああっ!?」

 銃弾と火炎放射に曝され、アリスが精霊に守られながら悲鳴をあげて王太子達のほうへ逃げ出した。

「チッ!」

 盛大に舌打ちをするフレア。気持ちは良く分かる。あれってどうやったら殺せるんだろ? こちらの攻撃は精霊が身を挺して防ぐから、精霊が居る限りアリスに通常攻撃は通りません。やぱりどうにかしてアリスに融合した『愛し子の魔道具』を解除するしかないんだけど……って、あれ?


「フレア? その炎の精霊、解放されてる?」

 フレアと契約している炎の大精霊。フレアも魔道具と融合して契約しているのかと思ってたけど、その魔道具がフレアから感じられない。

 それを尋ねてみるとフレアが眉を顰めながら視線だけを私に向けた。

「解放? 私はお母様から力尽くで奪い取っただけよ。……そう言えば、妙なモノに縛られていたけど、私と契約したら消えちゃったわ」

「……なるほど」

 無理矢理契約して魔道具の束縛を解いちゃいましたか。よっぽど気性の荒い炎の精霊と相性が良かったんでしょうね……。

「ま、いいか。これあげる」

 私がカバンから出した赤い小瓶を放ると、フレアがそれを指先で受け止める。

「……なにこれ?」

霊薬(エリクサー)

 軽く答えるとフレアの目が軽く見開かれた。

 VRMMO時代にお世話になったHPMP完全回復薬です。高度な錬金スキルが必要になるので、こちらでは過去にエルフから略奪したものが数十年前に大金貨1000枚で落札されたのが最後みたいです。

 私も作れますが、今は材料が無いので、カバンにある数本だけしかありません。

 フレアは小瓶をジッと見て、いきなり疑いもせずにエリクサーを一気に飲み干した。すると、フレアの顔色がすぐに良くなり、契約している炎の精霊も衰弱状態から回復した。

「借りにしておくわ。キャロル」

「私は借りを返しただけだよ?」

 以前フレアは、私の逃亡を手助けしてマイア達を匿ってくれました。その借りを返しただけだと言うと、フレアはフッと鼻で笑う。

「多すぎるわ。借りが1よ。あなたはさっさと用事を済ませなさい。気もそぞろで戦場に立たないでちょうだい。それまで私が遊んでいてあげるから」

「……ん」

 ぉおおおぉぉぉ……覇王様がデレた。


「フレアッ! 貴様ぁああっ」

「ほーほほほっ、あなた達はわたくしが遊んであげますわ」


 王族関連はフレアに任せて、私はお言葉に甘えて用事を済ませに行きます。

「【Ice(アイス) Lance(ランス)】!」


『ぐあっ!』『ぎゃあっ』

 押し寄せる騎士達を【氷槍】でなぎ倒しなら進んでいると、その方角から彼が駆けつけて私を力強く抱きしめた。

「カミュ……」

「キャロル……良く無事で…」

 ごめん……心配をかけました。申し訳ないのと、ちょっと気恥ずかしいのと、頭がゴチャゴチャになって、ポンポンと背中を叩いてから身体を離すと、カミュが名残惜しそうに離れてから、戸惑うように自分が贈った白いドレス姿の私をジッと見つめる。

「キャロル……その姿は?」

「それは後で。アリスの精霊達が暴れ始める前に何とかしないと」

 今はフレアや私……私達に味方する大精霊三体の気配で、まだアリスの精霊達は困惑しているみたいですけど、このまま戦場が拡大すれば――いえ、もうすでにアリスの危機を感じ取り、数百体の精霊が集まって、何か切っ掛けがあれば『愛し子』を守る為に無差別攻撃を始めるでしょう。

「君が『魔女』と呼ばれる強い冒険者なのは知っているが、あの愛し子は……」

「ううん、大丈夫」

 私は心配して肩に触れるカミュの手を取って、静かに彼を庇うように前に立つ。

「私……もう『魔女』じゃないから」


 そんな言葉にカミュがわずかに不思議そうな顔をした。

 すると、フレアと対峙している少し離れていた上級貴族達の中から、二人の人物が申し合わせたように足早に駆けつけると、そっと私の側で恭順を示すように頭を垂れた。


「父上っ!? 何をしているんですかっ!」

「お祖父様っ! そいつは王国の裏切り者ですよっ!」


 アリスを守るように立っていた、筆頭宮廷魔術師子息マローンと王都教会大司教の孫ルカが、親族である彼らの行為に非難の声を上げた。

 その二人の人物は立ち上がると、不機嫌そうな顔をした中年男性、筆頭宮廷魔術師が実の息子をジロリと睨み付ける。

「女などにうつつを抜かして真理の探究を疎かにした愚か者め。私はこのお方より真理の一端を開示された。この国の者共はいまだに真実を知らぬ」

 その言葉にマローンだけでなく、それまで部下だった宮廷魔術師団も狼狽え、離れた場所にいた国王が目を剥いて腰から儀礼用の剣を抜く。

「貴様ぁああああああああっ! この俺を裏切るかっ!」

「おや。これは裏切りではありませんぞ。この国にとってはですが」

 良く通る声でそう言ったのはルカの祖父である大司教であった。


 この二人。筆頭宮廷魔術師は魔術師ギルドを通じて、上級魔法を餌にこちら側に引き込んだ人です。この人は変態ではありませんが極度の研究バカで、その為には悪魔にさえも魂を売りかねない、ある意味とてもヤバい人でした。(ベルトと同類)

 そして大司教は、あのボコボコにした一件以来、私を女神と信じて、魔王であっても『もっといたぶってくれる』と嬉しそうにしていました。

 ……この二人は後でフレアに丸投げしましょう。


「愛し子アリス嬢は、精霊によって土地を癒す為と多額の金銭を要求しながら、実際には精霊を制御する術を持たず、他の地域から土地を癒す精霊を奪っていたのですっ」

「その件に関しては、私と魔術師ギルドも調査により同じ意見に辿り着いた。これは王国に対する重大な反逆行為であり」

 大司教の言葉を肯定するように筆頭宮廷魔術師が言葉を続け、貴族達と対峙していたフレアに顔を向ける。

「ならばフレア嬢が行ったことは、逆賊を誅する国に対する忠信と取れる」


 その発言に学院の関係者や集まっていた人達が驚きざわめき始め、愛し子を守ろうと囲んでいた騎士達が疑いの視線をアリスに向けた。

「え……な、なに?」

 その中でアリスだけが意味を理解できず、戸惑ったように首を傾げる。


「その通りよ。わたくしはこの国の王族の血筋として王国の為に動いただけ。そして、キャロルは、亜人としてそのことを知り、自らの身の危険も顧みず魔族の国へ赴き、この情報を得て我々にもたらしてくれたのです。そこの愛し子とやらの利権で儲けていた者達には都合の悪い情報だったようで、処刑され掛けていましたけど」

 それに続いてフレアが自信満々の顔で、即興で話を作り、幾つかの視線が私にも向けられた。

 国を騙して肥沃な土地から精霊を奪っていたアリス。

 そのアリスのおかげで儲けていた王族と王都の貴族達。

 この話が真実なら、この前の魔族への侵攻も、重大な情報をもたらしてくれた魔族へ恩を仇で返すような行為だ。


「……愛し子殿の件は後ほど調べよう。だが、フレアとその忌み子の件は別だっ! 亜人や魔族などと結託するなど許しがたいっ! 兵よ、この者共を討伐せよっ!」


 それでも国王は敵対の道を選んだ。まぁこのままだと、フレアが次期王に祭りあげられそうだからね。

 騎士や兵士達は、王の命令に武器を構える。そしてある程度亜人に寛容な平民達も、ここに集まれるような人達は裕福層に近い『人族至上主義』者と接する者が多く、魔族を受け入れることは難しそうに感じた。

 まぁ、仕方ありません。私の予定にこんな“茶番”は最初からないのです。

 最初の予定通り、武力で決着を付けるべく前に出ると、心配そうな瞳をするカミュに静かに頷く。

 言ったでしょ。私はもう『魔女』じゃないから。


「――Setup【Evil(エビル) Lord(ロード)】――」


 私と一つになった『融合の魔道具』は、プレイヤーキャラクターと『私』を融合しただけでなく、もう一つの恩恵を私にもたらした。

 それは、装備アイテムの融合。

 それによって私が持っていた三種の専用装備、【魔女のドレス】【アルジュナの外套】【聖者の鎧】を一つの装備として【融合】することが出来たのです。

 それまでVRMMOのバランスを崩さない仕様が崩壊して、とてつもないチートアイテムになりました。


頭【使用MP軽減40%・HPMP回復上昇40%】

胴【物理攻撃耐性・魔法耐性・属性耐性50%】

腰【HPMP上昇15%・ステータス上昇5%】

腕【遠隔攻撃力・遠隔命中率上昇40%】

足【戦技命中率上昇40%・戦闘スキル上昇5%】

リジル改【攻撃力60>>75 属性魔法効果上昇20%】

その他装飾品【ダメージ軽減10ポイント・HPMP自動回復1秒に2ポイント・状態異常レジスト率上昇50%・魔法発動速度上昇30%・身体速度上昇15%・魔法効果上昇10%・物理命中率上昇15%】

一式装備の防御力440のランクA。物理攻撃耐性70%(胴効果により85%)・物理攻撃カット110ポイント(装飾品効果により120ポイント)。 


 基本形状はウィッチドレスを元にして、布地の装飾部分と金属部分も増やして防御力を補強しています。

 その新しい専用装備の名は――


『……ま、魔王だぁあああああああああああああああっ!!!』


 あの魔の森の戦場に居たのでしょう。兵士や騎士が私の姿に気付いて悲鳴をあげる。

 その名も魔王のドレス【Evil(エビル) Lord(ロード)】。


 ………本当に厨二病が治りませんね(涙)。


 場が荒れ始めると、精霊達がアリスを守る為動き出す。

『キャロルーっ!』

 丁度良く追いついてきた……多分、格好良く出るタイミングを見計らっていたポチに精霊達が攻撃目標を定め、ポチは炎のブレスを吹いて精霊達の攻撃を牽制する。

 空を見上げると、ここに向けてゆっくりと下がってくる光の道から、待ちきれなかったのか、空を飛べる騎獣や魔物達が飛び降りて真っ直ぐこちらに向かってきているのが見えた。

 あ、……無茶したヒュドラが落っこちた。


 空を奔る炎と吹雪、空を舞う闇竜、迫り来る魔物達とその背に乗る魔族の戦士、そして『魔王襲来』の事実に人々から悲鳴が上がり、続々と集結する巨大な魔物と魔族達を従えて立つ私に恐怖に彩られた視線が集まる中、赤いドレスの裾をつまみ、優雅にカーテシーを行う。


「初めまして。私が魔王キャロルです」




次回、フレア対王族


 簡単な解説

 融合の魔道具で合成できるアイテムは装備部位ごとで決まっており、上限は決まっていませんが、形状によって無理な合成は出来ません。

 魔王のドレスも元はカスタマイズアイテムなのである程度の成形は出来ますが、鎧系と融合するとドレスの形状を保てなくなります。

 装飾品の場合も核である宝石の大きさから、二種以上の合成をしようとすると、指輪の場合は武器を握れなくなります。(指輪は片手に一種しか効力を発揮しない)

 その為、キャロルは機能よりも形状と使い勝手を優先して、融合は2~3種類で留めています。

 武器も形状的に剣に斧を融合するような事は出来ず、リジルには長い柄の部分に魔女の杖を合成しました。


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― 新着の感想 ―
デレたデレた! フレアがデレた! と、ハ○ジの口調で踊りたくなるね。 そんな事をしたら、サクッと刺されそうな気もするが。
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