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79 ケーニスタ攻略作戦 ④




「ベルトさん、お願いします」

「応っ、任せろ。行くぞ」

「「「はっ」」」

 素顔を曝した元剣聖ベルトさんに、アルセイデスのまともな下級騎士達が嬉しそうな顔で従っています。

 貴族でも農村程度の領地しかない騎士爵とかは、平民とも距離が近く王家とは距離が離れていたので、私が食糧支援を約束すると涙ぐんで喜んでいました。

 これからベルトさんと騎士や兵士などは派遣してもらう魔族軍と、アルセイデスとその寄子である王国寄りの騎士や貴族を説得(物理)してもらう予定になっています。

 アルセイデスのお城にいる王国寄りの貴族達はもう捕縛は終わっていますが、五年前にカミュと一緒に資産を没収して弱体化させたせいか、王国寄りの人はそれほど残っていませんでしたね。


 それとアルセイデスの商業ギルドから全面協力の申し出がありました。

 現状、凶作で流通が滞っているにも拘わらず、何もしない貴族や王家に頭を抱えていたそうなので、各地のギルドにもそれとなく根回しをしておくとか。

 魔王と呼ばれる私が一心不乱にオートミールを作ってた姿に警戒するのがバカらしくなったそうです。ただ王都のギルドだけは宰相の息が掛かっている者が多いらしく、簡単にはいかないみたい。

 とりあえず商業ギルドには、今期唯一豊作だった王都から食料を分捕ってくるように銀貨を二千万枚ほど渡しておきました。

 イスベル大陸の銀貨は使えるところは限定されますが、食料を扱っていなくても王家や宰相寄りの豪商が多くいるので両替も可能なんだそうです。

「交換レートは1対1.2。買い付けは五倍程度まで使って構いません」

「それなら交渉は楽ですな。後はお任せ下さい、キャロル殿」

 商業ギルドのジェスさんが笑顔で請け負ってくれる。彼は鍛冶関連の担当でしたが、支部長が王国寄りだったので代わりに支部長になってもらいました。

 仕事にあぶれていた冒険者達は、足りなくなった騎士の代わりに魔物関係の対処とここから脱出して王都に知らせようとする人を捕まえてもらいます。

 最初は反発していましたけど、粋がっていた冒険者の骨を片っ端から折っていくと、半分くらいで皆さん素直にお手伝いしてくれることになりました。

 まぁ、それでも信用は出来ませんけど、魔族国の兵士や魔物達も警備の応援に来てくれるそうなので多分大丈夫でしょう。

 ……服従を誓った魔物の方が人間より信用できるって何なんでしょうね。


 そしてディルクの件ですが、彼の身柄をどうしようかと考えていると、エルマから預かりたいと打診されました。

「私に骨を折られてベソベソ泣いている彼にキュンとしてしまったので、もっと良い声で啼かせてみたいのです」

「……いいよ」

 普通だったら却下するのですが、ディルクはハーフエルフをペットにして調教しようと目論んでいたので、ある意味彼の望みに近いのではないでしょうか。私、親切。

 あのアベルもベルトさん監修の下、丸坊主で農夫となることが決定しているので、ディルクとも仲良くなれるといいですね。


 あとは、お父様とお母様の件ですが……

 はっきり言って私は、あの二人には何の感情も持っていません。色々嫌がらせもされましたが、あの二人のことで私が何か考えるのが面倒くさいのです。

 すでに権力もなく、唯一の拠り所だった貴族の肩書きも私がアルセイデスを占領した時点で消えました。それでもあの二人が何かをしようというのなら……勝手にして下さい。今のアルセイデスにはお父様に恨みを持っている人は沢山いますから、人前には出ないほうがいいですよ。


 さて、今回潜入作戦のはずが、奇襲による強襲になってしまいました。この分だと他の地域でも簡単に占領できそうですが、こちらの存在を知らせてアリスを王都から出すような真似はしたくありません。

 今でさえ精霊が減っているのに、またアリスがあちこち移動したら本気で砂漠化が始まります。

 アリス、まじ貧乏神。


 そしてアルセイデスに私が来た理由。拠点を探していた私にお祖母ちゃんであるセリアは、アルセイデスに向かうように言いました。

 この地が拠点に向いている、って言い方ではありませんでしたね。多分何か……ニームに由来する物でもあるのでしょうか? あの口ぶりだとお祖母ちゃんは、人族の国での回収を諦めたのかもしれません。

 それがあるとしたらアルセイデス家のお城でしょうか? あのお城に住んでいたのは三歳までで、部屋にずっと軟禁状態でしたから城を歩いたことさえありませんから、何があってもおかしくありません。


 コツ…コツ…と石床を踏むヒールの音が響く中、私は人気のなくなったお城の中を一人歩く。

 お城にいた使用人もほとんど捕縛されたか暇を出されたので、今は庭の維持や掃除をする下働き程度しかいません。

「………ん?」

 隅々まで廻ってみようかと歩いていましたが、奥に向かっていたはずなのに中庭に出てしまいました。お城は入り組んでいますからね。と違う道を進んでいると、何故か玄関ホールに戻りました。

 怪しい……。もう一度奥へ進もうとして途中で止まり、辺りを見回すと。


〈Illusion Defense〉


 あ~なるほど。幻影防御ですか。迷路とかで在る物を無いように見せたり、無い物を在るように見せたりするアレです。私が意識を凝らすと報告してくれた【システム】がさらに詳細なデータとしてお城の簡易マップを表示してくれる。

 そこの何カ所かに出ている光点が幻影でしょうか。でもそれを見つめているとその光点が移動しているみたいに見えました。

 ……これは面倒くさい。ただの幻影ではなくて一度通ると戻れなくなったり、パズルゲームみたいな感じになっていますね。

 ここまで高度な魔術は人族ではなくエルフが施したのでしょう。でも幾ら面倒な仕掛けでも、地図が見えるので時間を掛けて諦めなければ、どんなパズルでもきっと解けると思います。

「えい」

 ドガンッ!!

 でも面倒なので一直線に壁を壊して進むことにしましたら、マップ上の光点が点滅して光点が全て消えてしまいました。

「……壊れちゃった」

 後で壁を直すつもりでしたが、幻影魔術まで壊れてしまいましたね……。これは後でお祖母ちゃんに叱られたりしますか?

 まぁ、やってしまったことは仕方ありません。やったことに欠片も後悔しない心は、フレアやアリスから学んだのです。


 そのまま奥へと進んでいくと地下へと降りる階段があり、その階段をそのまま降りていくと特に罠も無く扉が付いた隠し部屋が見つかりました。

 扉に触れると自動的に魔術の鍵が外れて扉が開く。

 私がエルフだから? それともニームの子孫だから? 私が中に入っていくと、その八畳くらいの部屋には手紙を書くようなテーブルと椅子、そして小さな宝石箱がありました。

 宝石箱は最後にして、何となく机の上に置かれていた一冊の本を開いてみると。

「これは……」


『私の心は小さな宝石箱。今日もお月様にお祈りをする私に、嫉妬した雲が月を隠して代わりに雨の祝福をしてくれる。そんなに私を見つめないで。朝になるとお日様まで嫉妬して私をトロトロに溶かしてしまい、私の中の妖精さんが恥ずかしがって隠れてしまうの。ルルラララ~』


 パタン。

「…………」

 ……どうやらニームの作成した禁忌の魔導書のようです。なるほど。これだけの厳重な警備も頷けます。これは封印してお祖母ちゃんに送っておきましょう。

 これがニームが残した物だったのか、と私は額に浮かんだ汗を拭いながら、小さな宝石箱に触れてみる。……キラキラした物でも入っているんでしょうか?

 宝箱を開けてみると、中から待ちきれなかったように光る玉のような物が浮かび上がってきました。……これって精霊の魔道具? フレアや王族が使っているのと同じ物。大精霊を封印した契約の魔道具です。

 だったらやることは決まっています。

 パリンッ、と私がその魔道具を握り潰すと、部屋を白一色で塗りつぶすように強烈な光が溢れてその場に存在していた。


〈Arch Elemental:Alignment Lux. Status:Bad. MP3100/62000〉


「光の…大精霊」

 魔道具に封じられていたのは光の精霊でした。やっぱり百年以上魔力供給もなく封じられていたので相当衰弱していました。

 私はお祖母ちゃんに、この魔道具から精霊を解放するように頼まれていたのです。


 複数の精霊を使役する魔道具はそれを所有していたニームの死によって、どこかへと消え、それを扱うことが出来ない人間の中に紛れてしまいました。

 本来あらゆる危険から護られるはずの『愛し子』だったニームが罠に掛けられ亡くなったのは、ニームがそれを完全に制御できていた(・・・・・)からでした。だからニームは魔族を裏切った人族との話し合いの席で、精霊が勝手に暴れることを恐れて精霊を遠ざけて、それが原因で罠を防げなかった。

 ニームやカームを護る為に、『愛し子』の補佐として地水火風光闇の精霊を宿した六つの魔道具を用意したそうですが、カームやニームの側近が所持していたそれらは戦争の中で人族に奪われていったそうです。

 ケーニスタの王家が所有していたのは地水火風の四種です。残りの精霊はどこに行ったのかと思っていましたが、光の精霊はここに隠されていたのですね。

「……精霊さん?」

 少しの間、光の大精霊は揺らめくように私を照らし、どこか懐かしむような淡い光を残してどこかへ消えていきました。


〈Message.Lux Arch Elemental>> Licht〉


「……リヒト? また名前ですか?」

 光の大精霊も私に名前を教えてくれたみたいです。これって何でしょうね。集めると御利益がありそうな気がしてきました。

 残りの敵側の大精霊はフレアの炎の精霊を抜かして、王家が持つ風と水の精霊のみです。闇の精霊がどこに居るのか分かりませんが、その二体だけでも無力化できるなら、……私はアリスと正面から戦える。




次回、ケーニスタの王都にジワジワと異変が起こります。


キャロルは現状でもアリスの精霊達とは戦えます。ただその場合、高確率で王都は国民ごと灰になるので、搦め手を使っています。


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悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
もっと良い声で啼かせてみたい > あ、味方にもやっぱり変態が………。王国産変態よりはまあマシか。 私の心は小さな宝石箱 > ご先祖様はまさかのポエマーか!? 実害はないから、いっか。
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