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60 罪なき断罪 前編

真面目です。




 一日ほど体力を回復させて、念の為に普段とは違う弓兵装備【アルジュナクロシュ】に着替えて、王都近くまで戻ってきました。

「……………」

 でもどこかおかしい。戦場ではぐれた私がいきなり王都に居るのはおかしいので、近くまで【空間転移(ワープ)】を使い、王都の門で貴族のキャロルに戻って中に入ろうと思っていましたが、以前と違い、空気がピリピリしているように感じます。

 王都は人口も多いので、外壁の外にも労働者などが居を構えて、門の前は小さな宿場町のような形態になっていますから、私は情報を得る為に果物などを売っている露店に寄ってみる。


「そこのオレンジ1個ちょうだい」

「小銅貨6枚だよ」

「お釣りは良いから聞きたいことがあるんだけど」

 私はオレンジに大銅貨一枚を渡しながら被っていたフードを取ると、その瞬間におばさんの顔色が青くなる。

「あ、あんたエルフかいっ、悪いことは言わないから早く王都を離れなっ」

「え?」

 いきなりそんなことを言われて、何が起きたのか尋ねようとすると、おばさんは受け取った銅貨を渡しに投げつけるように突き返す。

「もう行っておくれっ。亜人と関わり合ったら私達まで捕まっちまうっ」


 おばさんはそう言うと、怯えるように露店の奥へと引っ込んでいきました。

 捕まる? 王都で何が起きているのでしょう? 辺りを見回してみると、私と目が合った人達が目を逸らし、母親らしき若い女性が子供を抱き上げて慌てて逃げるように離れていきました。

 王都では他の地域よりも亜人へ偏見らしきものはありますが、ここまで酷くはありませんでした。

 これは……素直に戻らないほうが良いかもしれませんね。


 私は外套のフードを深く被り直すと、隠密スキルを使いながら人目のある場所を離れてから、巡回する兵士の監視を潜って5メートルもある外壁を乗り越える。

 王都に住む亜人はほとんど居ません。ですが冒険者のように仕事で訪れる者も居るので、通りを歩けば数人は見かけることはあったのですが、隠密スキルを使いながら屋根の上から見てみると、亜人らしき人は誰も見つけられませんでした。


『このっ、いきなり何をしやがるっ!』

『大人しくしろっ!』


 冒険者ギルドのほうへ向かう途中、裏路地の方からそんな声が聞こえて私もそちらへ屋根伝いに向かうと、傾奇者らしき狼獣人の男性が衛兵達と揉み合っていました。


「俺が何したって言うんだっ! ダンジョンから戻ったばかりだぞっ」

「御触れを知らんのかっ。この国にいる亜人は全て捕縛命令が出ているっ。頼むから大人しくしてくれ」

「なんだとっ!?」


 捕縛命令? 亜人全員? 何事でしょうか? 彼は見たことがありますね。冒険者で女性に良く絡んでいたので一度叩きのめした記憶があります。

 彼を助けるべきでしょうか? でもここで助けても広い王都を脱出しない限り、衛兵に見つかれば何度でも捕縛される可能性はあります。私が彼を助けて逃げようとするなら、何人もの衛兵をこの手に掛けなければいけなくなるでしょう。

 幸い、衛兵は平民出のようでどちらかと言えば彼に同情的に見えますので、大人しくしていれば危害を加えられることはないと思います。


「ふんっ、汚らわしい亜人など気に掛ける必要は無い」

 その時、私から死角となっていた建物の影から一人の騎士が現れると、何もする間もなくいきなり剣を冒険者の胸に突き立てた。

「ぐっ、は…」

「はははっ、貴様らのような亜人が人族の地で大きな顔を出来ると思うなっ!」


 ………いきなりですか。止める間もなく殺されてしまった彼に、心の中でお祈りをしておきます。騎士の顔は覚えました。獣人の彼は良い人とはとても言えませんし、仲も良くありませんでしたが、いつか仇は取ります。


 情報に格差があるのか、逃がさない為に外側から亜人を捕まえているのか、彼は知らなかったみたいでしたが、どちらにしろ今まで亜人を嫌悪していても手を出してこなかった貴族の騎士達が、躊躇もなく亜人に手を出した。

 マイア達が心配です。見た目は人族でもマイア達親子は獣人の血が流れています。

 それを罪とするのなら、今の人族は何かしら亜人の血が混ざっているので全員が罪となるのですが、貴族は自分達が純粋な人族だと信じているので何をしでかすか分かりません。

「【Warp(ワープ)】」

 私は隠密で向かうのはやめて、自室にある印を目印に【空間転移】を使う。

「………」

 カーテンが閉められた薄暗い室内。マイア達が整えてくれていたのか、出掛ける前と何も変わらない自分の部屋で変身を解いて元の姿に戻った私は、そっと扉を開けて階下に降りると、そこには憔悴したような顔でいるマイア達親子がいた。


「キャロル様っ!」

「お嬢様っ!?」

「よくぞご無事で……」


 私が声を掛ける前に気が付いたマイアが声に出して私に抱きついてくる。

 私がどうしてここに居たと考えるよりも私が無事であることを素直に喜び、メイヤ夫婦が涙ぐむ。

「マイア、いったい何が…」

「キャロルお嬢様、ここは危険ですっ、どうかお逃げくださいっ」

 私が抱きついてきたマイアの頭を撫でながらそう問いかけると、マイアが顔を上げて勢いよくそう言ってきた。

 情緒不安定なマイアにこれ以上尋ねるのは難しいと判断して、メイヤに視線を向けると、彼女は真剣な顔で頷いて知りたいことを教えてくれました。

「実は――」


 先日、お城からの『御触れ』があったそうです。

 王太子が率いる騎士軍が、再びケーニスタ王国に侵攻しようと魔の森に集結していた魔族の先兵達を撃退に向かったところ、卑劣な魔術を使われて窮地に陥ったが、清らかな心で従軍してくれた『精霊の愛し子』の手により、魔族を追い返すことに成功した。

 だが被害は大きく、その原因はこちらの動きを魔族に知られていたことであり、それをしたのは魔族の先兵である亜人達が魔族に情報を流していた事が判明した。

 それ故、ケーニスタの貴族及び国民は、正義の名の下に卑劣な魔族に組みする亜人達を全員捕らえ、抵抗するのならケーニスタ王国の名において正義の鉄槌を下すべし。


「…………」

 ………なんだそれ? 随分とガバガバな設定ですね。

 呆れて物も言えませんが、人族至上主義の貴族達にとっては『都合の良い真実』になっているのかもしれません。

「ですから、すぐにでも国を離れて――」


「それはならんっ!!」


 バタンッ! と離れの玄関が開き、数人の人影がなだれ込んでくる。


「……ディルク」

「キャロル……良くもおめおめと戻ってこられたな。アルセイデス家の面汚しが」

 今世の兄……現アルセイデス家党首代行であるディルクが、私を見て吐き捨てるようにそう言った。

「せめてお前が死んでいれば陛下にも申し訳が出来たものを……。キャロル、すぐに王城へ出頭しろ。そこで陛下から審判が言い渡される。もうお前などアルセイデス家の一員ではないっ!」

「…………」

 別に貴族に欠片の未練もありませんが、物言いが気に入らない。私が無言のままジッと睨むとディルクはわずかに気圧されたようでしたが、すぐに馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「ふんっ。お前が闇の精霊を使役することは知っているがそれを暴れさせて良いのか? お前はそれで良くても、そこに居るお前の使用人達まで同罪となるぞ?」

「…………」

 そんな言葉に視線だけマイア達に向けると、マイアはともかく、メイヤ夫婦は娘を巻き込むことに不安を感じているようでした。


「……この者達の安全は保証して貰える?」

「キャロル様っ!?」

 私が溜息交じりにそう言うとマイアの悲鳴のような声が響く。私もこんな警戒されている状態で三人を連れて安全に逃げるのは難しい。

「良かろう。闇の精霊を暴れさせないと言うのなら、その者達の身柄はこのディルクが責任を持って預かろう」

「……ん」

 ディルクの言葉に頷きつつ、マイア達に視線を送って動かないように指示をする。今は彼女達の安全が最優先です。


 ディルクの近くへ寄ると、彼は気持ちの悪い手付きで私の肩を撫でながら、耳元で気持ちの悪い話を始めた。

「くっくっく、安心しろキャロル。おそらくお前の身柄は貴族でなくなり国預かりになるだろうが、今回の報奨金でお前を奴隷として買い戻してやるからな。はっはっはっ」

「……………」

 やっぱりこの場で殺すべきでしょうか?


 それから数時間後、王城から騎士達がやってきて『魔術封じ』の手枷を掛けられて王城へと連行されました。

 手枷の効力は大したものではないのでしょうが、確かに魔法の発動を阻害されるような感覚があります。

 馬車の中で王城に着くまで現状を整理してみる。

 今の状態はハーレムエンドの処刑に近い状態ですが、時期が早いのと、他のフラグが色々と混ざっているので、正直に言ってこれからの予測が出来ません。

 最悪だと、魔族に加担した咎で市中引き回しの上、火炙りでしょうか。マイア達の安全が保証されればすぐにでも反撃しますけど、ディルクの言うことをどこまで信じられるのか?

 どの辺りで警戒が緩むのか分かりませんが、王からの審判が下されたその夜にでも脱出してマイア達を確保する? その時の彼女達の位置をどうやって知るか?

 タイミングが難しいですね……。ディルクが信用できないのが一番厄介です。やっぱり最初にカミュの所に顔を出せば良かったかも。


 お城に到着して睨み付けるような大勢の騎士達に囲まれながら、裁判等をする簡易の謁見の間まで到着すると、見知った顔が私を見つけて声を上げた。


「キャロルっ!!」

「カミュ……」

 駆け寄ろうとするカミュを数人の上級騎士が止めた。そんな彼を上座にいる豪華な衣装の男性が揶揄するように窘める。

「カミーユ。()婚約者に色々と思うところはあるだろうが、儂に恥をかかすなよ?」

「……はい、陛下」

 カミュが血が滲みそうなほど拳を握りしめて項垂れる。

 初めて見ましたがあの人が国王ですか。

 異母弟であるカミュを留学させた隙に父王を暗殺して王位を得た男。偏見なのは承知していますが、いかにもやりそうな顔をしています。


「それでは、キャロル嬢の罪状を述べさせていただきます」

 宰相がそう告げて、ありもしない罪の裁判が始まった。

 内容は大したことは言ってません。正義であるケーニスタ王国が悪い魔族を懲らしめようとしたら卑怯な手で痛手を受けたので、魔族のスパイである私を糾弾するものでした。


「其方は極刑だ。だが、仮にも我が弟の()婚約者だ。言いたいことがあるのなら聞いてやるぞ?」

「…………」

 死刑ですか。多分……私が無様に取り乱して、私がカミュに縋ることで、彼を貶め、苦しめようとしているのでしょう。

「別に……私は彼とは何の関係もありません」

「キャロル……」

「ほほぉ、殊勝なことだな、亜人の娘よ。引っ立ていっ!」


 上級騎士が私の肩を強く押してこの場から連れ出す、その王や宰相の視線が一瞬外れた隅をみて、私は意気消沈したようなカミュに向けて、唇だけで想いを伝えた。


 ――――信じて――――


 何があろうとも、例え極刑でも、例え敵に回ったとしても――私はあなたを――




次回、後編です。

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― 新着の感想 ―
キャロルの性格的にここで大人しくするのはちょっと違和感が…………。 ディルクを潰して、マイアたちは魔族達とポチに守らせて………じゃダメだったんだろうか? カミーユは…………やっぱり変態かも知れないし……
[一言] ここで捕まる意味がわからなかったです。 キャロルならこの状況でも普通に安全にマイアたちを移動させることできそうな気がします。 もうちょい、すでに人質にされてて抵抗したら死ぬような状態ならわか…
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