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47 愛し子――アリス・ラノン

ヒロイン、アリスのお話です。

本作を読みますと価値観が混乱する恐れがあります。




 アリス・ラノンは、王都外れにある下町の、小さな商店の一人娘として生まれた。

 ふわふわの金の髪に翡翠色の瞳のとても愛らしい子供で、商店の看板として人気があった美しい母の容姿を受け継ぎ、幼い頃から周囲に可愛がられた。

 ちなみに母親の髪は茶色で、父親の髪は暗赤色だが、気の弱い父親はともかく、男性常連客は皆その話題になると気まずげに顔を逸らすので気にしないでほしい。


「可愛い私のアリス。お店のお手伝いをしてくれるかしら?」

「あいっ」

 三歳になった頃からアリスはお店の手伝いをするようになった。だが、体力のない小さな子供が裏方などを出来るはずがなく、アリスがするお手伝いとは、その可愛らしい容姿を生かして客引きをすることだった。

 特に男性客への客引きは母親からみっちりと叩き込まれ、根が単純なアリスは自分が言うがままにお金を出す男性客に、次第に商売にのめり込んでいった。


 そんな生活に転機が訪れたのはアリスが四歳になった頃だった。

 母親が突然――

『真実の愛を見つけました。あなた達の幸せを遠くからお祈りしております』

 ――と書き置きを残して蒸発してしまったのだ。

 ちなみに後から気付いたことだが、母がいつも言っていた『可愛い私のアリス』とは『可愛い、私のアリス』ではなく『可愛い私の、アリス』だったらしい。


「「…………」」

 思わず無言で置き手紙を見つめる父娘二人。愛する妻に出て行かれたことで、自分とはまったく似てない娘と二人で暮らすことになった父だが、それでも父親として母を失った娘が傷ついていると思い、声を掛けようとしたその時、アリスは思っていなかった言葉を言い放つ。

「わあ、かーちゃん、『しんじつのあい』をついにみつけたのねっ、ステキっ!」

「あ、アリスっ!?」

 その時、父は自分の娘が、突然得体の知れない何かに変わったように思えた。

「だいじょうぶ、とーちゃんっ。わたしが食べさせてあげるからねっ」

「………お、おう」

 その言葉は、幼なじみだった妻が幼い頃に言っていた事と同じ言葉で、同じ顔でそれを言う娘が妻と同じように自分を捨ててしまうのかと恐れおののいた。


 そのアリスだが、自分が店を切り盛りして父親と暮らしていこうと考えていた。

 そして、それには何よりお金が必要だと考え、四歳児にして純粋すぎるほどに金を儲けることに執着していった。

 その物事を暗く考えないポジティブすぎるほどに単じゅ――もとい、純粋で無垢な心は、アリスの周囲にある変化をもたらした。

「わぁ、キレイ……金貨みたいっ!」

 いつの間にかアリスの周囲を、色とりどりのきらめくモノが取り巻くようになっていた。

 アリスにはそれが何か分からなかったが、キラキラしたモノが大好きなアリスはそれを全身全霊で受け止め、きらめくモノ達はアリスと共にいるようになった。

 それはアリスがこの世界でも珍しい全属性の魔力を持つことと、物事の全てを自分の良いように考える単じゅ――無垢な清らかさがそれらを引き寄せていたのだろう。


「おじさん、いらっしゃいっ。おじさんの為にバターを1樽残しておいたよっ。はい銀貨1枚ですっ」

「1樽っ!? いや、そんなにバターはいらないなぁ……」

「それなら、こっちのジャガイモと一緒に食べればいいよ。はいっ、麻袋二つで小銀貨6枚だけど、ほとんど芽が出ちゃってるから小銀貨4枚でいいよっ」

「アリスちゃんなら仕方ないなぁ」

「わーい、おじさん大好きっ!」


 何故かいつの間にか女性客は寄りつかなくなっていたが、商売が以前よりも繁盛すると同時に新たな問題が起こった。

 仕入れさえも善意の男性常連客が済ませてしまうので、父親が今まで関わってきた商売で何もすることがなくなり、彼は酒に逃げるようになって女性が酌をしてくれるような夜のお店に入り浸るようになったのだ。

 もちろん常連客や良識のある大人は、幼い娘が健気に働いているのに何をやっているのだと責め立てたが、荒みきった父はそれに耳を貸さなかった。

 そんな父親でもアリスは健気に笑って大人達の涙を誘ったが、彼女は父が自分から離れたことを悲しんでおらず、別のことで頭を悩ませていた。


「おみせのお金、かってにつかったら困るの。お金はぜんぶわたしのものだから、とーちゃんがかってにつかったらダメなの。え? みんなが解決してくれるの?」

 アリスの単純な頭からは、すでにお金を稼ごうとした最初の目的は忘却され、効率的にお金を稼ぐことが目的になっていた。

 キラキラしたモノ達がアリスの願いを聞き届け、その晩に夜のお店がある一角が消滅し、そして父親が帰ってくることはなかった。

 そんな父親にアリスはポジティブに考える。

「そっかっ、とーちゃんも『しんじつのあい』を見つけたんだねっ!」


 まだ幼い身空で独りきりになったアリスだが、近所のプレッツェル売りの老婆が同情して、彼女の後見人になってくれた。

 アリスはアリスで、今の店でこれ以上の経営拡大は難しいと感じており、渋る老婆を引き連れ、荒くれ者の冒険者ギルドや貴族もいる各ギルドを回って、五歳の少女が販路拡大を為そうと画策していた。

 母譲りの美貌と販売テクニックで(男性の)顧客を増やしていくアリス。

 途中で多種多様の問題を引き起こしながらも、持ち前の愛嬌と商魂と全てを良いように考えるポジティブさで乗り切っていると、魔術師ギルドなどで話題になり、アリスが『精霊の愛し子』であると判明すると、なんと魔術学園の入学を許された。


 そこでも持ち前の美貌と愛嬌で多数の人(男子生徒)を惹き付けていったアリスだったが、アリスが学園に入学したのは一つの目的があったからだ。

「私、王都に大きなお店を出したいっ」

 沢山お金を稼いで王都の一等地に店を出し、さらに大金を手に入れる。

 今のアリスの目的は、大好きなキラキラしたモノに囲まれて、大金貨の風呂に入りながら金貨を数え、そのお金でアリス自身が沢山の『真実の愛』を見つける事だった。


 学院で複数の少年達から『お友達料』を獲っていたが、アリスはそれだけで飽き足りず、学院内で『握手券付きプレッチェル1個小金貨1枚』を販売していると、それを見つけて興味を持った人物がいた。

 このケーニスタ王国王太子、ジュリオ・フォン・ケーニスタである。


 彼のような人物が、どうして庶民であるアリスに興味を持ったのか定かではないが、ジュリオは優しく穏やかであるが、潔癖な部分が有り、何故かアリスを毛嫌いする貴族子女を見て彼女を擁護したのではないかと思われた。

 それだけならまだ良かった。王の子として弱き立場の者を擁護することは彼の教育にもなると考えられていたが、ジュリオは必要以上にアリスに関わりはじめたのだ。


「ジュリオ様っ、この竜牙っぽいハンコが今ならなんと大金貨20枚の所を、ジュリオ様ならおおまけにまけて、たったの大金貨五枚ですっ。他の皆さんには絶対に内緒ですよっ、ジュリオ様だけなんですからっ」

「竜の牙とは素晴らしいものだね、アリス。でもどうして、そこまでお金を稼ぐの? 細かい金額は知らないけど、たぶん学費には足りているよね?」

「はい、ジュリオ様っ。私は月に一度、教会の孤児院に100個のプレッツェル(1個あたりの単価大銅貨1枚)を寄付しているんですっ。孤児の女の子達はみんな裸同然の薄着なので、差し入れも喜んでくれますし、教会の覚えも良くなって、商売に融通して貰えるんですっ」

「君は何て素晴らしい人なんだ。是非買わせてもらおう」

「わぁ、ジュリオ様ステキですっ! 毎度ありがとうございますっ」


 毎月のように大金貨数枚はするドレスや宝石を買いあさっている王妃を見ているだけに、王族として庶民の金銭感覚を知らないジュリオを責めるのは、王妃批判にも繋がりかねず、側近の誰も口を出せなかった。

 次第に距離が近くなっていくジュリオとアリス。中身はともかく、見た目は美少年と美少女の二人に一般貴族は近づくことも出来ず、上級貴族も大司教の孫や宰相の息子などが彼女と関わりを持ち始めたことで、誰も表だって小言を言える雰囲気ではなくなっていた。

 ただ一人……フレア・マーキュリー・プラータ公爵令嬢を除いて。


「ホーホホホッ、随分と面白いことをしていらっしゃるのねっ」




次回、ゴ○ラ対キ○グギドラ……ではなくて、フレアサイドのお話。

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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
母親ァ!? 遺伝子って恐ろしいわぁ…………。間違いなく中身も外見も母親似のアリス。年齢を考えるとそれ以上の逸材か? まあ、やってる事のえげつさからは考えられないくらい夢は普通なのが意外っていうか意外。…
[良い点] なんか、フレアめっちゃ好き。
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