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25 魔族の村




 魔族――VRMMOや乙女ゲームでは人類の敵として描かれていました。

 動物や植物などに魔素が溜まって魔物化しますが、意志の強い人間などの生き物は魔素を受けても通常は魔物化しません。

 それは大量の魔素は生き物にとって栄養素であると同時に毒でもあり、大量の魔素を浴びた人間は死んでしまうからだそうですが、永い歴史の中で魔素の多い土地に住んでいた、エルフやドワーフの血を引く民族が、人族から魔物化したのが魔族なんだそうです。

 外見は浅黒い肌にわずかに耳が尖った人族って感じですね。基礎能力値も人族より高く、寿命も150年程度あったようです。


 VRMMOに出てきた魔族は、大抵はボスキャラとして出てくるのでとても強い敵でした。

 高レベルプレイヤーのパーティを相手にすることを前提としていたので、ゲームではかなり無茶なブーストをされていました。

 なにしろレベル150。レベル=強さとは言い切れないのですが、複数の戦闘系スキルをあげるとHPとMPが増えますので、そのボスキャラ魔族の場合は、HPもMPも1000くらいあったかと思います。

 そして着ていた鎧が防御400のランクAの弩級チートアイテムで、物理耐性70%に物理カット100なので、攻撃力が500近くないとダメージが入りませんでした。

 もうアホかと。戦闘系スキルのみでレベル150なんて、チートさせすぎでしょう。


 そんな魔族しか知らないので、魔の森の村に住む魔族がレベル10程度の魔狼に逃げ惑っているなんて、何かの罠かと思いました。

 そこそこ強い人も居て魔狼と戦っていますけど、一般の魔族って弱い? まぁ、人間だってレベル1から居るのですから当たり前なんですけど。

 仕方ありません。良い人達とは限りませんが加勢しましょう。


「【Lightning(ライトニング)】」


『ギャインッ』

 第四階級の風と水の複合魔法【稲妻】の呪文です。

 さすがに範囲攻撃をして色々巻き込むのは気が引けるので、直線上の全ての生き物にダメージを与える【稲妻】の魔法を使いました。

 四体巻き込めましたが、魔法耐性ランクGの魔狼程度なら一撃で倒せます。

 ちなみに魔法耐性ランクGって、人族やエルフを含めた人類種と同じなんですけど、そう考えるとどれだけ装備が重要なのか分かりますね。

 私がウィッチドレスを身につけた時の防御は物理耐性がランクC、魔法耐性がランクD+αになります。


「な、何だ貴様はっ!?」

「はい、後でね」

 戦士っぽい魔族の誰何をいなして、私は斬馬刀を抱えて魔狼の群れに突っ込む。

 レベル10の魔狼なら特に苦戦する敵ではありません。サクサクと首を斬り飛ばして5分ほど経つと、残った魔狼達は逃げ出していきました。

 そんな私に、魔族の戦士達が警戒したように粗末な槍を向ける。


「貴様、人族……ではないな。ハーフエルフか? この村に何の用だっ! 最近現れた人族の手の者かっ!?」

 やっぱり人族とは仲が悪いのでしょうか?

「人族の国には住んでいますけど、ただの冒険者ですよ」

「ちっ、無法者の冒険者かっ。どうしてここを知ったのかは知らんが、生きて帰れると思うなよっ」

 魔族の戦士達が私を遠巻きに取り囲む。レベル10の魔狼をさくさくと倒していた私を見ているはずなのに、何か隠し球でもあるのでしょうか?

 まぁ、敵対するのなら容赦はしません。広範囲の【酸の雲】で先制するかと魔力を高めていると――


「やめんかっ! 助力して下さった方に何をしているっ!」


 そう叫んだのは村の方から歩いてきた、一人の小柄な老人でした。なんかマスターとか呼んじゃいそうな雰囲気で、それなりの魔力も感じます。

「し、しかし、長老……」

「お前達すぐに下がれ。相手の実力も分からんか? ――で、お客人。茶でも飲みながらお話でも聞かせて貰えるかの?」

「いいですよ」


 マスター長老の案内で村の中に入っていくと、物陰から私を見る女性や小さな子供の姿も見かけました。

 その中で遊牧民が使うような大きなテントのような建物に案内される。

 中には毛皮が敷かれていて壁には魔除けの仮面みたいな物が飾られていますが、長老の家にしては簡素に感じます。

 中に入って床の毛皮に腰を下ろすと、魔族の女性がおっかなびっくり、黄色いハーブティーのような物を出してくれました。

 このテントにいるのは、私と長老、それと先ほどの戦士達が数人です。


「では、」

「見つけたのは偶然。話すつもりもない」

「……そうですか」

 速効で答えると何故か残念そうに呟く長老。

「そんなことが信じられるかっ! 亜人でも人族の国に住むような――」


 ドォンッ!


 抜き撃ちしたブレイクリボルバーの銃弾が、壁際に立った戦士の顔の横にあった仮面を粉砕する。

「外れました」

「当てる気だったのかっ!?」

「どちらでもいいですが、敵対するかしないのか、ハッキリして貰えませんか?」

 肩に当てるつもりだったのがズレました。

 私が本気だと分かったのか、戦士の顔がわずかに引き攣る。

 本当にいい加減にして下さい。私と敵対したいのなら時間の無駄なのでさっさと掛かってくるといいのです。私、好戦的。


「やめんかっ。お客人もすまないが矛を収めてくれんか」

「ん」

 私も好んで敵対したい訳ではありません。でもブレイクリボルバーの引き金に指を掛けたまま頷くと、長老達の顔に汗が流れる。

「……まぁ、聞いてくれ」


 ここに居る魔族達は、百年くらい前の人族と魔族の戦争が起きた時に取り残された人達なんだそうです。

 当時魔族には三つの国があり、そのうち二つは人族国家群に敗れ、残り一つの魔族国家は軍を纏めて、森に魔物を放って撤退した為に、魔の森に住んでいた一般の魔族達も動けなくなり、魔物の被害に怯えながらも細々と暮らしていたそうです。


「ところが最近になって人族が森の中で見かけるようになった。ケーニスタ王国の人族は最悪じゃ。魔族と見れば、男は殺し、女子供は捕らえて奴隷にする」

「なにもこんな近くに住まなくても……」

 確かにこの国の貴族は、一応貴族の私でも、亜人だったらペットとしてしか見てませんからね。

「元々はもっと奥地に住んでいたのじゃが、オークの群れに襲われての。こちらへ逃げてきたのじゃ」

 なるほど。大変ですね。

 逃げても魔の森の中ならどこにでも魔物が出る。でもこの領域を出たら人族に襲われる。それにしてもこんな所にまで人族の奴隷狩り?みたいな人達が来るのですね。

「そこで頼みがある」

 面倒ごとの予感がします。

「この場所ももう危ない。どこも危険は変わりないが、際限なく襲ってくる人族よりマシじゃ。お客人の腕を見込んで、オークの討伐をお願いしたい」

「長老っ! 何もこんな奴に…」

「黙らんかっ! このお客人が本気なら今頃我らは滅ぼされておるわっ」


 長老は私の力がある程度分かるようです。そして最近現れた人族の奴隷狩りから逃れる為に元々の場所に戻りたいそうです。

 別に魔族だからといって無駄に敵対したりしませんが、善意で協力することもありません。


「報酬は?」

「砂金なら少しはあるが……、おおっ、そうじゃっ。昔の物だが魔族の国で兵士が使っていた魔道具が何点か在る。それでどうだ?」

「見せて」

 見せて貰った魔道具は壊れている物もありましたが、ゲームでも見かけた面白い物もありました。

 まぁ、報酬先払いなら受けましょう。

 お仕事内容はまずその昔の村に巣くっているオークの駆除。そして彼らをそこまで送り届けることです。

「では明日から」

「明日からか…」


 そろそろ夜中の三時くらいですからね。今からそちらに行くと朝になりますし、睡眠は大事なのです。

 そんな訳で次の日にまた魔族の村にやってきました。


「逃げ出さずに良く来たな。俺が案内してやる」

「………」

 出迎え兼現地までの案内役は昨日絡んできた魔族の戦士で、ハリーと言うそうです。

 別にこんな、最初から敵愾心剥き出しの態度を取られたからと言って、私は怒ったり根に持ったりしません。

「距離は?」

「真っ直ぐ東に丸一日程度だ。ちゃんとついてこねぇとさらに時間が掛かるぞ」

「時間、掛かりすぎ」

「は?」

 私はハリーの首根っこを掴み、いきなり身体強化4のフル加速で森の中を突っ走る。

「ひぇええええええええええええっ!」

 煩いですよ。

 たかだか時速200キロ程度で男の人が騒がないで下さい。一応念の為に言っておきますけど、根に持ったりしていません。


「………あそこだ。…うぷ」

 一時間後、小高い丘の上で、真っ青な顔になったハリーが村のあった場所を教えてくれる。

「…うぷ…どう攻めるんだ? 前回見た時は50体ほど居たぞ。俺も戦えるが、1体ずつしか戦えないぞ? ……うぷ」

 最低50体程度のオーク。夜ですがそこら中に蠢いている物体が見えます。もしかしたら上位種とかいるかもしれませんね。

 魔物でも全てが敵とは思いませんが、今までのオークは全て出会った瞬間に襲いかかってきたので私の敵です。

「では下がって下さい」

「お、おい、何を…」

「Set【Witch(ウィッチ) Wand(ワンド)】」

 ウィッチドレスと一式の、属性効果15%上昇の杖を取り出して魔力を込める。


「――【Thunder(サンダー) Rainレイン】――」


 魔力二倍消費、威力上昇5割増しの第六階級範囲魔法【雷の雨】が、村全体を覆うように降り注ぎ、オーク達の声にならない悲鳴が聞こえてくる。

 上級の呪文書には第五階級までしか載っていませんでしたが、文字を研究した結果、この呪文がアンロックされました。

 基礎攻撃力70。スキルと杖のブースト込みで260。魔力二倍消費で390になります。ノーマルのオークは魔法耐性ランクEなので通るダメージが243。

 ノーマルオークの体力は250前後なので、例え生き残っていても瀕死で動けないでしょう。


『ブモォオオオオオオオオオオオッ!!!』


 そんな中から数体のオークが雄叫びを上げて瓦礫の中から立ち上がる。

 大きいですね。あれはオークジェネラルと……もしかしてオークキングですか?




 軽い解説。

 オークは作品によって、友好的だったり普通に亜人だったりしますが、この世界では他種族を襲うタイプの魔物です。


 次回、オークキング戦

 次は水曜更新予定ですが、風邪引いたので遅れたらごめんなさい。


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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
今更ながら、こうも頻繁に物理や魔法の耐性やカットが出てくるとはな、どういう計算がなされているのか気になってくる。
恩に着せて、ここに生活基盤を作れるなら家を出てもいい気がする。あの家に拘る理由はないよね? アリアみたいに乙女ゲームから逸脱しよう?
[一言] ポッターはボックr・・・いやなんでもない。 結局母の短剣最後まで出てこなくなったような気がする。出番なくなったか。
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