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■「魔法使い志望か?」


「そこのおまえ。初心者だろ?」


 都市の中心にある広場。その一角にある初心者御用達のビギナーズクエストが貼られている掲示板の前。


 声をかけてきたのは、煌びやかな課金装備をした防御力だけはありそうな剣士風の男だった。


 とはいえ、このゲームにおいて職業クラスという概念はなく、ユーザーは1000近くあるスキルを好みでレベルアップし、それを組み合わせて独自の戦闘スタイルを作り上げるのだ。


 目の前の男は防御と剣技に極振りしたような脳筋というのが見た目でわかる。


「な、なんでしょう?」


 少し緊張感を出しながら初々しさを醸し出した演技をする。


 現在、俺の見た目はチュートリアルでもらえる初心者用のものだ。『始まりのローブ』に『始まりの杖』という魔法スキルを伸ばしたいユーザーが選択する最初の装備である。


「レベル上げを手伝ってやろうか?」


 男の顔が左右対称に笑う。


 『初心者狩り』がどんな人物なのかまではクエストには明記されていない。だから、こいつがそれに該当するのかどうかはわからない。


 ただの親切なユーザーという可能性も捨てきれないので、その場合は丁重にお断りしなければならない。


「えっと、あなたは?」

「オレは、ラインハルトだ。剣士だぜ」


 剣士という職業はないが、まあ自称するのは自由だ。剣にスキルを極振りした戦闘スタイルなのだろう。


「ボクはウツセミです。1週間前に始めたばかりの初心者なんですよ」


 もちろん初心者というのは嘘ではある。パーティーを組んだ時にバレないように、一定時間HPとMPを下げるポーションを飲んでいる。


 基本的に自分よりステータスが高いモンスターであれば経験値は多く手に入るため、それらを駆使しでスキル上げを行っているプレイヤーも多い。単純にHPとMPだけ上げれば攻略できるような単純なシステムでもなかった。


 だからこそステータスを下げる薬も存在する。


「魔法使い志望か?」


 彼はオレの初心者装備を見てそう判断したのだろう。このゲームは割り振られたスキルとそのレベルが大事。さらにアクション要素も強いので、見た目で相手の強さは判断できない。


 まあ、初心者装備を付けていれば、たいていは初心者なんだけどな。


 ちなみに俺は、スピードのスキルに特化した物理戦闘をメインとしている。


「そうです。魔法を使ってみたくて」

「オレがタンク役をやってやるから、パーティー組もうぜ」


 タンクというのは、敵の攻撃を引きつける役割だ。攻撃がそちらに向くので、それ以外のメンバーはダメージを気にせずに攻撃に集中できる。


「いいんですか?」

「初心者を導くのも、熟練のプレイヤーの役目だからな。オススメの狩り場も教えてやるよ」


 本気でそう思っているのなら、いい人なのだろう。


 が、さきほどの左右非対称の笑いが気になる。


 このゲームはプレイヤーの表情も細かく反映できるのが売りなので、リアルと変わらない会話が楽しめた。もちろん、そこには腹の探り合いという、現実世界並の対人スキルも要求されるのが欠点でもあるが。


「なんか良い狩り場があるんですか?」

「ああ、ここから南西に行ったところにロキの森ってのがあって、その中に沼地があるんだ。そこのモンスターの経験値がおいしいんだよ」


 たしかに経験値のおいしいモンスターがいる。だが、少し外れたところにはPvPエリアもあった。あそこを通らなければ狩り場には到達できない。


 もちろんパーティーを組んでいればPvPなんてことはないだろう。が、途中でパーティーを強制解除されたら相手の思うつぼだろうな。


 これで奴が「初心者狩り」である可能性が高くなってきた。こいつと組んで「当たり」であれば、クエストも早々ににクリアできる。


「ありがとうございます。じゃあ、お願いできますか?」

「パーティー組もうか。申請出した、受領してくれ」


 視界の隅にメッセージが表示される。


『ラインハルトから仮パーティーの申請が来ています。受領しますか?』


 俺は、すぐさまコンソールパネルを表示させて、その申請を受け入れる。


 するとパーティーメンバーとなったラインハルトのステータスが一部表示された。


 体力表示であるHPバーと魔力表示であるMPバーだ。どちらも2000を超えている。それだけでも熟練のプレイヤーだということがわかるだろう。


 ただし、表示されるのはそこまでだ。基本的に、攻撃スキルや魔法スキル、補助スキルなどの詳細は自分以外には見えない仕様になっている。


 そのおかげで、俺が熟練者であることを隠し通せるのだ。


「受領しました。よろしくお願いします」


 PvPをやるようなプレイヤーは相手の装備等でその強さを計り、仕掛ける。課金装備や、レアドロップ装備などで判断している者も多い。


 初心者装備は熟練プレイヤーは身につけることはないだろう。防御力も攻撃力も一桁くらい違うわけだから、こんなものを付けるメリットはない。PvPなら不利になるのだから。


 本来なら初心者装備に価値はない。でも、相手の目的が初心者自身なのだとしたら……。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。それともイキってるだけの迷惑ユーザーなのか?


 ある意味楽しみである。


 それは強者の余裕でもあった。



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