表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/475

70:封印されし魔女

 クリスタルの中の女は、クロエのような艶やかな長い黒髪をしていた。ぞっとするほど美しいその双眸は閉じられ、まるで眠っているように見える。死んでいる、と断じるには今にも動き出しそうなのだ。


「モ、モモ……これは?」


 震える声でもう一度呼びかけると、彼女はやっとこちらを見た。いつもの、キラキラと輝く瞳で。


「聖女ヨルダです」


 聖女? 何故聖女がこんな所に閉じ込められているのか。そもそも、この女は一体いつの時代の聖女なんだ? 少なくとも王家の祖先にあたる、初代聖女ではない。彼女は王妃として迎えられたのだから。


(待て、モモは確か、魔女はダンジョンにいると言ったな。そして魔女は元々は聖女だったとも。だとすると、このヨルダと言う女は――)


「貴女よね、私の事をずっと呼んでいたのは」


 レッドリオの思考は、唐突なモモの独り言に打ち切られる。モモはクリスタルの女に向かって、再び話しかける。


「いい加減、だんまりはやめて。せっかくこうして、来てあげたのよ。『真の聖女』……いいえ、真のヒロインのこのモモが」

「ヒロイン……?」


 意味の分からない単語に反応するレッドリオに、ちらりと視線を寄越すモモだったが、すぐにクリスタルに向き直る。


「貴女に聞きたい事は、たくさんあるわ。どうしてクロエが魔女になってないのよ? 山賊に穢されて絶望した彼女がここに迷い込んで、憎しみと呪いに囚われたところを、貴女が力を貸してあげるんでしょ?」

「なんだって……!?」


 聞き捨てならないセリフに、思わず声が漏れる。モモの主張からすると、クロエが魔女になるきっかけは山賊に襲われる事らしいのだが、その前提は覆されている。彼女はシンと二人で、山賊を撃退したのだから。


「クロエが魔女になってくれないと、ロック――グリンダ伯爵が助けに来てくれないじゃない! もうシナリオが滅茶苦茶だわ。大体、あんたも悔しくないの? 王国はあんたを陥れてこんな所に封印した、にっくきチェリー=ブロッサムが幅利かせてんのよ。あんた一人を悪者にして、自分は王子様と幸せになって聖女と崇められて。

ねぇ、悔しいでしょ!? クロエが魔女になる時、そう言ってたもんね。だったらこんな所で呑気に寝てないで、さっさとあの悪役令嬢を魔女にしなさいよ、ヨルダ=ムーン!!」


 怒鳴り散らして、クリスタルをガンガン叩き出すモモ。唖然としていたレッドリオは我に返ると、彼女を羽交い絞めにして止める。小さなその手は、真っ赤になっていた。


「やめろ、これは(いにしえ)の魔女なんだろう!? 封印が解けたらどうするんだ」

「だってクロエが、あの女が悪いのよ! 悪役令嬢のくせに、いつまでもここに来ないから! 魔女になってくれないから、仕方ないから私がやってあげるんじゃない」

「彼女はとっくに魔女に操られているんじゃなかったのか? 君がそう言ったんだろう、モモ! その言い草だと、まるで――クロエに魔女になって欲しい、みたいに聞こえるぞ……」


 最後には、語尾が小さくなる。信じたくなかった、モモがこんな事を言うなんて。彼女はいつでも、他人の痛みを自分の事のように悲しんでくれた。こんな、ライバルの不幸を願うなど。

 祈るような気持ちで見つめるレッドリオの前で、モモの口端が凶悪につり上がる。ニタリと醜悪な笑みでクリスタルをバックに立つと、彼女は天を仰いだ。


「だって私はヒロインで、彼女は悪役令嬢なんだもの」



※ツギクルブックス様より書籍版が10月10日に発売となります。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バナーイラスト
― 新着の感想 ―
[一言] 悲しいねぇ。やっぱり悲劇ってやつはフィクションで楽しむ分にはいいけど、 基本的にそれは現実に起きてはいけないことだから戒めとして心に刻むべきものであって、 自ら望んで悲劇を引き起こそうとする…
[一言] 気持ちよく……かどうかは知らんが。 眠っていたところをこんなガンガンやられたらぶち切れても仕方がない。 まさか魔女化の理由は寝起きの悪さと安眠妨害!?
[一言] おいおい、聖女の神力を持ってて、思い通りにならないライバル聖女への憎しみと呪いに取り憑かれた女が魔女クロエのところにきたじゃないか。 シナリオ通りだぞ、喜べよモモ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ