65:伝説の聖鳥
宿の外に出て、木の枝で地面にガリガリと何かを描き出すモモ。最初は〇、そして中に☆――五芒星の魔法陣であった。円と接する五つの点の上に、それぞれ羽を置いていく。
「真の聖女の名において、我ここに道を示す。陽の如く照らせ、海の如く満たせ、炎の如く燃やせ、闇の如く沈め、毒の如く侵せ……五色の魂をもって、よみがえれ!」
魔法陣の真ん中で水晶玉を掲げ、モモが呪文を唱える……そう、神聖魔法ではない。あれは召喚術だ。『聖女』とは職業で言うならば神官にあたり、系統の違う魔法も同時に扱えるのは極めて稀だ。そのモモが何故……?
「どうやら、あの羽に秘密があるみたいだね。伝説でも聖女は、通常魔法を使ったと思しき描写がある。それが、『聖鳥召喚』だよ。水晶玉で魔力を増幅しているとは言え、腐っても聖女ではあるんだろうね」
イエラオの推察に、レッドリオが目を見張る。聖女伝説に登場する聖鳥は、最初から聖女に付き従っていた。いつ現れたかなど、細かくは伝わっていない。記述があるとすれば、聖教会の禁書だ。
「何故お前がそこまで知っているんだ!? まさか神官たちに古書を全て翻訳させたのか?」
「それでも可能だろうけど、時間も手間もかかり過ぎるよ。カナリアに教えてもらったんだ」
「――っ!? 王族でも知っている者が限られている国家機密を、他国の姫からだと!?」
レッドリオが弟に掴みかかると同時に、鋭い鳥の一声が響き渡った。強烈な耳鳴りに全員が耳を塞ぐ中、魔法陣の上に立つモモだけは不敵な笑みを浮かべている。
「さあ、おいでなさい。伝説の聖鳥よ」
その時、地面を突き破るように巨大な翼が生えた。続いて五色の尾羽、最後にくちばしを天に向け、聖鳥は咆哮を上げる。それはまるで煮え滾った溶岩のように、五色が混ざり合った、些かグロテスクなカラーリングの巨鳥であった。
「こ、これが……伝説の」
「虹色と聞いていたが……イメージとは違うような」
その姿に慄く彼らを余所に、モモは聖鳥の背を撫でる。見た目に反し、熱くはないようだ。
「黄色とか、明るい色が加われば、もっと虹っぽくなったんですが……イエラオ殿下は私が信用できないみたいだったので」
「まあ友情の証と言うか、君に心を捧げてもいいって時にしか出現しないらしいからね、あの羽は。残念ながら、僕の心はカナリアのものだから」
「チッ、これだから転生者は厄介なのよ。シナリオを滅茶苦茶にして……でも所詮、隣国の部外者よね。見てなさい、この世界のヒロインは誰か、今すぐ分からせてあげる」
意味の分からない事を吐き捨てると、モモは聖鳥の背にふわりと飛び乗る。聖鳥は黒板を引っ掻く音のような鳴き声を上げ、翼を羽ばたかせた。
「ま、待てモモ! 俺も行く!」
「お待ち下さい、殿下!!」
レッドリオが今にも飛ぼうとする聖鳥の尾羽にしがみ付き、ダークも後に続こうとするが、イエラオが直前でそれを止める。二人を乗せた聖鳥は、真夜中の空へ吸い込まれるように飛び去ってしまった。





