64:移動手段
現時点で、クロエたちが宿屋を出発して二日は経っている。今すぐ追おうにもホワイティ辺境伯領からイーリス山までさらに何日もかかってしまう。そこに辿り着く頃には、彼女はとっくに修道院に行っているだろう。
「追うのか、クロエを」
「いいえ、あのクロエ様は既に抜け殻……彼女を操っている魔女は、上級者向けダンジョンにいます。シン様が人質に取られている状態なのが心配ですが、魔女を倒せば呪縛も解けるでしょう」
まるで確定事項であるかのように、クロエの状態をそう説明するモモだが、レッドリオたちはどうも腑に落ちない。魔女とはもっと禍々しいものではなかったのか。もしも断罪前にこの話をされていたら、根拠も何もなく信じていたのかもしれないが。
「……ん?」
「どうした、ダーク」
「いえ……」
モモが鏡から離れるほんの一瞬、黒い影が過ぎった気がして、ダークは目を擦った。
「何にせよ急いだ方がいいのも確かだ。キース、シトリンを借りるぞ」
「なんで? 貸さないよ」
飛竜に乗れば、一週間かかる距離でもひとっ飛びだ。そう思い弟に頼んだのだがすげなく断られ、レッドリオはイエラオを睨み付ける。
「話を聞いていたか? 緊急事態なんだぞ!」
「兄上こそ、単身で上級者向けダンジョンに挑むのがどう言う事か分かってる? 下手に刺激して外に魔獣が溢れたらどうすんのさ……魔女と戦闘になると最悪、軍も出す事になるだろうし。
それに兄上、シトリンに嫌われてたじゃん。どうやって乗って行くつもり?」
バカにしたような目を向けてくるイエラオに、カッとなって怒鳴り付けたくなるが、その通りなので言葉に詰まってしまう。実はモモから魔女の話を聞いてすぐに、兵を出すよう国王に要請していたのだが、降臨祭の警護が手薄になると断られていた。何より、その『魔女』本人が聖女代理として王都にいたのだ。
「必要ありません」
悔しさを噛みしめていると、モモがすいっと前に出た。その表情には、何の感情も浮かんでいない。今まであった苛立ちや戸惑いなどが、全て吹き飛んでしまったかのようだった。
「聖女は…『真の聖女』ならば他国の幻獣に頼らずとも、移動手段はあります。ただ、皆さんの力をお借りする事になりますが……」
「本当か、モモ? どうやって……」
「これです」
そう言ってモモが取り出したのは、ふわふわした羽毛の切れ端――赤、青、オレンジ、黒、紫の五色の羽だった。
「なんだ、その羽?」
「これは私たちの友情の証……覚えていませんか? ベニー様たちの抱える悩みが消えた瞬間の事」
その時、脳裏に学園での出来事が蘇った。あれはモモと出会い、心惹かれ、いつしか己の心の内をさらけ出せるようになった頃。ずっとそばにいて欲しいと言う願いと、彼女を守りたいと言う決意が生まれた瞬間。
ぱっと、天から羽が降り注いだのだ。一瞬の出来事で、白昼夢だと思っていた。その時の羽をモモは、こうして持っていたのだ。





