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ダーク=セレナイト③~家族~

 クロエが断罪され、追放された後、モモの養子入りの話を打診されたので、帰宅後父に伝えに行った。父は、渋い顔をしていた。今まで娘を王妃にするため必死で立ち回って来た努力も、クロエの愚かな行いにより水の泡だ。だがモモが来てくれれば、セレナイト公爵家は安泰なのだ。

 ただ一つ残念に思うのは、モモが養子入りする事で、僕たちは兄妹になってしまう事だ。もちろんそれも、夢見てきた事の一つであるが。己の本心に気付いた今となっては――


「母上、喜んで下さい。あの悪魔は王都を去りましたよ」


 煩わしい者のいなくなった屋敷を闊歩するのが清々しく、公爵の後妻となってからも相変わらず厨房でクッキーを焼いている母クララに声をかける。母はチラリと僕を一瞥しただけで、すぐに視線をオーブンに戻した。


「妹を追い出したのが、そんなに嬉しい?」

「何を言うのです。僕にとっての可愛い妹は、これからやって来るんです。きっと母上とも上手く……」

「いい加減になさい!」


 僕の言葉を遮り、母がテーブルをバンと叩く。散々クロエに愛人だの使用人だの酷い言葉を投げ付けられてきたのに、何故そんなに悲しそうなんだ。何故一緒に喜んでくれないんだ。


「ヨナ様がお亡くなりになる時、あの子をよろしくと頼まれたのに……もう、ヨナ様にも王妃様にも顔向けできないわ」


 ヨナ様はクロエの母親で、父の前妻だ。彼女の遺言により、母が後妻になる際にはヨナ様の実家が後見を引き受け、貴族の養子になったのだと聞く。一切交流がないので、名を貸しただけなのだろうが……

 それより何故今、王妃様の名前が……? 訊ねても母は、王妃様の許可を得るまでは自分からは話せないの一点張り。正妻のヨナ様と愛人の母は、仲が悪いんじゃなかったのか? 母の嘆きに戸惑いながらも、クッキーが焦げている事を指摘すると、自棄になっているのか乱暴な手付きでオーブンから取り出していった。


「こうなったからには、モモ嬢は引き取ります。あの子もある意味、被害者でしょうから。だけどダーク、お願いだから貴方までバカな事を仕出かさないでね」

「もちろんです。僕はクロエとは違いますよ」

「そっちじゃなくて……レッドリオ殿下よ」


 言うに事欠いて、母は殿下をバカだと言った。焦って周りを見渡し、誰にも聞かれていないか確認する。いくら母上でも、言っていい事と悪い事があるだろう。文句を言いかけた僕を遮るように、母はどう言うつもりなのか焦げたクッキーを押し付けてきた。


「母上、やめて下さい。こんなもの食べられませんよ」

「クロエ様の作ったお菓子が食べられたなら平気です。あれを教えたのは私ですから」


 差し出される皿を退けようとしていた手が止まる。今、何と言った? クロエは、母から菓子作りを学んでいたのか……そんなはずはない。僕ら親子は、クロエに嫌われている。


「確かに今はまだ親子とは言えないけれど、分かり難くても少しずつ変わっていった事はあるわ。クロエ様は、不器用なの。余所者に自分の居場所が取られるんじゃないかって恐怖と戦いながら、それでも彼女なりにコミュニケーションを取ろうとしてきたわ。あの時は、モモ嬢に夢中になった殿下の目を覚まさせるため、彼女よりおいしいお菓子が作りたいって仰ってね」


 クロエが……決して母を母と認めない傲岸不遜なクロエが、動機は不純とは言え、母を頼ったのか? いや、クロエは「メイドから習った」と言っていた。彼女にとって母は、頭を下げて教えを請う相手ではなく、その辺の使用人と同じなのだろう。それに、あいつのしてきた所業をなかった事になどできない。


 上映会でモモの様子を観察しながら、僕はとにかく毒づいた。己の中の苛立ちをぶつけるために。妹なんていらない。モモにも本当は妹にはなって欲しくなかった。母の様子から、彼女はきっと公爵家で孤立する。僕が守らなければと思った。


 そんなある時、ホワイティ辺境伯の娘シィラから手紙が届いた。探していた書物が見つかったのでお送りしますと。彼女も悪い娘ではないのだが、好意的な態度を見ると罪悪感で胸が刺すように痛い。自分は婚約者がいながら不誠実な事をしている。レッドリオ殿下がモモとの結婚を強く意識しているのは明らかなのに、モモの方は僕たちの中からは特定の相手を決められないと言っているので、こちらは希望を捨てられないのだ。そんな想いを抱えたまま、他の令嬢とはこのまま婚約関係を続けていられない。僕は一度白紙にできないかと、シィラに手紙を書いた。


 後にその事が問題になり、ネブル将軍に預けられて思い切りしごかれた。その余波でレッドリオ殿下も王太子候補から外れてしまい、恨み言でクロエと同類扱いされて散々だった。だがもう、彼女の事を妹だと思えない。いや、最初から無理だったのだ。たとえ相手が殿下であろうと、この気持ちは捨てられない。

 だが責任を取れと言われ、ホワイティ辺境伯からもなかった事にしてやると言われ、婚約は白紙にはならなかった。そうしてクロエが魔女化する話をされてもピンと来ず、言われるがままに中級者向けダンジョンを攻略する日々。ある日、ホワイティ辺境伯から内密に屋敷に来るよう連絡が入った。



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― 新着の感想 ―
[一言] クララさんが現実的な認識と理解を持ってる人で良かった。 クロエの過去の態度や所行を許せとも許せるとも思わないが、それでも理解してくれてる人がいたことに安心しました。 ダークも一杯一杯+負い目…
[気になる点] > その辺の使用人に命じて我儘に付き合わせただけだ。 どうしてそうなるんですか…?
[一言] ……クロエ、もしかして王位継承権を持つ血筋の人? レッドリオとは従姉妹になったりするのだろうか……?
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