53:ドラゴンの背に乗って
ドラゴン――コランダム王国周辺にしか生息しないと言われる幻獣――カラフレア王国はそのエリアから外れており、直接見た事のある者は限られている。ただしレッドリオは、彼等の前に現れたドラゴンをよく知っていた。カナリアがイエラオの誕生日に贈ったとして話題になった飛竜『シトリン』だ。これは単に友好や親愛の証だけではない……イエラオのバックにはコランダム王国がついていると言う宣言なのだと、当時は戦慄したものだ。
『さあ、乗って。これで王都まで一っ飛びだ』
『だ、大丈夫ですか? 暴れたり振り落とされたりは…』
『シトリンはいい子だよ。しっかり躾けてあるから……ほら』
イエラオの合図で尻尾が頭上まで来たので、クロエは反射的に目をぎゅっとつぶる。叩かれると思いきや、その尾は優しく彼女の頭を撫でた。夢を見るような表情で離れていく尻尾を見送り、クロエはイエラオに導かれるままシトリンの背に跨った。慌ててシンも後に続く。
ごうっと唸りを上げて、ドラゴンが飛翔する。背中に取り付けられた手すりにしがみ付いてないと、吹っ飛ばされそうだ。恐る恐る目を開けたクロエは、眼下に広がる景色を見て歓声を上げた。
『す…すごい! 速い! 山があんなにちっちゃい!』
すごいすごいとはしゃぐクロエを見るのは初めてで、レッドリオは悪態をつくのも忘れて見入っていた。はしたない、と言いかけたダークもすんでのところで唇を噛む。何故ならそれは、高慢ちきな貴族令嬢では絶対に見られない可愛さだと、自分たちが絶賛したモモの仕種そのものだったからだ。
(クロエとモモが似ている…? そんなはずはない。二人は真逆だ。正反対の…はずだ…)
胸の奥で過ぎった迷いを払うように頭を振り、モモに視線を移したレッドリオは目を見開く。彼の考えた通り、二人は正反対の表情をしていた。子供のようなクロエに対し、モモはそんな彼女を仇か何かのように睨み付けていたのだ。
「モ…モモ?」
「なんでしょう?」
いつも通りの笑顔でモモが振り返る。それに安心するどころか、背筋が凍った自分に驚いた。あんな憎しみのこもった目をモモがするなんて……いや、確かに彼女はクロエに虐められていたのだから、憎くてもしょうがない。ちっともおかしな事ではない…
「……何でもない」
「ふふ、変なベニー様…ねえ、ドラゴンに乗ってあんなにはしゃぐなんて、如何にも悪女って感じじゃないですか?」
「そ……そうか?」
「そうですよぉ、聖女にはやっぱり、虹色の聖鳥じゃなきゃ!」
モモはそう言ってクスクス笑う。古の聖女が降臨した際に共に現れ、辺りを浄化の光で包み込んだとされる虹色の聖鳥の事は、もちろん伝説なのでよく知っている。ただ、ここで持ち出すのに違和感はあった。まるでモモは――
「まるでクロエ嬢が聖女じゃない事を、念押ししてるみたいだね?」
心を読んだかのように続きを口にする声に、一同は一斉に振り返った。そこには壁に寄りかかったイエラオが、愉快そうに彼等を眺めている。クロエを監視する者たちを、さらに監視しているのだ。背中に、嫌な汗が伝った。





