42:監視報告③
記録された映像は、そこで終わっていた。画面がリアルタイムのグレース教会屋根裏部屋に変わる。
「どうした、もう終わりなのか?」
『ロックに疑われました。ここに来たばかりのダイ様が知らないはずの情報を公言した事で、盗聴していたんじゃないかと……ですからブローチを調べられないよう外していたのです』
「あのバカは余計な事を……それで、どうなった?」
『お嬢様がダイ様の言った事を認め、ここでの出来事を手紙で王都に伝えたのだと……女将たちはお嬢様を引き続きチャコとして雇うと宣言していました』
あのクロエが、シンを庇い自らの身の上を明かした!?
それはレッドリオたちにとって、天変地異にも等しい驚きだった。いくらお気に入りと言えど、クロエにとってシンは恋愛対象ではないと言う事は、改めて感じていた。それでも、シンがクロエに関わった者たちの情報を外に漏らした行いを庇い立てするのか。
ダークも信じられない様子で首を振っている。
「まさか、あいつが……昔から、自分がやらかした事を俺やシンに擦り付けてきた奴だぞ…」
「しかしクロエからしても、自分が監視されていたと知ってしまったんだろう」
『それなのですが……お嬢様は最初からご存じでした。ただし、御父上の命令だと思われているようですが』
「そうなのか!?」
夢にも思うまい、と嘲笑っていたのが、まんまと一杯食わされた気分だ。ならば尻尾を出さないのも、監視を前提にしていたからなのだろう。シンによれば、右宰相には実際に手紙を出していたそうで、ダークを見遣れば必死に首を振っていた。どうやら初耳のようだ。
とりあえずその後の顛末については、ダイはロックたち一行に無理矢理加わり、今も上級者向けダンジョンに挑んでいるとの事。クロエがロックに持たせる手作り弁当は、モモと比べるからとロックが嫌がっているが、構わずに手を伸ばしてくると彼等がぼやいていた事。ダイが監視組に加わり独断で自分を見定めに来た事に関して、クロエは何も言わない事などを報告された。
『直近の出来事としては、こんな感じになっています』
「ご苦労だった。ところで……」
「シン様、聞こえてる? 私もいるわ」
突然モモがブローチを奪い、鏡に向かって話しかける。向こうにはこちらの姿は見えないが、シンは声を聞いてそこに彼女がいる事に初めて気付いたようだ。
『え…っ、モモ様!?』
「私のために、嫌な役目を押し付けてしまってごめんなさい。クロエ様の側にいる事は、傷付いた貴方にとって辛い事なのに……」
『いえ、私は平気です。それに、昔の仲間にも会えましたし』
「無理をしなくてもいいのよ。きっとすぐに自由にしてあげるから。だからもう少しだけ耐えて、ね?」
やけに親しげな口調に、レッドリオの眉間に皺が寄る。彼女は誰にでもこうなのだと分かってはいるのだが、シンはクロエの専属執事である。彼女からの嫌がらせを受けながらも、親交を深めていたのかと思うと、何とも言えない気分になった。
モモは部屋にいる男たちを見渡すと、鬼気迫る表情で口を開く。
「皆さん。今日初めてクロエ様の現状を観察しましたが、事態は思った以上に深刻です。胸に邪心を秘めた者が上級者向けダンジョンのような、特別瘴気の濃い場所に長らくいる事は、非常に危険。
このままでは魔に魅入られた彼女は、聖なる力とその身を自ら堕とし、魔女として覚醒してしまうでしょう」





