277:魔獣との契約の裏側
「……何だそいつは」
低い声で、腕の中のメランポスを指差すレッドリオ殿下。物凄く機嫌が悪そう……メランポスもグルルル…と歯を剥き出しにして威嚇してるし。どうどう。
「『メランポス』ですよ。殿下もあの戦いで大活躍したのをご覧になったでしょう? 今はこぉんなに可愛い形態になってますけど」
「それは知っている! 何故、魔獣ガルムが宿屋の寝室にいる!? そいつはロックのペットなんだろう、何故お前に懐いているんだ!」
そう言えば、殿下にはまだ説明してなかったっけ。と言うか、最終決戦後にまともに言葉を交わすのもこれが初めてだったわ。次に顔を合わせたら何を話そうかあれこれ悩んでいたのに、完全にそういう雰囲気じゃなくなってる。
(とりあえずメランポスの説明を……一からしていたら長くなるから寝室の経緯だけでも)
「ええ、本当なら犬小屋で大人しくさせるところなんですけど。ここ数日は人の出入りが激しいせいか、この子も落ち着かなくて。それなら親である私たちの側に居させた方がいいと、女将さんから許可を」
「親である私たち……っ!?」
ざっと説明しようとしたのだが、殿下は私の台詞の一部に異様な反応を示すと固まってしまった。何かまずい事でも言っちゃったかしら?
そこへ、ロックが溜息を吐いて割り込んできた。
「……クロエ、言い方。彼女にはメランポスの名付け親になってもらったんだよ。万が一、俺がいない時に人を襲わないために」
「名付け親だと!? 正気か、お前は魔女の嫌疑をかけられていたんだぞ! 魔獣と契約など、格好の的じゃないか」
そうは言ってもロックのついでだし、危なかったら彼も止めてたはず……まあ確かに、上級者向けダンジョンの裏ボスとも言えるガルムと契約なんて軽率だったかもしれないけど。
「シン、何故報告しなかった!」
「申し訳ございません。私が知った時には既に契約は終わっていました。幸い、事実上の主はロックであり、お嬢様はあくまで名前を提案と言う形で――」
ちょっと反省した私とは逆に、怒鳴り散らされてもしれっとした顔で返すシン。そもそも、あの時点で報告していたらどうなっていたの? 殿下の仰る通り、私は魔女だと断定されていたかもしれないのよね。ロックが否定してくれても彼はよそ者なんだし。大体、手助けしてくれたのにそこまで怒らなくても……
「そんな言い訳が魔獣に通用するか! 本来一人であるはずの主従契約を分かち合うと言う事は、ガルムにとって二人は、ふ、ふ…ふ……」
何がおかしいのか、突然笑い出す殿下。いや、これは怒りのあまり舌が回っていない? 元婚約者であっても魔性の者と通じるのは歓迎される事じゃないものね。うん、このままじゃ埒が明かないし、早々に非を認めて謝った方が良さそう。
私はスッと立ち上がり、メランポスをロックに手渡すと殿下と向き合った。第一王子を立たせたままで、自分が座りっぱなしでいる訳にもいかない。
※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。
※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。





