267:愛に殉じる者たち③
酒場で揉めていたのは、ダイ様の家族だった。カップの破片と共に、ダイ様が床に転がっている。
「戦いで腕を失くしたと聞き、飛んで来てみれば……言うに事欠いて、このバカ息子がっ!!」
「何だよ! 騎士たるもの、腕の一本や二本犠牲にしてでも大切な者を守り抜けって、いつも言ってるくせに!!」
ぎゃあぎゃあ喚いている中に入り辛いが、破片を散らばったままにしておく訳にはいかない。そろっと身を屈め、床に手を伸ばそうとすると、止められた。女将さんとキサラだった……あんた今までどこにいたのよ?
「すみません、女将さん。後で弁償はしますから」
「あんたが謝る事じゃないけどねぇ……この人らが使う分はすぐには調達できないからね?」
彼女たちが箒と塵取りを持ってきて片付ける中、ダイ様親子はますますヒートアップしている。この場を収めなくてはと思った私は、彼らの間に割り込んだ。
「あのっ! 将軍、この度は御子息をお守りできず、申し訳ありませんでした」
突然の乱入に、ネブル将軍もダイ様もきょとんとしている。が、とりあえず矛は収めてもらえたようだ。
「何を仰るか、セレナイト公爵令嬢。ダイはむしろ、身を挺してでも貴女方を護衛する立場ですぞ」
「そうだぜ、それに俺は後悔なんてしてないしな」
そうは言うが、ダイ様の腕は残ってさえいれば繋げて治す事もできたのだ。私があの後、気を失ってしまったから……
「クロエ嬢、我々が愚弟を責めるのは腕を失った事についてではありません」
ゴン、と軽快にダイ様を小突くのは、姉のリンジー様。
本当かしら? 御母上なんてハンカチに顔を埋めて嗚咽漏らしているし、道中でダイ様が次元の裂け目に突っ込んでいった事など絶対にバラせないんだけど。
「あろう事かこのバカ息子、公爵家の使用人に……」
「しょうがねえだろ、惚れちまったんだから! 俺はもう、キサラと結婚するって決めたんだ!!」
……結、婚。
しばし呆然とその言葉を飲み込み、視線を向ければキサラが全力で首を振って否定していた。
「私はお断りしました!! なのにずっとこの調子で付き纏われて……大体、お前のせいでこうなったんだから責任取れだなんて、卑怯です!」
「んな事言ってないだろ!? この傷はお前を守れた事の証で、俺の誇りなんだから。キサラ以外の女なんてあり得ないって……」
頭を抱えたくなった。要するにキサラも私と同じように、ダイ様の腕を失わせた事に責任を感じているらしい。そりゃそうよね、騎士を目指す若者の未来を奪ってしまったんだもの。
だからってキサラの意思を蔑ろにする訳にもいかないし……
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