241:LAST GAME
真壁君から告げられた言葉に、わたしはしばらく放心していた。
(渡したい物……伝えたい事って、どう考えても、アレだよね!?)
ここで期待を裏切って、ついに別れ話という線も捨て切れないが。それならそれで、どちらにしろ宙ぶらりんな今の状態を脱却できる。もうわたしは、何年ももやもやした想いを抱え続けるのは限界だったのだ。
(絶対に行かなきゃ……這ってでも会いに行って、真壁君の口から本当の気持ちを知りたい!)
それからわたしは不安を払拭するようにがむしゃらに働いた。毎日くたくたなのにベッドに横になると最悪の事態ばかり頭に浮かんで目が冴えてしまう。朝、鏡を見ると疲れた自分の顔と対面させられ、その度に溜息が出た。
(えーい、もうなるようにしかならない!)
いよいよ誕生日、わたしは緊張した面持ちで会社に向かった。前日に美容院に行き、仕事が終わればスーツから着替えられるようよそいきの服も持ってきている。隈が酷かったので、休憩時間の度に化粧を直しておいた。
「黒江君、最近張り切ってるねー。そんな君に、私からプレゼントだ」
「えっ、あの部長……今日は」
「頼んだよ。じゃ!」
なのに今日に限って、残業を押し付けられてしまう。これを全部片付けるとなると間に合わなくなるが……スマホを握りしめていると。
「先輩、今日は彼氏とデートなんでしょ? ここは私が日頃の恩を返す時です!」
「恩に着るわ! ……と言いたいとこだけど、貴女にまだ任せられない内容もあるから、半分だけお願いできる?」
「いいんですか? ここんとこずっとそわそわするくらい楽しみにしてたのに」
「ぎりぎり行けるかもしれないから、連絡入れとくわ」
スマホに『残業で遅れるかも』とメッセージを送ると『了解』とだけ返ってきてホッとする。どうやらキャンセルしなくて済みそうだ。
後輩のアドバイスにより会社で着替えと化粧を済ませ、バス停に着く頃には天気予報を裏切って雨がパラパラ降り始めていた。
(幸先が悪い……それに灯台までかなり時間がかかるから、移動中どうやって時間潰そう)
とは言え、こんな時のために鞄の中にはゲーム機を忍ばせていた。もし真壁君と上手くいってもいかなくても、いい加減疑似恋愛とは卒業した方がいいかもしれない。つまり今回がゲームの仕納めになる。
(こんなにもハマるとは予想外だったけど……わたしの現実逃避に付き合ってくれてありがとね)
全部が全部そうとは言えなかったけど。例えば幼馴染みのモブだったり……わたしと同じ名前の悪役令嬢だったり。
(うん、やっぱりどんな理由があろうと、いじめはいかんよいじめは。絶対一生後悔するもの)
今なお払拭できない、真壁君との出会いにおける確執。架空の物語だと言うのに、『クロエ』からの嫌がらせが起きる度に現実に引き戻される。バスの窓から外を眺めれば、わたしの心を表すかのように雨の勢いが強くなってきていた。
惰性で動かす手の中で、夢のような恋愛劇はさらに続く。
みんなが憧れる王子様、刹那的な恋を楽しむ乳兄弟、わんこのような脳筋騎士見習い、生真面目な宰相の息子、そして大本命の執事。平民でありながら次々とイケメンたちを夢中にさせていく主人公に、悪役令嬢『クロエ』も黙ってはいられない。
『パレットさん。貴女最近、随分と調子に乗っているのではなくて? そんな貴女に、わたくしから素敵なプレゼントがあるの。受け取っていただける?』
この『素敵なプレゼント』というのは例の如く嫌がらせの事だ。ゲームのシナリオ上、彼女から与えられる試練をクリアする度に攻略対象との絆が深まるので、必要なイベントだと分かっているのだが……
(ついさっき、部長からおんなじ事言われてんだよこっちは! なんでよりによって『クロエ』って名前のキャラがその台詞を言うのよふざけんな! そういう根性悪だから嫌われるのよあんたは……
あー、何度やってもこの悪役令嬢ムカつくわ。さっさと死んじゃえばいいのに)
極度の疲労と眠気でうつらうつらしていた頭で、わたしはそんな事を愚痴った。
次の瞬間――
ガクン!!
体に衝撃が走った。
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