21:聖女の幼馴染み
場面はいきなり飛んで、休憩時間になった。さすがに朝食の準備中の手を止める訳にはいかなかったのだろう。
軽食が置かれたテーブルにはクロエとシン、そしてロックが向き合うように席に着いていた。
『モモ=パレットを知っているかと言う話だったわね……ええ、そうよ。モモ様は真の聖女となったわ。そして仮の聖女だった第一王子の婚約者と入れ替わる形になったから……将来は王妃にでもなるのかも』
自分がモモを虐めて王都を追い出されたとは言わない。ロックはその自嘲の笑みに気付いていないのか、それよりもモモの現状に愕然としているようだった。
『あいつには無理だ! モモは昔っから天然でドジで…でも明るくて元気をくれるようなやつだった。聖女も王妃も荷が重過ぎる! 何もない田舎でも、俺はあいつが側で笑っていてくれれば、それで幸せだったのに……モモにとっては、そうじゃなかったのか』
ドンとテーブルに拳を叩き付け、悲痛な声を上げるロック。彼もまた、モモに想いを寄せる一人なのだろう。いや、レッドリオたちと出会うずっと前の、昔のモモを知る男だ。当然面白い訳がなく、監視者たちは渋い顔をしている。
『モモ様の思惑は分かりませんが、聖女は神に愛され聖教会に選ばれた存在。授かった力を国のために尽くすのが使命なのです』
『一体誰がそんな事決めたんだよ!?』
『もちろん、神がお決めになったのですわ。そして聖教会と王家は御声に従ったのです』
『くそ…!』
あろう事か、神への冒涜を叫ぼうとするロックの口を、クロエが咄嗟に押さえた。もしクロエが言っていたならば、即座にシンが斬り捨てていたのだが、追放されてから妙に聞き分けがいい。もしかして、監視されているのに気付いているのだろうか。…いや、だったらレッドリオに見られていると知っていて、シンと同室などあり得ないだろう。
『お気持ちは分かりますが、滅多な事は口になさらない方が賢明です。何より、これはモモ様も納得された事』
『…それで? モモはその王子に惚れてんのか』
『さあ……殿方は皆、随分ご執心でしたけど……どうでしょう』
「何言ってんだ、モモは俺に惚れてるに決まってんだろ!」
スクリーンに向かって反論するダイに、周りから次々とツッコミが入る。
「寝言は寝て言って欲しいですね、これだから脳筋は…」
「お前らみたいななよっちい奴じゃ、モモは守れねえよ」
「モモは私のようなお兄様が欲しかったと言っていましたよ」
クロエを断罪するために一致団結した彼らも、恋心が絡めばすぐこの有り様だ。
そんな中、イエラオだけが唯一空気の読めない発言をした。
「男はみんなモモ嬢が好きだってのは訂正して欲しいよなあ。だって僕はカナリア一筋だもの」
イエラオは他国の公爵令嬢である、カナリア=リクームと婚約している。レッドリオから見て、親から決められた相手をすんなり受け入れるのは、自分と言うものがないように映る。もっともカナリアはクロエと違い、大人しくてイエラオの側にいるだけで頬を染めるような素直さはあったが。
「ふん、モモの魅力が分からんとはお子様め」
「はいはい、でもライバルは一人でも少ない方がいいでしょ? こんな所で幼馴染み登場だけど、どう思う?」
「どうにもならん。どうせ奴がモモと会う事はないからな。モモも奴とは連絡を取っていないようだし、その程度の仲なんだろう」
そう言って見遣った鏡の中では、見るからに落ち込むロックを慰めるクロエの姿があった。





