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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
学園編

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95/140

95話

「は……? オッキデンス、ですか?」

「ええ。私の知り合いが、直接話をしたい、と」

そう、言われても。

明日、明後日で急に行けるわけでもないし、今のところ行く予定もない。

「もちろん、今すぐにというわけではないですが。考えておいてください」


その日ヴォリアさんと話したのはそれだけ。

それ以降はジュリアとジネブラさんと今後の営業に関して話をしていた。

俺はその間店番。と言っても人があまり来ないので前で立ってるだけだけど!!

もうほとんど、この店で俺にできることはないなぁ。

ジュリアの伯父さんが連れてきたヴォリアさんなら信用できるし、俺よりも専門家だし。

別のバイト探したほうがいいかもなぁ。

そんなことを考えていたら、ジュリアに声をかけられた。

「あの、ライさん。久しぶりに一緒にご飯食べませんか?」

初めて会った時と同じ、満開の花のような笑顔。

「…………もちろん」

この笑顔も、もう見られないかもしれない。


◆◆◆◆◆


「ここ、私のおすすめのお店です! って、前にも紹介しましたね」

少し照れ臭そうにそう言ったジュリアに俺もふっと笑った。

しばらく他愛もない話をして、それからふと会話が止まり沈黙が訪れる。

「あのね、私、ライさんには本当に感謝しているの」

ジュリアが急にそうこぼした。

「ライさんがいなかったら、伯父さんも言ってたけど、私とおばあちゃんはきっと借金にまみれて伯父さんの言った通りのことになったんだと思う」

「うん」

「おばあちゃんもね! ライさんが初めて来て、店の、パパがいた時と、いなくなってからの商品をぴったり当てられて、すごく動揺したんだって。自分じゃ、パパの代わりはできないどころか、パパの遺したものも守れないって」

そう言えば、俺がはじめ指摘したときに涙を流していたな、と初めて会った時のことを思い出す。

「ライさんが来てくれてから、今まで反対ばっかりだった伯父さんも手伝ってくれて、ヴォリアさんも来てくださって。本当に感謝してるんです。ありがとうございます!」

純度一〇〇パーセントの好意を向けられて少したじろぐ。

やめてくれ。俺は別に、純粋な気持ちで助けたわけじゃない。

いや、よこしまな考えがあったわけじゃないけど、自分のためっていう思いが強かったし。

素直にその感謝の言葉を受け取れない自分がいる。

何とも言えない表情をしている俺を見て、ジュリアはその花のような笑顔をくしゃりとゆがめた。

「…………やっぱり、ライさんも気づいてます、よね……」

何に??

突如目に涙をため始めたジュリアに、俺は内心きょとんだ。

でも、ジュリアはそんな俺に気づいていないのかそのまま話し出す。

「今日、ヴォリアさんに言われたんです。ライさんは、正式に鑑定できる人が来たら……っ」

ついにぽろぽろとこぼれ始めた涙に、俺は内心やっぱりか、という気持ちだ。

ヴォリアさんが俺を見るときの品定め間。それが昨日と今日。今日の最後には完全に切り捨てる時の顔してたもんな。

「やっぱりなぁ。そうかなーとは思ってた。タイミングは聞いてる?」

「いえ…………、ただ、できるだけ早くちゃんとした人を見つけるって。ライさんだって、ちゃんとしてるのにっ!」

憤ってくれるジュリアにはありがたいが、そこはどうしようもない。

「俺はしょせん素人だからなぁ」

そう言いつつ、ポケットのハンカチをジュリアに渡した。

「まぁ、わかってたことだし、バイトに関してはほかを探すよ。ジュゼッペオーナーあたりが店紹介してくれないかなー」

と、俺としてはあまり気にしてないんだけど、ジュリアは俺以上に気にしているらしい。

「あの、もしも、お仕事を辞めたとしても、こうやってたまに会っていただけませんか!?」

予想していなかったその言葉に俺は一瞬言葉を失う。

でも、そんな俺の反応に顔をうつ向かせ、悲壮感を漂わせるジュリアに、慌てて俺は返事をする。

「も、もちろん! 俺でよければ。っていうか、なんで俺?」

素朴な疑問だ。

正直ジュリアと出会って、あの店で働きだしてからいうほど時間経ってないぞ。

「あの時、私本当につらかったんです。誰からもそっぽを向かれて、今まで私たちにやさしかった仕入れ先の商人さんも、だんだん足元を見るようになってきて。真剣に、何とかするために私たちをまっすぐ見てくれた人って、ライさんだけだったんです」

そりゃ、そうだろうなとは思うが。まぁ、俺の存在がその時のジュリアとジネブラさんの心の支えになったのかな……?

「うん。別に、そういう理由なら。ただ、変に恩人感出さないでね? 俺は、ジュリアとジネブラさんとはそんな風に話したくはないから」

ピッと小指を立てて、差しだす。

もちろん指切りげんまんなんて文化はないからジュリアは俺の顔と小指の間で視線を往復させている。

「やくそく。小指を絡めて?」

「は、はい……っ!」

恐る恐るジュリアが差し出した小指に、俺の小指を絡めてきゅっと力をいれて上下に振る

「やくそく。ね?」

「はい! 約束です!!」


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