94話
ここにきて、騎士科と魔導士科の混合パーティーチーム作りも、骨董品屋ジューノのことも少しずつ進展し始めた。
あと問題があるとするならば。
「これ、だよなぁ」
【愛おしき 我らの賢者 ライ様へ】
ホフレからの手紙。
依然として内容の八割から九割は俺に対する会えなくてさみしいとか、お姿を拝見したいだとかいう内容だが、問題は残りの二割から一割。
どうやら、俺派を名乗る貴族はもとから何人かいたらしい。
そいつたちはマヤ派、母上の派閥を隠れ蓑にしていたらしい。
それが母上と父上の仲が改善され、母上が俺を担ぎ上げなくなった。
それにより勢いを失った母上派の貴族たちを少しずつ自分たちの派閥に加えていったそうだ。
だが、俺がまだ王宮にいたし、俺の周りはキュリロス師匠とバルツァー将軍が睨みを効かせていたため俺に近づけなかった。だから、表面化しなかった。
それが、俺が王宮から消えた。
頭に置く俺がいないから、俺派の貴族としてはやりたい放題。
何を言っても、肝心の本人がいないから真偽は確かめられない。
非常に面倒だ。
思わず頭を抱えたくなる。
次の長期休暇に入ったら、俺は一度王宮に帰るつもりだ。
ジュリアの店のこともあるから、そう長く王宮に滞在するつもりはないが、その時に自分の目で一度確認する必要があるな。
非常に、面倒くさい。
でも何とかしないとだめだよなぁ。
で、もう一つ対応しないといけない問題が。
【それから、あなた様のご母堂から、恐れ多くも手紙を預からせていただいておりますので同封いたします】
母上からの手紙の中身は、俺の身を心配する言葉。それから、俺の許嫁にこの子はどうかという釣り書き。
ほとんどが母上の出身でもあるオストの貴族の娘さんだ。
【バルツァーのものが、娘の手紙にあなた様からの返事がないとかで騒いでおりました】
レアンドラ嬢からの手紙。おそらく、レアンドラ嬢からバルツァー将軍へ、そして将軍から王宮の配達人へ。
王宮の配達人からは父上から送られた学園都市内にある王宮所有の別宅に届いてるんだろうなぁ。
でも、おれそっちの家使ってないからなぁ。
今無人なんだよなぁ。
そうか、俺の知り合い少ないから、そっちに手紙が届く可能性を考えていなかった。
レアンドラ嬢からの手紙だから、というわけではなく、女性からの手紙を無視するのは紳士としてだめでしょう。
少なくとも俺の心の師匠、キュリロス師匠はそんなことしない。
近いうちに、というか、今度の休みに一度訪れてみよう。
さて、なんと書かれた手紙かはわからないが、たぶん何通も無視してるよね。
「なんて返事しよう」
俺は頭を抱えてうなることになった。
週末が憂鬱だ!!
◆◆◆◆◆
まあ、とりあえず手紙のことは置いておいて、俺は次の日もヴォリアさんと話をするために店に顔を出す。
「こんにちはー。ヴォリアさんいますか?」
「こちらです」
ひょこりと店の奥から顔を出したヴォリアさん。
今日の業務内容のメインがもはやヴォリアさんと仕入れに関して話をすることなので、そのまま店の奥のスペースに進む。
すると昨日までなかった小さなテーブルと椅子が店の奥、居住スペースに上がるまでの空間にあった。
「休憩できる場所がないのは、少々不便かと……」
なるほど。今迄気にしてなかったけど、なるほど。
バックヤードにそりゃ座れるスペースがあったほうがいいよね。
「どうぞ?」
「あ、どうも」
腰かけると、早速本題に入った。
内容としては、この店の仕入れの品質の話。
ジュリアが何もわからずに仕入れた商品に俺が値段をつけてたから、その話がメイン。
まあ昨日のやり取りの延長線上のようなもので、すぐに話自体は終わる。
しかし、話が終わってもヴォリアさんは席を立たない。
ヴォリアさんが席を立たないから、俺も席を立ちにくい。
「あの?」
「…………昨日話していた、ジテンシャ? の話だが、知り合いの技術職に話したら、非常に興味がわいたそうだ」
まさか、昨日の今日で話を通してくれているとは思わなかった。
「あなたの話を聞いて、正直イメージが浮かばない。そんなものを商品として取り入れようとして商品開発に踏み切る商人はいません」
そりゃそうだろうな。
俺でもそうだ。売れるイメージがないのに商品を作るほど暇じゃないって思うだろうな。
「ですが、私の信用する技術者が面白いと言う。のであれば、商品にする価値はある、と。私は思う」
そこで一度言葉を切ったヴォリアさんが、俺の目をまっすぐ見つめてくる。
「あなた、オッキデンスに行く気はないですか?」




