92話
俺に改竄者とか指揮者とか厨二病チックな二つ名があると発覚した日の午後の講義。
朝は座学だったので、昼からは実戦だ。
いつも通り一対一の訓練では相手にぼろ負けし、複数対複数では辛勝もあれど順調に白星を並べる。
で、最後のお楽しみの時間。
俺、シロー、アルトゥール対クラスメイト六人。
みんな俺が魔法で強化することをわかっているから、視線が突き刺さる。
「いやん、えっちー。俺のことそんな見ないでよ」
相手を馬鹿にするように、俺は自分の体を抱き寄せながらそう言った。
びきりと相手数人の額に青筋が走った。
「俺のことそんな見つめてー。気になるのはわかるけど、俺緊張しちゃーう」
くねくねと体をくねらせれば相手が俺の言うことを気にしないように平常心を取り戻そうとしていることがわかる。
「じゃあ二人とも、俺のこと守ってね?」
「おう」
「はいはーい!」
二人が剣を構えたのを合図に、六人が一斉に俺に向かって走り出してきた。
それに対してシローが大きく剣を振り、一瞬相手が踏み込むのをためらった。
左右から回避しようとする奴らに対しては、アルトゥールが持ち前の反射神経と素早さでけん制。
その間に俺は自分自身に対して素早さバフをがん積みにする。
「じゃ、戦況を変えていこうか」
シローとアルトゥールが剣を振るう場所から離れるために、俺は一気に駆け出す。
素早さの上がった俺の急な動きに反応できず、相手に少しの隙ができた。
その隙にアルトゥールに数秒しか効果はないけど攻撃力そこそこアップのバフをかける。
突如打撃が強くなったアルトゥールに対応しきれずに、一人剣を飛ばされた。
残り五人
急遽一人アルトゥールの相手をするためにそちらに流れたが、やはり俺を倒すことを相手は優先しているようだ。
シローとアルトゥールの相手をする二人以外の三名が俺を追いかける。
しかし、早々に一人やられたことは想定していなかったのか、初動が少しもたついた。
一秒あれば効果は時間は短くとも仲間にバフはかけられる。
シローに素早さバフ。
シローは自分の相手の攻撃をいなし、そのまま俺を追いかける敵の、最後尾の奴に対して剣を振り下ろす。
対して剣を振り下ろされたほうは、とっさに反応はしたものの後ろからの不意打ち。
ろくな対処ができずにシロー持ち前の馬鹿力で剣をその場にとり下ろした。
素早さバフの切れないうちに、シローは自分を追いかけてきた敵の攻撃を素早く受けた。
残り四人
そろそろ自分にかけた素早さバフの効果が切れる頃合いだ。
切れる前に踵を返し、シローとアルトゥールの間を通り抜ける。
自分の仲間の邪魔にならないように、かつシローとアルトゥールに攻撃されないように。
そう考えて俺の後を追って二人の間を通り抜けようとすると、やはり気は散漫になるようで。
あと数秒。素早さの落ちないうちに、相手の反応できない速度で振り返り下から上へと剣を打ち上げる。
周囲を確認することに気を使っていたせいもあり、剣をとばすことこそできなかったが大きく体勢をくずさせた。
反撃されないうちに、自分に効果時間は短いがそこそこ攻撃力の上がるバフをかけて、敵の剣を横から思いっきりたたき飛ばした。
残り三人
シローの相手と、アルトゥールの相手。それから俺を追う最後の一人。
でも、俺がアルトゥールとシローの間合いの間を通って、なおかつそこで一人敵を先頭不能にしたことによりそいつは足を止めざるを得なかった。
まっすぐ進もうとすれば、今戦闘不能になった仲間が邪魔。
迂回しようにも、そのためにはアルトゥールとシローという手練れの間合いに入る必要があるので躊躇する。
どこから攻めるべきか、考えるために隙が生まれ、数秒あれば魔法でバフはかけられる。
「チェックメイト」
シローは力を、アルトゥールは素早さを強化する。
ただでさえ押されていた各々の相手は、強化された二人に勝てずに剣を取り落とし、
シローとアルトゥールはそのまま最後の一人。俺を追っていた奴に剣を突きつけた。
「残念今回も俺たちの勝ち」
「そう簡単に、俺様たちのアタマがとれると思うなよ」
「悪いけど、まだまだ負ける気あらへんよ?」
多人数対少数の有効的な戦法は、狭い通路に誘い込むこと。
まさに最後俺が狙ってやったことだ。
シローとアルトゥールの実力を知るものであればあるほど、二人の間合いに入ることを嫌う。
だって数人がかりでたたきにいかないと、かなりきついもの。
俺を追っているのであれば余計に。
二人のどちらかの間合いに入り攻撃をうけ、それを受け止めてしまえば俺に魔法を打つチャンスを与えることになる。
ならば、必ず追手は二人の間合いを避ける。
だから、事前に二人の間合いと間合いの間に隙間を作ってもらってた。
間合いに踏み込まないように、一人ずつその隙間を通って俺を追いかけたら二対一があっというまに一対一。
その瞬間を逃さず、きちんと一人の剣を弾き飛ばさせたのは俺が少しずつでも成長している証拠だろう。
「俺の実力、試合への影響力を知っていれば知っているほど、俺のことを無視できなくなる」
だから試合前にわざとむかつく言い回しで興味を引いておいた。
できるだけ俺を追わせて、シローとアルには一対一でここぞというときにとどめを刺す余力を残してもらいたかったのだ。
俺が誘導をし、とどめを刺してもらう。
ついでに二人の強さと存在感が俺を守る作戦の要になり、守られた俺が勝つための補佐をする。
『戦況の改竄者』
悪くない異名なんじゃない?




