91話
学食は大広間になっている。
その大広間の端から端までの一続きの長テーブルと、背もたれのない長い椅子。
それが六セットほど並んでいる。
某魔法学校の大広間を想像してもらえればわかりやすいと思う。あんな感じだ。
その大広間の四辺に学食が料理の種類ごとに店舗が分かれて並んでいる。
フードコートみたいな感じかな。
各々自分の食べたいものを注文して、トレーで席まで運ぶ。
テーブルも椅子も、一つの長いものをみんなで共有するので、がたがた揺らしたりふざけているとめちゃくちゃ怒られる。
まあ俺はやったことないけど。
結構料理自体は『俺』の世界と変わらない。
もちろん原材料名がこっちの世界基準というような違いはあるけどね。
あと、日本ナイズドされた似非世界料理じゃなくて、各国で食べるような本場の料理。
俺は馴染みのある日本料理チックな定食を大盛で選んでしまう。
シローは基本的に二~三か国くらいの定食を大盛りでもらってくる。
アルトゥールはその日の気分によって選ぶ国はまちまちだけど、俺と同じく定食は一つ分だ。
そして食器はスプーンにナイフにフォークに箸。
この辺も『俺』の世界の時とほとんど変わらない。
世界が変わっても人間考えることは一緒なんだなって思ったよねぇ。
「さて、じゃあ話しながら作戦会議としゃれこみましょうか!」
◆◆◆◆◆
俺がアルトゥールとペアを組んでから、ミューラー先生は初期の一対一の対戦形式に加え、複数人対複数人のチーム戦を積極的に取り組むようになった。
基本的ペアはミューラー先生が決めるが、最後は自由に組んでいいことになるので、俺とアルとシローの三人ペアと、ほかのクラスメイト達。
俺たち三人対いったい何人までのチームになら勝てるのだろうかと、一人ずつ人数を増やしている。
ちなみに今日の午後は俺たち三人に対して相手は六人だ。
「実質シローとアルトゥールで三人ずつ倒してもらわないとだめだからなぁ」
「くそ雑魚が」
「誰の魔法のおかげで前回勝てたと思ってんだコラ」
もはやお約束というか、俺とアルトゥールが口論を始めるも、シローも形だけとわかっているので軽く流してくる。
「今迄みたいに俺が敵をいなすのもそろそろ無理」
「だろうな、貧弱」
「ライは剣に関してはなぁ……」
「あ、俺のガラスのハートが傷ついた。訴訟」
まあ実際問題その通りなんだけどさ。
三人対六人。倍の人数を相手にするなら、どうすればいい?
戦場は訓練場のだだっ広い空間。
誘いこんで各個撃破はできないなぁ。
「うーん。パーティー組むならヘイト管理したいんだけどね」
「ヘイト管理?」
通常RPGにおいて、敵キャラ、モブキャラには恨みゲージ(ヘイト値)がある。
例えば攻撃したときにそれらはたまり、モブキャラはそのヘイト値の高いプレイヤーを優先的に襲う。
意図的に自分へのヘイト値を上げるスキルや、相手のヘイト値を肩代わりするスキルなど、ヘイトに関しては結構いろんなスキルがあるものだ。
タンク役は進んでヘイトを買っていって、できるだけほかのパーティメンバーに攻撃が向かないようにする。
逆にほかのメンバーはタンクのヘイト値を超えないように気をつける。
意図的に攻撃を集めるから、攻撃の集まっているやつ以外は動きやすいという寸法よ。
簡単に言えばそんなところ。
「誰かが相手を挑発する、もしくは一発でかいのを決めて、放っておいたら一網打尽にされると思い込ませることで攻撃を集中させられないかなぁーと」
それができたら俺も援護しやすいんだけど。
「アルが相手を煽りまくったらええんちゃう?」
「ありだなぁ」
アルがヘイトを買って、敵の攻撃を集める。それで、耐久値、Hpが高いわけじゃないから回避をしてもらってヘイトを集め続ける。
その隙に俺がシローにバフを付与。
アルトゥールに群がる敵を一網打尽。
これが理想。
「でも絶対何人かはシローとか俺のほうに流れるよなぁ」
「じゃあ、ライのとこに行かへんように俺が第二の防波堤になる?」
「うん。でもそれでも俺のところに流れてきたら?」
アルトゥールは一番多くのヘイトを買ってもらうとして、絶対に魔法を付与する俺を真っ先に倒そうとする奴いるに違いない。
今までそれで負けてきている分余計にな。
「ボクが倒すよ。絶対先にアルに引き寄せられて気がおろそかになる。その場をたたく」
「それでヘイトがシローに向くようなら、俺様がテメェのところに敵が行かねぇようにぶったおす」
「俺はお姫様か何かかな??」
やだぁ、タイプの違うイケメン二人に守られるぅ。
解釈違いです、やめろください。
「姫だぁ? テメェそんな柄じゃねぇだろ」
「そうそう、ライはどっちかっていうと部隊長。毎回ボクらの相手してくれる子らになんて呼ばれてるか知らんの?」
くすくす笑いながらシローがぴんと指を立てた
『司令塔』
二本目の指を立てる
『戦場の指揮者』
三本目、
『改竄者』
「あとは脳みそだの、隊長、戦術の要…………」
「あー、そんなんもあったなぁ」
え、何その二つ名。初耳なんだが??
「恥ずかしいからやめてほしい」
「なんでだよ。冒険者にとっちゃぁ、二つ名なんざ憧れそのものだろうが! クロヴィスさんの『竜騎士』といい、キュリロスさんの『血濡れ剣帝』といい! 竜騎士と言えばクロヴィスさん、剣帝と言えばキュリロスさん!! 誰もその域に達してねぇからこそ、それが個人をさす代名詞になる!! 冒険者としてこれ以上の名誉はねぇ!!」
興奮気味に話してくれるアルトゥールには申し訳ないが待って?
キュリロス師匠の血濡れの剣帝ってなんぞ?
剣帝。わかる。キュリロス師匠強いもんな。誰もその域に達してないのもわかる。
でも血濡れのってなに? キュリロス師匠なにしたの? やんちゃしてたの?
今度帰った時聞いてみよ。
「で、俺が改竄者で指揮者で司令塔?」
「そう。テメェの魔法一つで、戦略一つで戦況が一気に変わる。どれだけ不利だろうが、関係ねぇ。必ず勝ちに導く。チームの脳で司令塔であり、戦況を操り、勝敗さえも覆す」
ずいぶんたいそうな名前が付いたものだ。
いつもいつもぎりぎりでやってるのにこの評価である。
なお剣術の方はお察しの力量しかない。
くそぅ。
でも、これだけ大層な名がつくのなら、ヘイトは俺に向けるのもありだな?
「他はどうかは知らねぇが、少なくともクロヴィス先生のところでテメェの効果を体感したことがあるやつは絶対にお前の言うことを聞くぞ」




