88話
「店の帳簿の書き方やら、なんやらは私のところの子を派遣しよう。今年学園の商業科を卒業したばかりの子だが、筋がいい。どうせここの経営は破綻しているし、彼の勉強にちょうどいいだろう。まずはその子を派遣しよう」
そう言って豪快に笑うジュゼッペさん。今迄経営していたジュリアとジネブラさんの前でそれを言うか。
だが、事実なので俺からは何もカバーしてやれない。
「本来なら、きみをこのままうちで引き取りたかったんだが、商業科でないのであればそうしたところで意味もないな。どうせ経営については君も素人なんだろう?」
ぐさぐさ言ってくるな。歯に衣着せぬ言い方というか。
まあその通りだけども。
「安心すると言い。君の給料はきちんとうちの本店スタッフと同じだけの時給を出せるように取り計らおう」
「ありがたいですけど。本心は?」
「今君に逃げられると困る。から放したくない!」
道具屋をしているということは装飾品関連に関しては知識はあるだろうが、家具に関してはそうはいかないだろうからな。
「俺としては、給料がもらえるのであればそれで構いません。でも、さっきも言いましたけど、学園があるので毎回毎回仕入れを見るのはできないですよ」
「それに関しても話を詰めよう」
俺の今までのシフトは、出勤できる日を週ごとにジュリアに伝え、じゃあその日で! くらいの軽いシフトだ。
正直本当にそれでいいのかと何度も聞いたが、その辺はよくわかってないジュリアとジネブラさんだったのでどうしてダメなんですか? と聞かれた。
それを正直にそのまま伝えるとジュゼッペさんは頭を押さえた。
「よく姪のもとで働こうと思ったね」
「俺、妹居るんですけど、それでなんかほっとけなくて」
「お人よしだなぁ」
苦笑いを浮かべたジュゼッペさんと、少し恥ずかしそうにするジュリア。
「とりあえず、仕入れの日は週に二度に抑えよう。時間帯はライ君が学園を終えて帰ってきてから。できればきちんとしたスタッフが来るまでは私も一緒に商品の仕入れに立ち会う」
「ならその曜日を決めましょうか」
一応この世界にも曜日の概念はある。
一週間を七日に分ける。
感覚としては『俺』の時の月火水木金土日と同じだ。
最も呼び方は違うけど。
こっちの世界の神話に基づいている。
神が現れる前、この世界は光も闇も存在しなかったそうだ。
光をまとった神が世界に現れたことにより、世界に闇と光が生まれた。
光も闇も存在しなかった世界には、何もなく、ただ広大な大地が広がるだけだった。
世界を見て歩いた神の足跡で地形が形成され、生物のいない世界を見て流した神の涙が海を作った。
そこに、神は自らの左の指先をすべて切り落とす。
それぞれの指は五人の賢者となり、傷口からあふれた血が恵みとなり世界に生き物を生み出した。
その生き物を助ける存在として妖精を、試練として魔物を与え、今の世界ができたそうだ。
それぞれ、光、闇、大地、涙、血、妖精、魔物の名前を関する言葉が曜日にあてはめられている。
ルーチェ、オス、ボーデン、リュオン、サングレ、ディーワ、モストロだ。
土日にあたる週末はルーチェとオス。神様が光をまとって闇の世界に帰るからだそうだ。
逆に、現世にある、もしくはおいてきた大地から魔物までの五日が月~金曜日に当たる。
学園もボーデンからモストロまでで、ルーチェとオスの日は休みだ。
呼び方に関しては非常に覚えにくいので覚えなくてもいい。
「仕入れの日は、ゲンを担ぎたいから、サングレとディーワの日にしたい」
「二日連続ですか?」
「それぞれ別のところから仕入れるから大丈夫だろう。だが、逆に言えばこの二日間は必ず出勤してほしい」
「まあそのくらいなら」
「あとの日の出勤するかどうかは、悪いがこの店の売り上げしだいだ。私の店から一人派遣することになるし、その子と君の給料、それからジュリアに渡す分とを考えて人件費の計算をしてからだ。今迄この店を助けてくれていたわけだから、優遇してやりたい気持ちはあるが、こちらも経営がかかっているからな」
「まあ、正直今迄が異常だったので、俺はそれで構いませんよ。とりあえず今週はどうしましょう?」
「私の店から派遣する子にいろいろ教えてやってほしいからな。明日と明後日は出勤してくれ。それ以降はまたその時話す」
「わかりました。えっと、ジュゼッペオーナー?」
手を差し出せば、ニッと笑みを深めたジュゼッペさんがその手を取った。
「よろしく頼む」




