85話
無事レジで会計を済ませた後、同じく買い物を済ませたシローとも合流し、ラシェーニへと移動する。
「うひゃー。ボクには程遠い世界やわぁ」
ラシェーニに立ち並ぶ店はどこもかしこも高級感があり、今の俺たちの服装ではどことなく浮いている。
ブランドで全身武装したセレブの群れに、着古した安売りTシャツ着てるやつが混じったら明らかに浮くでしょ? そんな感じ。
少なくともラシェーニに来る人は身なりきちんとしてるしね。
対して俺たちは学園終わりだから実技訓練でシャツは寄れてるし、どことなく薄汚れて見える。
「ボクの故郷山奥やし、こんな高そうな店入られん……っ!!」
「おいおい……俺たち場違いが過ぎねぇか?」
あのアルトゥールでさえ尻込みしている。
「まぁ、そんなこと言っても引きずっていくんですけどね!」
ガシッと二人の腕を掴んで、いざブランド店!!
とはいえ、買うつもりはこれぽっちもないので、何店舗か冷やかしながら値段設定を見ていく。
何店舗か見る限り、うちの店にある商品で中古という事を考慮するともう少し安くてもいいのでは? と思うものをいくつか脳内でピックアップする。
「あの、ここって買取とかやってます?」
「買取、でございますか? 申し訳ございません。当店では販売のみでございまして」
各店舗で店員に聞くも、やっぱり販売のみとの事。
どこかに貴金属買い取りますみたいな店は無いのか。
何店舗か入って全ての店舗で買取はないと言われたので、有名なブランド店は候補から除外。
買取をしている店舗を探せば、何店舗か買取専門の店はあるようだった。
セカンドハンドショップの形態を取っている店では実際に入ってそこでの売値を確認していく。
「なーなー、ライー。まだ見るん?」
そろそろ飽きてきたのか、いたたまれなくなってきたのか、シローが俺の背に覆いかぶさってそう言った。
「せーがーちーぢーむー。きゃー、アルトゥールさん助けてー」
「やめたれ、シロー」
アルトゥールに背を引っ張られたシローが俺の上からひっぺがされた。
お礼を言おうとアルトゥールの方に顔を向けた俺に、アルトゥールは一言。
「ただでさえチビなんだから」
「てめぇは俺を怒らせた」
魚類ゆるすまじ。
◆◆◆◆◆
シローとアルトゥールに付き合ってもらって市場調査をした次の日、俺は実際にティーカップを持ってラシェーニにある買取店に持ち込む。
安く見積もっても、低品質の魔石を数個、コアなら数十個仕入れられるくらいの価値のあるティーカップのセットだ。
なのに。
「はぁ? もう一回言ってくれます?」
「ええ、ですから。このティーカップのセットですと、この程度の値段かと」
提示された値段は到底このティーカップに見合う金銭ではない。
魔石はおろか、コアを買うことすら怪しい値段。
その辺の大量生産品と変わらない値段に、いっそ頭痛を覚えるレベルだ。
「じゃあ、結構です」
そんな値段で売るわけにはいかないと、一店舗目を後にして、二店舗目に。
「こんなもんでどうでしょう」
だというのに、何店舗尋ねてみても提示されるのは同じようなもの。
俺がおかしいのか? いや、そんなはずはない。
こちとら王宮で培われた一級の審美眼だぞ。
こんな二束三文で売り払っても意味はない。
それなら、たとえなかなか売れなくても、店に展示して購入者を待つほうがいい。
そのティーカップの件は始まりにすぎず、ほかのアンティーク品すべてにおいて買い叩こうとされた。
一点、二点程度なら、たまたまそれについての知識がなかっただけかと思うのだが、すべての店舗で、しかも持ち込んだすべての商品で同じようなことを言われる。
「何これいじめ?」
もはや誰かが意図的にこの店をつぶそうとしてない?
試しにオリバーに一番初めに売りに行ったティーカップを売りに行ってもらったんだが、ちゃんと適正価格で買い取ってもらえた。
とはいえずっとオリバーやほかの誰かに頼るわけにもいかない。
「ど、どうしましょう」
日に日に自分の機嫌が悪くなっていくことがわかる。それと同時に、ジュリアも気落ちしていく。
もちろん俺がジュリアにあたっているわけではないのでそこは勘違いしないでほしい。
でも、まぁ。俺が来て、少しだけ経営は持ち直した、というかましにはなった。
今までタダ同然で売っていた魔石から収入が得られるようになったからね。
でも、魔石が売れても、今の店にはその魔石を購入して在庫を安定させられるだけの資金がない。
資金を作ろうにもなぜか売れない。
そうすると、今まで魔石目当てで来てくれていた客足も遠のいてしまった。
「アンタを雇っても、結局なんにもかわりゃしなかったね」
「おばあちゃん…………」
久しぶりに店に顔を出したジネブラさんが、最近の経営状況にそう言葉をこぼした。
「ディーノが、いてくれたときはねぇ」
あきらめがちにそうつぶやいたジネブラさんのその言葉が少し引っかかった。
「ディーノさんって、ジュリアのお父さん?」
「うん。パパの名前だけど、どうかした?」
ディーノ、ディーノ…………? どこかで聞いたような。
「このお店ね、パパと伯父さんの名前からとってるのよ。ジューノって」
カラ元気だろうが、努めて明るい表情を浮かべてそう言ったジュリアの言葉に、俺は聞き覚えのあるその名前を思い出した。
「フラディーノだ!」
メルキウムにあったあの店。
「なんだ、ジュゼッペの店も知ってんのかい。まぁ、そうだろうね。あの子はディーノとは違うタイプだけど、商いがうまかったからねぇ」
「あの店、私の伯父さんの店なんです」
そういわれた時の俺の気持ちがわかるだろうか。
「なんで頼ってないの??」




