84話
「シロー、アルトゥール。今日ちょっと放課後付き合ってくれない?」
すっかり仲良く、というかつるむ様になったシローとアルトゥールに声をかければ二人とも不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。
「でも珍しいなぁ。ライってだいたい学園終わったら例のバイト先行っとるやん」
「それ言うならシローもだろ。今日バイトは?」
「夜からやからちょっとは付き合えるよー」
OKマークを指で作ったシローがへらりと笑った。
「で、何しに行くんだよ」
怪訝そうな表情をしたアルトゥールが頬杖をついて俺を見てくる。
「市場調査、かなー」
と、言うわけでアルトゥールとシローを連れて学園都市内のメインロードのひとつを歩く。
チェントロ学園都市の構造は王宮と少し似ている。
中央に学園があり、そこから東西南北にメインロードが伸びる。
東のメインロード【アーベント】
武器や防具、魔法道具などの冒険者がよく立ち寄る店が立ち並ぶ。
学園でパーティーを組んで実地でクエストをこなす学生のみならず、既に冒険者として生計をたてているプロの冒険者達も立ち寄る。
西のメインロード【メルキウム】
雑貨や食料品など日常生活で必要なものを取り揃えた店が立ち並ぶ。
基本学園都市内で生活している者はここで日々の買い物を済ませている。
南のメインロード【ディアス】
飲食店や劇場などの娯楽施設が立ち並ぶ。だいたい学園都市内で遊びに行くと言ったら、このディアスに行くことになる。
北のメインロード、【ラシェーニ】
主に服飾関係。装飾品や宝石など。メルキウムにある店よりも高価なものが多く、いわゆるブランド店が多く立ち並ぶ。
東西南北で店の特色が違うので、メルキウムの周辺は一般人が、ラシェーニの周辺は貴族の邸宅が多いのだ。
ちなみにジュリアの骨董品屋はメルキウムから少し路地を入り、ラシェーニ側に進んだところにある。
元々売ってた商品が家具とかティーカップとかの類だったのでこの場所だ。
だからこそ魔石みたいな冒険者が欲しがるものを買いに来る人はこの店の存在を知るお得意さんくらいなんだけど。
今回俺が市場調査に行くのはメルキウムとラシェーニ。
店の肥やしになってる家具たちをどうにか売っぱらう店を探すのが目的だからね。
一人でも良かったんだけど、やっぱり第三者からの意見は聞きたいしシローとアルトゥールを誘ったんだけど、二人に挟まれて歩くと自分の小ささが目立つなぁ。
いや、実際には同年代の平均身長よりあるとは思うんだけど。
何分アルトゥールは俺より年上で平均身長ある。
シローはそれよりもさらに年上で平均身長以上の高身長。
俺の圧倒的年下感。
しょうがないんだけど、ものすごく負けた気がするっ!!
「んで? どの店見んだよ」
俺が密かに二人に見劣りする自分の体にギリィッ! ってしてたらアルトゥールが少し身をかがめて俺にそう問うてきた。
やめろ。身を屈めるな。俺はちっちゃくない。平均身長だ。なんなら成長期だからまだまだ伸びてる最中だ!!
「とりあえずは雑貨屋。俺学園で使う筆記用具とかちょっと買い揃えたい」
「おっけー。ボクも買いたしたいもんあるしちょうど良かったわ。行く雑貨屋もう決めとるん?」
さらに身を屈めたシローが俺にそう言う。
身を屈めてるのに俺が見上げなきゃなんないって何??
お前どんだけでかいの??
「んー。あそこかなぁ」
メルキウムと言う商業激戦区の中の一等地も一等地。そんな場所に店を構える雑貨屋【フラディーノ】
庶民派の通りに店を構えているものの、そのネームバリューは一端のブランド店だ。
しかもうちの常連の話を聞く限り、フラディーノは今の経営者が一代で起こしてここまで大きくしたらしい。
ぜひそのノウハウを聞きたいところだが、それが無理でも店内から少しでもそのヒントが得られればいい。
店に入れば学園が終わった時間ということもあり、学生で賑わっていた。
とりあえず消耗品で学園で使う諸々を手に取りながら店内を歩く。
シローは先程言っていた通り買いたいものがあるのか、俺とは離れて買い物を始めた。
アルトゥールは逆に買いたいものがないのか俺の後をついてくる。
「なぁ、アルトゥール」
「あ?」
俺はレジ横のちょっと高いものが売ってるショーケースの前で足を止め、そこにあるコアと魔石のコーナー。
前も言ったかもしれないが、コアは魔物から取れる魔力を含んだ石のようなもので、魔石は魔力を含んだ化石。
もちろん魔石の方が高価だが、学園で学生が使う分ならコアで十分だ。
並んでいる魔石も、魔力量だけで言うならうちで売ってる魔石の方が中古とはいえ多い。
つまりこの店のものは低級品で学生でも頑張れば買えないことも無い、と言った値段設定だ。
まあ、それでも高いものは高いが。
「これ質の割に安いと思う? 高いと思う?」
指さすのはもちろんコアと魔石。
「安い」
即答。
「だよなぁ。これで売ってたら得られる利益なんて微々たるものだよなぁ」
俺も安いと思う。むしろ安すぎる。
仕入れ値と売値から差し引いたら利益なんて微々たるものになりそうなものを。
手に持っていた、同じくほかの店よりもだいぶ安い雑貨を購入するためにレジに並ぶ。
「経営云々は俺にはわかんねぇけど、ほかの店の売値が安いとか関係あんのか?」
「そりゃね。誰だって安いとこで買って得したいでしょ。でも、うちの店ではこの値段で売れないなぁ」
「ふーん……?」
理由がわかってないアルトゥールにかみ砕いて説明する。
売値が安くともこの店がやっていける理由は薄利多売で回収できているからだ。
一つ一つの利益は少なくとも、たくさん売っていけば、最終的にはかなりの利益になる。
「うちの店はちっさいし、最近は仕入れもうまくいってないから多売ができない。そもそも客数も少ないしね」
説明したのに、アルトゥールは興味をすでに失ったのか生返事。
殴ってやろうか。
「そういやなんだっけ? お前の店の名前」
次の方どうぞ、とレジを打つ男性の声に足を進め商品をサッカー台に置いた。
「骨董品屋【ジューノ】だよ」




