82話
シローとの一戦が終わってから、シーシキンは眉根を寄せて自分の手をグーパーさせている。
「どーした? なんか違和感ある?」
何か俺の魔法に不手際があったのかと思い、そう聞くも、ちらりとも視線をよこさないししゃべらない。
「おい、もう一戦すんぞ」
「お、おぉッ!?」
ぐいっと襟首をシーシキンに掴まれ後ろに引っ張られる。
服で喉が圧迫されたんだが? 謝る気はゼロかよ!
不機嫌さを隠さずに、それでも実戦形式で魔法を試せる機会はありがたいのでなんも言わないけどさ。
その後も俺とシーシキンのペアVSシローと毎戦メンバーを変えたチームで何試合かしてみた。
「も、無理!! この体力お化けども!! 俺のスタミナが持たん!!」
いい加減メインで剣を振ってないとは言え、ぶっ通しで何戦もしたら疲れる。
疲労で魔法の精度も落ちるしいい加減にしろ!
息が切れている俺に対してシーシキンとシローはじんわりと汗をかく程度。
これが鍛錬量の差…………!?
体力差に愕然としていると、何試合か前から俺たちの戦いを見ていたミューラー先生が近づいてきた。
「面白い戦い方ですね。しかし、効果は計り知れない。必ず君がアルトゥール・シーシキンの足を引っ張ると思っていたんですが…………。意外にも君が組んだ時のほうが勝率が高い」
今のところ、俺は単体での勝率は二割程度。
たまにラッキーで勝てるぐらいだ。
でも、誰かと組んだ時は勝率多分九割超えてるんじゃないかな?
単純にほかのやつらが魔法に慣れてなさすぎるっていうことも理由の一つだと思うんだけど。
「いやー。魔法についてはさっぱりなんですが、魔導士科の教師陣に君のことをよく聞かれるのも納得できますね」
「魔導士科の先生が?」
「そう。なんでも、魔法同士の相乗効果。その話で議論を交わしたいそうですよ。なぜ君は魔導士科じゃないんです? そちらなら数年後にパーティーを組む際もひっぱりだこだったでしょうに」
辛辣ッ!! ぐさっと言葉の刃が俺のハートに突き刺さる! 正論が痛い!! でも、俺はキュリロス師匠に「なかなかやりますな」って言われたいんだよ!! 剣術でぇ!!
ミューラー先生の辛辣な言葉に地味にダメージを食らっている俺の腕を誰かがグイっと引っ張った。
「こいつが余ったら、俺のパーティーに貰うんで。むしろ魔導士科の貧弱どもにやりません。あんな頭だけの弱ぇ奴らより、俺のほうがこいつのこと活かせます」
掴まれた腕の方を振り向けば、むすっとした顔をしたシーシキン。
「誰がテメェのパーティーに入るか。さんざん俺を弱い弱い言いやがって」
「あ? 事実だろうが。テメェ一人じゃどうやったって俺様に勝てねぇじゃねぇか」
「誰が自分を侮って下に見てくる奴のパーティーに入るかバーカ」
「なんだと、テメェコラ」
「だからー! なんで二人ともそんな喧嘩腰にしか話できんの!?」
いつも通りの俺とシーシキンの軽口に、ミューラー先生が笑みを深める。
「まぁ。私の試験に合格しないとパーティー組ませませんし、そもそも学園の外に出てのクエストなんてもっての外ですけどね」
そう、冒険者として本当に外に出てやっていけるのかどうか。それを判断するのは騎士科では担当教師の役割だ。
最低限冒険者として外に出てもやっていける実力がないと、無駄死にするだけだ。
魔導士科は最終的に選択する魔術系統の担当が判断下すのかな?
「ライにはちょっと厳しい内容やんなぁ」
この選別試験はあくまで個人戦。
個人で、自分が一人でも冒険者としてやっていけると証明しなくてはならない。
「大丈夫ですよ、ライ・オルトネク。学園は別に何年留年してもペナルティはありませんから。ただ、君が年下の後輩たちに先を越されていくだけですよ」
言葉の刃が俺の心臓を貫く。
やめてください。俺のガラスのハートをKILLしないで。
ライのライフはもうゼロよー!!
打ちひしがれている俺の肩に励ますようにシローが手を置く。
「大丈夫やで! 俺何年でもライのこと待つから! な!?」
「留年することは決定事項ですか、そうですか。俺は弱いですか、知ってますが、そうですか」
完全にいじけモードだよくそ。
心優しい気遣いが余計に傷に塩を塗りたくる。
「ほらほら。まだ先のことは考えず、目先のことに集中しなさい。もういい時間なので座学に移ります。さぁ、早く移動しますよ」




