81話
「俺様の足を引っ張んじゃねぇ、以上」
「馬鹿か、終わらせんな。何のための作戦会議だ!」
さっさと実戦に移ろうとするシーシキンの襟首をつかんで引き戻す。
「さっき単体でシローに負けたの忘れたのかよ!? いいから、一回俺の話聞け!!」
「あ? テメェに何ができんだよ」
本気で俺のことを下に見ている目だ。
わかる、わかるぞ?事実俺はお前より弱いけどな?
「お前は確かに強い。でも、俺とお前を単純に足しても、シローのいるあっちのチームには勝てない」
「雑魚が」
ビキリと額に青筋が立つが、何とか抑え込む。
「これは、チーム戦だ。単純に強いやつが勝つのがチーム戦じゃない。二人で強いチームが勝つんだ。チームは戦力と戦力の足し算じゃねーんだよ。どれだけ互いに協力して、戦力を倍々にしていくかが勝負に勝つ鍵だ」
ぐっとシーシキンの襟を掴み引き寄せる。
「勝つぞ、シーシキン」
◆◆◆◆◆
「お! ライとアルの方も作戦会議終わったー?」
先に準備のできていたシローたちが余裕そうにそう聞いてきた。
「おう、ばっちり。待たせたな」
渋々ながらも俺の作戦に従うと言ってくれた。
ものすごく顔は不機嫌そうだが。
「おい、シーシキン。頼むから、最初だけは俺の作戦に従えよ」
「使えねーと思ったら俺のやり方で行く」
そう言ってシーシキンが俺の一歩前に出る。
互いのチームの睨み合いが続き、ぐっと重心を下に落とし込んだシローがこちらに一歩踏み出した。
それを合図にシーシキンが剣を振りかぶり、試合がスタート!!
案の定シーシキンの相手はシロー。
俺に向かってもう一人が突っ込んでくる。
でも、俺の仕事はこいつとやりあうことじゃない。
一瞬で唱えることのできる筋力強化の魔法を俺とシーシキン二人にかける。
そのタイミングで俺も刃を交わす。
しかし、俺が筋力を強化したことにより、シローと鍔迫り合いをしていたシーシキンがその均衡を崩した。
まさか力勝負でシーシキンに負けると思っていなかったのだろう、シローが一瞬驚いたように目を丸くし、隙が生まれた。
俺も同じタイミングで、向かってきた相手の剣を大きく弾き飛ばす。
相手は俺の筋力をもう少し下に見ていたようで、意表を突かれたようだった。
残念ながら手ばなさせるまではいかなかったが、大きく相手の体勢が崩れる。
それに合わせ、シーシキンがシローに背を向け俺に向かってきていた相手に大きく切り込んだ。
それと同時に、俺は自分とシーシキンに素早さのバフをかけつつシローに切り込む。
「驚いたなぁ!! ボクの相手はてっきりアルにまかせっきりやと思ったわ!!」
さらに切り込んでくるシローの攻撃をかわしつつ、俺は軽く攻撃を打ち込む。
素早さバフの効果はあと数十秒。
しかし、素早さが上がっている今、もともと攻撃の遅いシローの剣では俺をとらえきれない。
「ちょこまかと……ッ! でもそんな逃げるだけでボクには勝たれへんよ!」
ブンッとふられた剣を受け止め、その力に少し体勢を崩された。
その隙を逃さず追撃してくるシローの攻撃をなんとか回避する。
あっぶね、バフなかったらモロ食らってた。
「ほらほら!! はよライも打ち込んできーな!!」
アドレナリンどばどば出てるであろうシローの言葉に応える余裕もない。
俺は今効果時間把握に忙しいんだよ!!
素早さバフの効果はあと数秒。
しかし、そこで先ほどスイッチしたシーシキンがきっちり相手を仕留めて戻ってくる。
バフのおかげでいつもより数段速い攻撃をシローに打ち込もうとし、それをシローがとっさにいつも通り受け止めようとした。
そこで、とうに切れた最初のパワー増加の魔法を、今度はシーシキン単体にかける。
魔法の効き目は魔力の大きさ。俺とシーシキンに分散させてかけた最初ですらパワーで劣るシーシキンがシローの剣を大きくはじいたんだぞ?
じゃあ俺にかける分もシーシキンに割り振ったら?
ギィンッッ!!
シローの手から離れた剣が飛び、シーシキンの後ろ。
つまりシローからはすぐに取れない位置へと突き刺さった。
「俺様の、勝ちだ!!」
そのまま切っ先をシローの眼前に突きつけたシーシキンが得意げにそういった。
ゲームセット。
あくまで俺は時間稼ぎとステータスアップ役。
倒すのはシーシキンに一任しました。
適材適所、ってね。
「いやー、ボク絶対勝てる思ってたのに!! まさかボクよりも弱いライもすぐに倒せへんとは思わんかった!!」
試合後興奮した様子のシローに肩を組まれ、わしわしと頭をかき回された。
「うあっ。ちょ、痛いっ!」
「ごめんごめん! でもなんや、アルもライもいつもより動き良かったやんなぁ! なにしたん!?」
「えっと。俺とシローが真正面から打ち合っても絶対俺が負けるだろう? だから、最初はシーシキンにシローの相手をしてもらう。で、絶対にシーシキンとシローが打ち合うほうが、俺のところにシローのペアが来るよりも早い。だから、その数秒でかけられる筋力増加の魔法を俺とシーシキンにかけたのね」
で、互いに互いの相手に隙を作る。
なぜなら、俺がまともに戦えば俺は一〇〇パーセント負ける。
で、シーシキンとシローだと実力が拮抗し、多少バフをかけたところで泥仕合。
時間が長引けば長引くほど、バフの消えた俺が負けて二対一でシーシキンも負ける確率が大きくなる。
だから、早々にシロー一人に対して俺たち二人の構図にしたかった。
隙を作ったタイミングで俺がシローの相手をして時間を稼ぎ、素早さの上がったシーシキンにもう一人をすぐに倒してもらう。
素早さバフがかかる時間は持って数十秒。
この効果が切れるまでにシーシキンが戻ってこなければ、俺がシローにやられて負け。
こればっかりはシーシキンの実力を信じるしかなかった。
俺は素早さが上がっている間にシローの攻撃をしのぎ、シーシキンのもとに行くことを妨害することが目的。
そしてシーシキンがもう一人を倒して戻ってきたタイミングでシローの相手を交代。
シーシキンとシローの実力は拮抗しているので、シーシキンさえ戻ってくれば俺は完全フリーになるので、最初よりも強い魔力で筋力増加をし、その拮抗を崩してやればいい。
「チーム戦において勝つためには、戦力をいかに足していくかじゃなくて、いかに倍々にしていくかだからな」




