80話
バイト先を見つけてから数週間。
昼は学園での勉強に実技。夕方は骨董品屋でのアルバイトというルーティンを確立させていた。
結局アルバイト先では、そもそも仕入れ自体父親がいなくなってからは不定期で頻度も減ったとのことで、もっぱらジュリアに魔石の見分け方や高値が付く品について教えつつたまにくる客の相手をしているくらいだ。
そして今は絶賛学園での講義中。
実技なわけだ、が……。
「ぜんっぜんかてねぇー」
訓練場の土の上、俺は剣を握ったまま仰向けに倒れこんだ。
初日にシーシキンと戦って勝てたから、ここでもある程度できるものだと思い込んでた。
だが、ミューラー先生に騎士科として講義を受けている間は魔術の使用を禁止された。
あくまで剣術を磨くための学科だからという理由らしい。
ちなみに今はペアを作っての実戦鍛錬。ミューラー先生は各ペアの試合を見ながらアドバイスをしている。
そんなミューラー先生は、いつも俺の魔法と剣術を組み合わせた戦法を見ると、剣術に関してアドバイスをくれるものの以下のようなことを述べてくる。
「君はつくづく騎士科に向いていないですねぇ。今からでも魔導士科に編入しますか? 最近魔導士科の先生方から君と話がしたいと私のところに話が来るんですよねぇ。いったい何をしたんですか」
「えっと、魔術と剣術の可能性について少々……」
「なぜ騎士科にいるんです……」
心底訳が分からないという顔をされた。
これが毎度だぞ? 地味に傷つく。
俺も別にすこぶる剣の腕が悪いわけではないと思うんだけど……。
「ライ、大丈夫? ミューラー先生もきっついこと言うよなぁ」
「シロー……。いや、俺の剣の腕が悪いのが悪い」
「ハッ! やっぱ弱ぇじゃねーか」
こちらを見てあざ笑ってきやがったシーシキンの真上に空気中の水を集めて降らせる。
「づめてッッ!!」
「ばーか」
「やんのかコラッ!?」
ずぶぬれになっているシーシキンにベロを出して馬鹿にすれば、シーシキンは案の定剣を振りかざしてきたのでシローの後ろに隠れた。
「きゃー、シローさんたすけてー。ぼうかんにおそわれるー」
「誰が暴漢だッ!!」
「すっごい棒読みやんなー」
くすくす笑いを漏らしながらもシローがシーシキンに対してすらりと剣を抜き、構えた。
「やーやー、我こそはライ姫を守る騎士なりー! いざ尋常に勝負!」
「ぶっ潰すッッ!!」
さすが戦闘民族魚類。シローが切りかかると瞬時に楽しそうに剣を交わす。
ギィンッ! っと鋼同士がぶつかりあう鈍くも鋭い音を聞きながら、シローとシーシキンの戦いを観察する。
互いに俺よりも数段実力が上だ。
年も数年とは言え上なのだ。体も俺より出来上がってる。
シーシキンはしなやかな筋肉と、そこから繰り出される多彩な剣戟。
どんな状況だろうが柔軟に対応し、的確に相手の隙を突いてくる。
それに対してシローは圧倒的パワー型。
強靭な肉体から繰り出される一撃必殺の剣。
攻撃力にすべてをかけている分シーシキンより動きは遅いが、当たればダメージは計り知れない。
単体の攻撃力の強い、いわゆるSTR(筋力)極振りのシロー。
どちらかというとDEX(素早さ、器用さ)極振りのシーシキンは手数の多さとクリティカル狙いのアタッカーだな。
キュリロス師匠もシーシキンと同じタイプ。
やっぱり極振りは正義だな。
戦術的に使いやすいし、強さもわかりやすい。
それに対して俺の目指してるのはエンチャンターだからなー。
仲間がいて初めて真価を発揮できるタイプ。
魔法もそこそこ、剣もそこそこだから個人ではどうしても決定打にかけるんだよなぁ。
ギィンッ!! と一際大きな音があたりに響き、シーシキンの持つ剣が宙を舞った。
「チィッ!!」
やはり力勝負になるとシローが優勢だな。
手数の数で攻め切れなければ、力で勝るシローが今のところ優勢かな。
「次ライもやる?」
ひと試合終えたシローが俺にそう聞いてきた。
「うーん。せっかくなら2ON2とかでやりたいかなー」
「2ON2? ってなに?」
聞きなれない単語にこてりと首を傾げたシローがそう聞いてきた。
「二人対二人のチーム戦。冒険者ランクが上がれば一人の強さが物を言うかもしれないけど、初めの方は誰かとパーティー組むでしょう? だからそれを想定した戦い。どう?」
俺の言葉に少しは興味をそそられたのか、すぐに踵を返して俺から離れようとしていたシーシキンが足を止めてこちらに耳を傾けている。
「おもろそうやん! せやったら、ボクとライとアルと、それからもうひとり欲しいなぁ!」
というわけで、近くにいたクラスメイトの一人を加えていざ実践! と行きたいところだが、俺の戦い方の関係上、ちょっと作戦会議の時間が欲しいと言って設けてもらった。
ちなみにチームは俺とシーシキン、シローと急遽誘ったクラスメイト。
作戦会議できる気がしねぇんだけど……?




