8話
「ふ、ざけるなッッッ!!!!!」
思わずそう叫ぶ。
「あんたが よばないなら、おれがよぶっ!!おまえは そこで ジャンにいさまが くるしむのを なにもできずに みておけば いい!!」
俺がジャン兄様に危害を加える?
まさか!普段どれだけ俺とジャン兄様が仲良くしているのかも知らないで、ただただ俺が母上の子供と言うだけで俺がジャン兄様を慕う気持ちを否定されるのがひどく苛立たしい。
しかし現実問題この幼い体では庭園の入り口にいるマリアとキュリロス師匠を呼びに行くには時間がかかりすぎる。
距離があることはもちろん、木々や鳥の囀りに俺の声はさえぎられてしまうだろう。
ならばどうすればいい?
頭を必死に働かせる。
とにもかくにも異常が起きたことを知らせることさえできれば、護衛であるキュリロス師匠は駆けつけてくれるだろう。
目立つもの、と言われて一番最初に思い浮かんだのは打ち上げ花火だ。
大きい音も出るし、空中に火の花が咲く。
昔キュリロス師匠が俺に魔伝を教えてくれた時に知った魔法の存在。
魔法に興味を示す俺に対して幾度となくキュリロス師匠が魔法の原理などを教えてくれた。
幸いにも俺には魔法の才能があったので、簡単な魔法なら使える。
それも温める。冷やす。などの簡単なものばかりだ。
それで何ができる?
いや、ジャン兄様のためにもやるしかないだろう。
イメージしろ。
透明の球体をイメージして作る。
そしてその球体の中に水晶華をいくつか摘んで詰め込み、空気中の水を集めるようにイメージして水を貯める。
それを囲うようにもう一つ大きめの球体を作り、水と水晶華の入った球を中に入れた。
目立つように、遠くからも見えるようにそれを空中へと放り投げる。
もちろん子供の筋力で投げたところで数メートル飛べばいいほうだ。
だから、普通は相手の筋力や防御力を下げるために使う弱体化の魔法をその球体にかかる重力にかける。
「そーれっ!」
投げると予想以上にうまくいったみたいで、ふわふわと浮かび上がっていく。
それと一緒に、外側の魔力の玉の温度を急激に上昇させた。
そしてその球体が空高く、どこからでも見える位置まで達した時に、水で満たされた中の球体を消滅させる。
ボゴォォォォォッッッッ!!!
と、何とも形容しがたい爆発音とともに魔力の玉がはじけ飛び、中に入っていた水晶華が粉々に砕けて宙を舞う。
ほとんど粉に近いその欠片が太陽の光を受けて輝きながら振ってくる。
いわゆる水蒸気爆発だ。
高温に熱した物体に水が触れその水が一気に水蒸気と化した時、圧力が急速に上昇し爆発が起きる。
そのけたたましい轟音にジャン兄様もジョバンニ兄様も目を丸くして空を見上げた。
俺はそれに対して、砕けた水晶華の欠片で万が一にでも兄様たちが傷つかないように、再び空気中の水を集めて、自分たちの上にそれを風でとどまらせて、傘のようなものを作った。
「ライモンド殿下!!ジャンカルロ殿下!!!!」
幾ばくもしないうちにまるで忍者のようにキュリロス師匠が森の中を駆け抜けて俺たちの側に来た。
「キュリロスししょう!!ジャンにいさまがぁうっ!!?」
駆けて来たキュリロス師匠は、そのままの勢いで俺の体を抱き込み、すぐさまその背でジャン兄様とジョバンニ兄様を隠した。
「っ!私としたことが、これほどの術者が庭園内に紛れ込むのに気が付かなかったなどッッ!」
「きゅ、キュリロスししょう?」
「ライモンド殿下。しばし私の腕の中で我慢してくだされ。クソッ!敵の気配が感じられぬ!」
鋭い目で周囲を警戒するキュリロス師匠は普段の柔和な紳士でなく、荒野に生きる野生の獣。まさに戦士だ。
新たなキュリロス師匠の魅力を発見した。
いやいや、しかし今はそんなことを言っている暇はない。
「キュリロスししょう!!」
「うぐっ!?ら、ライモンド殿下!?」
抱えられている状態でキュリロス師匠の顔を挟んで思いっきり下を向かせ視線を合わせる。
目を白黒させて驚いた様子のキュリロスししょうだが、これでやっと俺に意識がむいた。
「いまの ばくはつは おれです!!そんなことより、ジャンにいさまを たすけてください!」
「は、ライモンド殿下が………!?ほ、本当ですか!?」
「そうです!それより!ジャンにいさま!!」
俺がキュリロス師匠の背後に庇われたジャン兄様を指さすと、キュリロス師匠がそれにつられてジャン兄様を見て、その顔色の悪さに顔をゆがめ、すぐさま魔伝でどこかに連絡を取り始めた。
「キュリロス・ニアルコスだ。現在南の庭園にてジャンカルロ殿下、ジョバンニ殿下、ライモンド殿下を保護致した。ジャンカルロ殿下の体調が思わしくない。すぐに医者の手配を。…………ジャンカルロ殿下、失礼。ジョバンニ殿下歩けますかな?できればここをすぐに離れたい。」
「あ、ああ。僕は大丈夫だ。」
「おれも あるけます!」
「ライモンド殿下は私の腕に。殿下はまだ幼すぎます。」
そのままキュリロス師匠は俺とジャン兄様をひょいひょいと抱えて足早に王宮へと歩を進めた。
もちろん後ろから歩いてくるジョバンニ兄様に気を払いながらだ。
今日一日で師匠の魅力を大量に発見できた。
ごちそうさまです。




