77話
さて、ジュリアに対して大口をたたいたまではいいんだけど、実のところそんなに自信ない。
良いものか悪いものか、質に関しては王宮育ちの英才教育。多分大丈夫だ。
要は、王宮の、特に俺や兄様たちの部屋の周りで見たことがあるものに近ければ質はいい。
そのあたりは一応一国の王子だから、教育は受けているので大丈夫。
問題は価格設定や、下流から中流にかけてのものの判別。
どの程度のものがどの程度の値段なのか。
また消費者の需要や供給。
魔石や魔法具に関してはオリバーに聞けば相場はわかるだろう。
身に着ける装飾品は、ただのアクセサリーなら高級なものは俺が、そうでないものはジュリアに判断してもらえればいい。
何かバフがかかる装飾品なら騎士科の面々に聞けばいい。
「ま、わからんことは専門家に聞くのが一番だよなぁ」
商業科の知り合いが欲しいところだ。
ついでに技術科も。
今では古臭くなった装飾品も、それに使われている宝石自体は一級品なのだ。
周りだけを作り変えて、今風にリメイクすれば十分売れる。
なにはともあれ、価格設定だなぁ。
わかる範囲内で、価格をぺたぺた貼り替えていく。
「こんなにも値段のおかしいものがあったんですね……」
「まあ、値段が高くなればなるほど馴染みないからわからないよな」
「はい……アクセサリーだって、今時こんなの売れないと思って無造作に置いてたんですけど。こ、こんなにするんですか」
「デザインは古臭いけど、石は本物だからね。周りの台座の部分もだいぶん酸化してるけど銀だよ」
俺でわかるものは変えて、明らかに庶民向けの値段はジュリアの感性を信じてそのままに、中流から上流にかけての値段の微妙なものに関しては、わかりやすいように値札の端のほうにチョンっと小さな点をつけておく。
「うん。こんなもんかな」
一個ずつ見ていたらだいぶん時間がかかってしまった。
夕方に差し掛かり日が傾き始めた。
そういえばお昼を食べ逃したことに気が付き、その途端空腹を思い出したかのようお腹がグーっとなった。
思わずぴたりと動きを止めると、ジュリアも同じく動きを止めたのがわかった。
ジュリアの視線がビシビシと俺のお腹に刺さる。
そこにとどめの一発。再度俺の腹がグーっとなった。
「…………ふふっ!」
くすくすと、笑いをこらえきれなくなったジュリアの口から笑いが漏れ始めた。
「笑うならいっそ盛大に笑ってくれ……ッ!」
「ご、ごめんなさいっ。でも、面白くて」
ひとしきり笑うと満足したのか、一度息を落ち着けようとジュリアは大きく深呼吸をした。
「すみません。お詫びと言っては何ですが、少し早めの夕食に行きませんか? おいしいお店を紹介しますよ」
「……そういうことなら喜んで」
「今日はもうお店も終わり! さ、早く店じまいにしてご飯に行きましょう?」
そう言って閉店作業を始めたジュリア。
彼女に一つずつ閉店作業を教えて貰う。
「おばあちゃんは無茶苦茶なこと言ってましたけど、実際にはライさんの勤務は学園が終わってから閉店までの間。仕事内容は、私が仕入れたものの値段が間違っていないかのチェックとか、店番とか、ですかね」
店じまいを終えたジュリアがそう言いながら表通りに出る。
俺もそれに続きながら彼女の横を歩く。
「従業員を雇うのは初めてのことなので、お給料に関しては何とも……。どのくらいが相場なんでしょう?」
そればっかりは俺にもわからないな。
「まあ、それは俺が来てからの収入がどれだけ増えたかで考えて貰えればいいよ」
「えっと、それはどうやって判断するんでしょうか」
ジュリアのその質問に思考が一瞬止まる。
えっと、つまり……?
「帳簿は?」
「ぱ、パパの時はつけてたから一応書いてるわ。でも、それで何がわかるんですか?」
「帳簿の見方をご存じでない??」
いやな予感とは当たるもので、聞けば見様見真似で帳簿はつけていたが見方もつける意味も分かってはいなかった。
つまり、仕入れ値はおおよその値段。売値も値札の値段をそのまま書いているだけなので、なにか値切られたりした場合は支出や収入があてにならなくなる。
しかも、店の金なのか給与として家に入った金なのかがわからない。
店の金=家の金になっている。
運営資金とは??
税金はどうなっているんだ。
どうやって計算しているんだ。
頭が痛くなる。
「よくそれで今まで生活できていたな」
学園の商業科の重要性がよくわかる。
この規模の、それも最近まできちんと運営できていたからこそまだ破産していないが、破産するのも時間の問題だぞ。
こればっかりは俺が手を出してどうこうできる問題ではない。
「そ、そんなにおかしなことなんでしょうか……っ」
俺の反応にジュリアがおどおどし始める。
いや、普通にやばいよ。本当によく今まで生活してこれたね??
「そのあたりも、勉強しようか」




