72話
初回の講義が終わり、あとは自由時間。
明日以降騎士科の講義は数回に分けてミューラー先生が行う。
一クラスにつき、教師が一人。
つきっきりで実技、歴史、戦略、騎士科で学ぶそのすべてを教える。
もちろんクラス間の交流はあるものの基本的にはミューラー先生が俺たちの担当。
そのスタイルは大学のゼミが近いんじゃないかな? もしくは小学校。
各クラスで特色が色濃く出る。
まだ一日目なのでミューラー先生がどんな先生かはわからないが、冒険者ランクAの名は伊達じゃない。
同じクラスのシロー。
おそらく東国の出身。
詳しい出身国までは聞いてないけど、おそらくオスト帝国ではない。
まず名前の語感が違う。
おそらく俺よりも年上。それで、筋肉の付き方もきれいだ。
無駄な筋肉がついてない。
実戦で見たわけじゃないが、おそらく俺よりも強い。
次にシーシキン。
いけ好かないが、このクラスの中だと、おそらく一番強い。
技選びのセンス、技術、体の使い方、そのすべてが一級品。
まごうことなき天才。
今までキュリロス師匠という完成された天才に教えて貰っていたからこそ、シーシキンの才能が、キュリロス師匠に近しいものだとわかる。
「なぁなぁ。このあとライとアルトゥールは何するん?」
「ア? 飯」
「まだ朝やん………」
「まじか、お前」
「戦ったら腹減るだろうが」
さも当然と言わんばかりにそう言ったシーシキンに、俺もシローも軽く引いた。
「ライは?」
「俺?」
まだ最初の講義が終わっただけ。
それも俺とシーシキンの一戦のみで終わったので、時間はまだ十時過ぎ。
昼飯は………ないな。まだ腹減ってないしね。
「俺は、図書室で魔法の勉強かなー」
「チッ! 魔法なんて軟弱なもんやってんじゃねーよ」
「あ? その軟弱な魔法に負けたのは誰だよ」
「もー!! ライもアルトゥールもなんでそんな喧嘩腰なん!?」
シローが今にもとびかかりそうなアルトゥールを後ろから羽交い絞めにして止めた。
「ほらほら! アルトゥール、って長いなぁ……。アルはご飯食べるんやろ!? 学食いこ! いこ!!」
そのまま引きずるようにシローはシーシキンを連れて行った。
やっぱり、シローはただものじゃない。
本気ではないとはいえ、あのシーシキンを軽く引きずれるんだ。
筋肉量だけでいうのなら、シーシキンよりもシローの方が優れているだろう。
「ほんと、学園に上がっただけなのに俺の周り強いの多すぎない?」
自分の才能のなさが、いやになる。
才能差を埋めるためにはどうすべきなのか。
努力しかない。
技術を磨き、体力と筋肉をつけ、場数を踏む。
凡人が天才に勝つためには、ただひたすらに努力するしかない。
魔法は魔術科に負けるかもしれない。剣術だけなら確実にクラスの同級生にも負ける。
でも、周りはみんな各々の道を究めているんだ。そりゃ剣も魔法もと欲張っている俺が、相手の土俵で戦っても負けるにきまってる。
じゃあどうするべきなのか?
「俺の土俵に引きずりこむ」
騎士科には魔法を、魔法科には剣術を。
いずれは俺の戦術も対策を立てられる。
他はともかく、シーシキンはそれができる天才だ。
じゃあ勝つには?
手数を多くする。
ここにいる誰よりも、騎士科と魔術科で協力しようとしない奴らよりも、新しい戦い方ができる。
そのために、剣術は講義でできるからともかく、魔法は自分で学ぶしかない。
世界屈指の学園の、メイン図書館。蔵書の数は世界一。
魔法に関する本に種類をしぼっても、読み切るには気が遠くなるほどの数。
でも、俺が戦うには、シーシキンのような天才と対等にやりあうには。
「やるしかない」
ひとまず今構築されている魔法の理論を頭に叩き込む。
実戦で使えるような魔法を考えるのはそれからだ。
「うわ……」
「ん?」
明らかに自分に向けられたその言葉に意識を浮上させた。
「オリバー?」
「なんで騎士科の馬鹿がこんなとこにいるわけ?」
「ハァ……??」
いきなり喧嘩を売られたんですけど??
「なんで、騎士科なら騎士科らしく馬鹿みたいに訓練場で剣振ってないの?」
思いっきり眉根を寄せた。
「俺が魔導書読んでたらおかしい?」
「しかも、魔導書!? …………何、入門へ、ん……」
俺の読んでいる本に視線を落とした瞬間、びたりとオリバーはその動きを止めた。
「…………理解してるの」
「じゃなかったら読まないんだけど」
「ふーん」
それっきり黙り込んで、視線で魔導書の文字を追い始めたので俺も黙ってそれを眺める。
机を挟んで真正面から読んでいたオリバーは、読みにくかったのか机を回り込み、俺の真横に肩を並べて読み始めた。
「……本当に、理解して?」
「そりゃ、そうじゃないと読む意味ないでしょ」
眉間にしわを寄せたままオリバーが、その難しい表情のまま俺に顔を向ける。
「君、どうして騎士科なの?」
心底わからないという表情をされた。
解せない。
なんでみんなしてそれ言うの?
俺の剣術が発展途上なのは自覚済みだよ? でも、みんなして言うことなくない?
オリバーの指がトンっと魔導書の文字をたたく。
「僕たちでもまだ教えて貰ってない範囲だ」
「オリバーって何年目?」
「三年目。というより、君全然敬語使わないね。科は違うとはいえ先輩なんだけど」
「まあ、最初に煽られたから素直に敬語使おうなんて思わないよね」
俺は根に持つタイプだ。
自覚はあるのか、心底いやそうな顔をされた。
いやいや、君が自分で蒔いた種だからね?
「ちなみに、これは学園の魔導士科の三年目の後期に履修予定の内容だよ。ドラゴンなんかの魔法耐性の強い魔物を相手取ることを想定した十数人単位での大規模魔方陣。一人じゃなく、パーティーを組んで一体の大物を倒す」
「魔導士の存在しか想定してないんですね」
「当たり前だろう。確かに、僕たち魔導士科は一人じゃ騎士科には敵わない。本ばっかり読んでる頭でっかちで、お仲間がいなきゃ冒険者にすらなれない。それでも、複数対複数なら軍配は魔導士科に上がるんだよ。突っ込むしか能のない騎士科の馬鹿には、……負けない」
それはまごうことなき魔導士としての誇り。
絶対に、魔法では負けないと、魔法で負けたくないという強い意志。
だからこそ、ただひたすら思うのは。
「……もったいない」




