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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
学園編

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71/140

71話

それじゃあ解散。というミューラー先生の声で、第一回目の講義は終了となった。

講義が終わると皆思い思いに訓練場を離れていく。

俺も訓練場を後にしようと思うと、ぐいっと肩を後ろから掴まれ、歩みを阻まれた。

「…………なに?」

俺の肩を掴んでいたのは先ほどまで俺に絡んでいたアルトゥール・シーシキン。

「お前……さっきの」

言いにくそうに少し言い淀んだシーシキンに、俺も眉間にしわを寄せる。

「さっきの、魔法何なんだよ。クロヴィスさんも言ってただろ。センスも技術も俺のほうが勝ってた。なのに、あの魔法のせいで俺が負けた! この!! 俺様が!!」

声を荒らげるシーシキンの指が肩に食い込み痛みが走る。

自分が勝って当然、自分が負けるはずがないという自負。

もちろんシーシキンにはそれ相応の実力があった。

でも。

「確かに、俺はお前に負けてた。剣だけなら確かにお前は、いや。ここにいる奴ら全員俺よりもすごいよ。でも、ほかの可能性を排除して、剣だけに固執してるお前らに俺は負ける気ないよ」

そう言えば、今俺たちを残して訓練場から出ようとしていたほかの生徒たちも足を止めた。

「質問する前に考えてみた? 調べた?俺が何をしたのか、俺がどのタイミングで魔法を仕込んだのか、何が発動条件だったのか」

ぐっと言葉に詰まったシーシキン。

そりゃそうだ。講義が終わってすぐに俺のところに来たのだから。

考えたこともないんだろう。魔法のことなんて。

「もちろん、教えてもいいよ。でも俺が教えるんだからそっちも俺に教えてくれなきゃフェアじゃないよね」

一歩シーシキンのほうに足を進め距離を詰めた。

急な接近に少し後ずさったシーシキンの胸倉を掴む。

「俺に剣、教えてよ」

「はぁ……?」

「俺はお前に魔法を教えて、お前は俺に剣を教える。これで対等。ど?」

俺は今までキュリロス師匠という圧倒的強者に接待プレイしてもらってたに過ぎない。

俺の実力に合わせて、少しずつ、少しずつ、俺がうまくなっていることを実感できるように。

でも上過ぎて俺の心が折れないように。

でもそれじゃだめだ。

俺に足りないのは圧倒的経験。

今回学園で魔導士科ではなく騎士科を選んだのもそれが理由。

癖も技選びも何もかも違う色んな相手と対戦できる機会を得るためにこの科を選んだんだ。

「…………ぜってーやだ」

「………はぁ!!?」

「なんで! 俺様が一人に教えなきゃなんねーんだよ!!」

「超絶わがまま!!」

いっそすがすがしいほどにそう言い切りやがったぞこいつ!

「なんでだよ! 俺ばっかり魔法教えたら不公平だろうが!」

「いやなものは!! いやだ!!!」

「超絶頑固!! なんでだよ! 教えろよ!!」

ギャーギャー俺とシーシキンが騒いでいると、誰かがぐっとシーシキンの肩を後ろに引っ張ったことで終止符が打たれた。

「あーもう!! あんたらちょっと落ち着きぃ!」

シーシキンの後ろから、明るい茶髪が躍り出る。

「あんたらさぁ、もうちょっと冷静になれへんの?」

「あんだよ!! やんのかテメェ!」

「うわぁ。血の気の多い男ってホントやだ。お前誰にでも喧嘩売ってんの? やめろよ、恥ずかしい」

「なんだとコラ!?」

「ほんま……血の気多すぎやわぁ……」

関西弁の男が少し引いたようにハハッと乾いた笑いを漏らした。

「ごめんね? 別に俺の知り合いでもなんでもないけど」

「いやいや。ボクこそゴメンなぁ? ボクが声かけたから余計怒ってもうた」

手でごめんね、と謝る男に俺はいやいやこちらこそ、と頭を下げる。

「テメェら何やってんだコラ!!」

なおも叫ぶシーシキンに、いい加減イラつきが募る。

なので、思いっきり頬をつかんでタコの口のようにしてやった。

「ム!? ぬにふんだテムェ!!」

「一回黙れよ……。これでも叫ぶのかよ」

「ホンマ、元気やなぁ……」

もうこの際魚類は無視だ無視。

「えっと、同じクラスってことだよね? 俺はライ・オルトネク。苗字呼ばれなれてないから上の名前で呼んでよ」

「おっけー、ライな。ボクの名前はナキリ・シロー。よろしくー」

その日本っぽい名前に少し懐かしさを覚える。

「シローが名前?」

今まで俺の周りにいた人と同じ法則ならナキリのほうが名前だろうが、俺にとって語感的にシローの方が名前感がある。

なので、そう聞いてみたら、シローは嬉しそうに破顔した。

「そうそう! よーナキリが名前やと思われんけど、ボクの出身地ではシローのほうが名前。ナキリが家名やねん! ようわかったなぁ!」

シーシキンの顔をつかんでいないほうの手で握手を求めると、嬉しそうにシローは応えてくれた。


「おい」

いい加減耐えかねたシーシキンが俺の手首を掴んだ。

「いい加減離せや、コラ」

俺の手を振り払ったシーシキンは、そのままシローに向き直り、意外なことに手を差し出した。

「アルトゥールだ。弱ぇ奴には興味ねぇ」

がっしりとシローと握手を交わしたシーシキンに、ビキリと自分の額に青筋が走るのが分かった。

なんだコラ? 俺は弱ぇやつってことかコラ??

確かに俺は弱い。弱いよ?シーシキンよりよっぽど弱いよ??

でもな、他人。それも今しがた技術的に敵わないと思ったいけ好かないやつに言われたらむかつく。

「俺の魔法にいいようにやられたのに、俺よりも強者面かコラ」

「アァ!? なんだとコラ!!」

「ああああ! もうー! ライもアルトゥールも血の気多すぎやぁ!!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 今までお行儀よく、色々自分を律してたから、こういう同年代と感情をぶつけ合うことに、無意識に餓えてたんかもしれんねぇ(笑)<ライ
[良い点] 籠の中のうさぎ様 初めまして、突然のメッセージ失礼します。 本日は、第七王子につきまして、どうしても感想をお伝えしたく筆をとった次第です。 面白さのあまり、時間を忘れて夢中で読んでしまいま…
[良い点] ライの知能が大暴落してるな、なんて大人げない 同世代に囲まれて精神が引っ張られたか [一言] いいトリオになるんじゃないかなこいつら
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