70話
一日一話、ストックがなくなるまでは投稿します。
ポフンッ!
とっさに目をつむったシーシキンの顔を、俺の手から発せられる温風が撫でた。
「……ハ?」
「言っただろ? 勝負あったり、って。俺の魔法発動を止められなかったお前の負け。でもこれは摸擬戦で、お前を倒す必要はないからこれで十分」
舐めプ上等!
◆◆◆◆◆
そよそよと俺の手のひらから発せられる温風にぽかんとしていたシーシキンだが、次第に状況を理解し始めたのかその額に青筋を走らせる。
「テメェ…………ッッ。俺のこと舐めてんのか……ッ!」
「初めに舐めてかかったのはそっちだろう? お前が俺への攻撃の手を止めなかったら確実に俺が負けてた」
いい加減左手から出し続けていた魔法を止め、いまだ膝をついたままのシーシキンに手を差し伸べる。
しかし、それが余計気に食わないのか、シーシキンはバシリと俺の手を振り払った。
「いやー、思った以上にいい戦いでしたねぇ。ライ・オルトネク、アルトゥール・シーシキン」
ぱちぱちと拍手をしながら教師が近づいてきた。
不服そうな表情のシーシキンの肩に教師がポンっと手を置く。
「アルトゥール・シーシキン。今回のことはいい教訓になりましたね。たとえ相手が自分よりも劣っていても最後まで手を抜いてはいけませんよ。さもなくば、痛いしっぺ返しにあいますからね」
言外に弱いといわれ、少し傷つく。いや、否定しないしできないけどね。
「ライ・オルトネク。君はいい戦い方をしますねぇ。体格もまだまだ子供、剣術の基礎はできていますが攻撃のセンスはからっきし。アルトゥール・シーシキンが攻撃の手を止めなければ確実に動きは鈍り負けていたでしょう」
にこにこと柔和な笑顔で厳しいことを述べる教師に、何も言い返せない。
「ですが、よく考えられた魔法です。発動速度、発動条件、効果時間、すべてよく把握され考えられています。正直、君がなぜ魔導士科ではなく騎士科を選んだのかはなはだ理解しがたいですが、新しい騎士の形としては非常に興味深い」
グサグサと言葉の刃が俺の心をキズつけていく!!
いや、知ってた……ッ! 俺に剣の才能がないことは知っていたけども!!
俺以外の新入生はみなだいたい十五歳程度。
まだ俺は十三歳なので、やはり体つきが違う。
力で勝てないのがしょうがないとはいえ、それをカバーするための技術が魔法しかないのは騎士科としてどうなんだ……?
だが、それが俺の戦い方なのだからしょうがない。
『俺』の時はRPGでゲームするときは脳筋スタイルだった。力イズパワー。
でもそれは俺のステータスだと無理。
個体値的に無理。じゃあどうするべきか。
バフデバフをかけてパーティの底上げをする役割を担うしかないだろう。
そのためにシーシキンとの戦いで使ったような効果時間は短いが、戦いを自分にとって有利に進められるような魔法の開発を少しずつ進めていた。
自分の筋力を上げたり、足を速くしたりする魔法はあるものの、それは自分にかけることが前提の魔法だし、長時間使おうと思うとどうしても効果は薄くなる。
なら、魔法に優れた魔導士が仲間にバフをかけれればいいのだが、肝心の魔導士と騎士との仲は悪い。
つまり俺の目指しているような剣を握って、仲間にバフをかけつつ敵にデバフをかける職は冒険者の職にない。
こういうのRPGにおいてみんななんて呼んでる?
エンチャンター? 吟遊詩人? 呪術師?
学園にきて早々にオリバーのことがあったから、魔導士科と騎士科と仲が悪かったら冒険者パーティーどうしてるの? と思ってちょっと調べたんだけど、ものすごい脳筋スタイルだった。
魔導士は魔導士同士パーティーを組むし、騎士は騎士同士でパーティーを組む。
防御や魔法防御の高い敵はどうしているのかというと、防御力が高い? 関係ねぇ! とばかりに高火力の魔法で押し切ったり、数の暴力で解決する。
タンク? アタッカー? 関係ない。全員が盾であり剣スタイルだ。
だからドラゴンのような強いモンスターの相手ができる冒険者は限られてくる。
信じられるものは己のみなんて考えている冒険者も少なくない。
そんなソロプレーヤーの頂点に君臨するのがSランクの冒険者、つまりキュリロス師匠だ。
ジャン兄さまとキュリロス師匠の冒険者時代の話を聞いたことがあるが、師匠は一人で脅威度Sランクのドラゴンを倒せてしまうらしい。
とはいえ、俺にそんなことは到底できそうにもないので、目指すのはタンク、アタッカー、ヒーラー入り混じったパーティーの先駆けを作ること。
冒険者も馬鹿じゃない。
こっちのほうが有用だと分かれば世論はこちらに傾き、魔導士科と騎士科のいざこざも少しはましにならないかな?
まあ、そのパーティーが作れるかどうかが最大の難関なのだが…………。
「さて、なかなか興味深い戦いでしたが、私のクラスのほかの生徒たちも先ほどの戦いから何か得るものはありましたかねぇ」
訓練場の入り口で俺たちの戦いをずっと見ていたほかのクラスメイトにそう声をかけた教師に、俺とシーシキンは背を押され彼らの輪に加わる。
「想定外の演習で私の挨拶ができていなかったですねぇ。改めまして、今日から君たちが自分の道を見つけるまでの間、君たちに剣術の基礎を教えることになる、クロヴィス・ミューラー。これでも元Aランク冒険者です。」
「クロヴィス!? 竜騎士のクロヴィスですか!?」
クラスメイトの、誰だかが驚きの声を上げた。
と、いうことは有名人だろうか?
竜騎士といえばオストの出身かな? 確かにミューラー先生の髪はオストに多い茶色の髪だ。
「おや、もう何年も前に冒険者はやめたんですが……知っている子もいるようですねぇ。なにはともあれ、しばらくの間お願いしますね」




