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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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7話


パキッ、パキッ、と水晶華の花畑を踏みしめながら歩いていく。

不思議なもので、踏まれた水晶華はしばらくするとパキパキと音を立てて再び空に向かって立ち上がった。

その幻想的な光景に思わず見とれてしまう。

「ライはアンタロスが好きなの?」

ジャン兄様が俺にそう聞いてくる。

そりゃそうだ。

「ジャンにいさまが はじめて おれに くれたものだから、すきです。」

そう、この庭で初めてジャン兄様に会ったときに赤い水晶華をもらったんだ。

枯れると同時に花弁の先から砕けていき、最後にはきらきらと輝く細かな水晶の欠片へと変わる水晶華。

ジャン兄様にもらった赤い水晶華の欠片は今でも大切に保管している。

「ライは赤ちゃんの時のことも覚えているの?」

きょとんとした表情を浮かべるジャン兄様に、赤ん坊の時のことを覚えているのはおかしいと気味悪がられるかと危惧したが、ジャン兄様は嬉しそうに頬を染めてほほ笑んだ。

「ふふっ!うれしいな。ね、ライ。じゃあその時に俺がほかに何を言ったか覚えているかい?」

「……………なにか、おれに くれるんですよね?」

俺が覚えていることをみじんも疑わず、わくわくしながら俺の言葉を待っているジャン兄様の期待を裏切ることもできずそう言うと、ジャン兄様は満面の笑みを浮かべた。


「ライ、こっちに来て!」

嬉しそうにクスクス笑い声をあげながら、ジャン兄様が俺の手を引いて南の庭園のちょうど中心部。

そこにはひと際大きな光る樹があった。

直径三メートルはあるだろうか。いくつもの細い幹が重なり一本の太い幹を形作っている。

その樹の根がうねり地中にもぐりこみ、地中から水を吸い上げる。

水が樹の道管を通ると、樹の表皮の下でそれが淡く光を放つ。

まるで血が血管を通るかのように、どくりどくりと脈打ちながら、光が上へ上へと昇っていく。

その光が幹から枝へ、枝から葉へと、樹全体に広がっていく。

水が多く通ると強く光り、通る水が少ないと弱く光る。

幻想的なその光景に見とれる俺の手がくいっと引かれた。


「ライ。こっち。」


エルフの血を引くからか、ジャン兄様はここの風景にすごく馴染んでいる。

そのままふっと光とともに解けて消えてしまいそうで、俺はぎゅっとジャン兄様の手を強く握った。

薄く微笑むジャン兄様に手を引かれるまま、その光る樹の側にあるガゼボにはいるが、そこにはどうやら先客がいたらしい。




「なにかこそこそと準備をしていると思えば、そんな奴と会う予定を立てていたのか。」

「ジョ、ジョン!?ど、どうしてここにいるの!?」

先にそのガゼボで紅茶を飲んでいたのは、ジャン兄様によく似た少年だった。

恐らくジャン兄様と同じソフィア様の息子、俺の兄のひとりであるジョバンニ兄様だろう。

燃えるような赤い髪は父上とよく似ている。

恐らくソフィア様から受け継がれたであろう青い瞳は冷たく俺を睨みつけている。

「ふん。一番末の弟のくせに王太子だなんて身の程をわきまえろ。」

「ジョン!!」

ジョバンニ兄様が心底蔑むような眼で俺をにらむ。

その視線から俺を守るようにジャン兄様が俺を抱きしめた。

「それはマヤ様が言っていることで、ライには関係ない。」

「それを証明できる術はあるのかい?それが本当に王太子を望んでないとなぜわかる。」

「それは………っ、ない、けど………。でも!俺の知ってるライはそんなことしない!」

俺を抱きしめる腕の力が強くなる。

「はっ!それが君を利用しているかもしれないだろう。相手はあのマヤ様の息子だぞ。」

「ライはそんなことしない!俺の弟だ!」

「なら言わせてもらうが、君は僕の弟だ!」

「ライはジョンの弟でもあるんだよ!?」

「だとしても、僕にとってはただ血のつながりがある他人だ。僕は君が大切なんだ、ジャン。」

その言葉や表情から、ジョバンニ兄様がどれだけジャン兄様を大切に思っているのかが伝わってくる。

ジャン兄様が俺をかばってくれるのは嬉しいが、そのせいでジャン兄様とジョバンニ兄様の兄弟仲が悪化するのは嫌だ。

「ジャンにいさま………っ。」

「ライ。お前は悪くないよ。俺が守って、ッ!ごほッッ!!」

ジャン兄様に、もういい。と、そう言おうとしたのだが、俺を守ろうと興奮しすぎたのかジャン兄様がせき込み始めた。

「ジャン!!チッ!君のせいだぞ!ジャンに無理をさせるな!!」

「うわっ!」

ドンッ!とジョバンニ兄様に押しのけられ、その場で手をついた。

何をするんだという気持ちはもちろんあるのだが、その時のジョバンニ兄様の声が震えていて、はっと顔を上げて彼の顔を見る。

「いつもいつもっ。お前がいるせいで最近ジャンが無理をするんだっ!」

確かジョバンニ兄様は今年十四歳だったはずだ。

十四歳と言ったら日本の中学生、まだまだ子供だ。

せき込むジャン兄様に必死に声をかけるジョバンニ兄様の気持ちは痛いほどよくわかる。

そりゃそうだろう。

ジョバンニ兄様にとってジャン兄様はもっとも仲の良い兄弟だ。

しかも年齢的にジョバンニ兄様の方が年上なので、どうしても守らなければという思いが強いのだろう。

実際、この年になるまできっと体調が悪くて部屋にこもりきりになってしまうジャン兄様の側で、ずっとジャン兄様の心を守ってきたのだろう。

「ジャン!!ジャン!大丈夫か?どこが苦しい?」

「ごっほっ、ごほっ!ごほっ!!」

いつになくせき込むジャン兄様に動揺しているのはわかる。

しかし、今この場所で俺たちができることなどないに等しい。

ならば今すぐにでも大人を呼ぶべきだ。

「ジョバンニにいさま!ていえんの いりぐちに、マリアとキュリロスししょうが います。ジョバンニにいさまが よんできてください!!」

五歳の俺が行くよりも、十四歳のジョバンニ兄様の方が早く人を呼びに行ける。

なのにジョバンニ兄様は俺に対する不信感、そしてジャン兄様を取られたことに対する嫉妬からか、俺をキッと睨みつけた。

「僕がお前とジャンを二人きりにするとでも?」

「ですが、おれたちで できることは すくないです!」

「はっ!!そんなことを言って僕が離れたすきにジャンに危害を加えるつもりだろう!ふざけるな!!ジャンは僕の弟だ!僕が守る!!」

そうこうしているうちにもジャン兄様はヒューヒューと苦しそうな呼吸をはじめ、顔も青白くなっていった。


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