66話
大変お待たせしましたぁ!!!!!!
ライ・オルトネク。
俺の新しい名前。
名前は変わりすぎると呼ばれたときにとっさに反応できないからライモンドを縮めただけ。
オルトネクは、ローマ字にすればわかるかな?
『ORTNEC』
反対から読むと
『CENTRO』
イタリア語の発音でチェントロになる。
単純だけど、この世界にローマ字はないのでばれないばれない。
名前が王子に似ているのは同じ年に生まれたから恩恵にあずかろうと思って。
家名で呼ばれると反応が遅れるのは、田舎出身で互いに身内感が強くて家名で呼び合わないから。
ばれない、ばれない。
大丈夫、大丈夫。
今回俺が住むのは学園が学生向けに貸し出している、家具付きの学生寮だ。
トイレ、キッチンは共同。洗濯は中庭のようなところに洗い場と物干し場が併設されている。
三階建ての口の字型になっている建物で、上の辺の部分に共同スぺ―ス。下の辺が入り口と、三階までの吹き抜け。
左右の辺の部分に部屋が並ぶ形だ。
俺は三階の一番端、301号室だ。
ちなみに階段は建物内に三か所ある。
下の辺と縦の辺の接点に一か所ずつ。そして、上の辺の真ん中部分に一つだ。
ちなみに俺の部屋は左側の階段を上り切ってすぐの部屋だ。
とりあえず当分の衣類と雑貨類の入った二つのカバンを担ぎなおし、俺は階段を上り始めた。
「っと、ここか。まあ、階段に近いとはいえ角部屋はありがたいな」
事前にあずかっていた鍵を扉に差し込み開けようとしたその時、自分の隣の部屋となる302号室の扉が開いた。
「あれ?君新入生かい?」
オリーブ色の髪を持つ眼鏡をかけた男に話しかけられた。
歳は俺よりも2つか3つほど上だろうか。
「初めまして、僕はオリバー。君も魔導士科かな?」
友好的に笑いながらスッと手を差し出してきた彼の手を取るべく、俺も手を伸ばす。
「よろしく、オリバー。でも俺は魔導士科じゃなくて騎士科なん、だ……?」
間違いなく彼の手を掴もうと握った自分の手が空を切る。
不思議に思い視線を彼の顔から手元に落とすと、握手できないように彼の手が少し上に持ち上げられていた。
「えーっと?オリバー?」
「騎士科?商業科でも技術科でもなく?」
「え、そう、だけど……」
「ふーん」
オリバーはそれだけ言うと、結局握手をすることもなくそのまま俺の隣の部屋に戻った。
「え、なんだったんだ、あれ」
釈然としないまま俺は荷物を部屋の中に運び入れ、黙々と片づけをする。
学園は特に決まった制服はない。
無いが、自分の所属がわかるように校章のようにそれぞれの科や専攻がわかるようなものをつける。
例えば騎士科ならドラゴンの描かれたチャームだ。
魔導士科なら千年樹、社会人文学科は開かれた目、商業科は宝石の結晶、技術科は歯車。
高等部に上がると紋章がぐるりと蔦で囲まれ、教授として認められればその蔦の輪に花が咲く。
俺は騎士科の一年なので、ドラゴンの描かれたごく普通のチャームだ。
ちなみに社会人文学科は魔法、技術、商業以外に関する歴史や文学などについて学ぶ科だ。
農業や牧畜に関しては学ぶものではないと考えられているし、医学に関しては魔導士科から分岐する白魔法にあたる。
地理や理科系の科目に関してはそもそもそんな学問はこの世界にない。
地理は地図があれば事足りると考えられているし、理科に関しては魔法の陰に隠れて誰も重要視していない。
まあその分魔法が生活のいたるところに浸透してるんだけどね。
「電気の代わりに光る植物。家電の代わりに魔石。ある意味エコだよなー」
チェントロ王国で使用されている魔伝に使われるような魔石はいわゆる化石と同じで、長い年月地中の魔力を圧縮し続けた結果だ。
何千、何万年と魔力を少しずつ蓄積していくので、ほとんど一生ものだ。
その分採れる量はすくなく一般に流通しない。
その代用品として一般に流通しているのが魔物からとれるコアだ。
冒険者の主な収入源がこれで、強い魔物ほどこのコアに含まれる魔力が多く高値が付く。
尤も魔石よりも安価と言うだけで魔物のコアもそこそこ値が張る。
なので俺の新居にある照明は竜玉だ。
世話をする必要はあるものの、枯れない限り半永久的に照明として使える。
「ほんと、便利だよなー」
ある程度部屋を片付けて、ふと先ほど出会ったオリバーのことを思い出す。
「にしても、なんで騎士科って言っただけであんなに態度が変わったんだ?」
友好的だった態度が一変した。
ベルトランド兄様からは特に何も聞かなかったが意外と学園内にも面倒な問題が転がっているのかもしれない。
ほら、同じ学校でも科が違うと「あっちの科はこういう人が多いから」とか「問題起こす奴が多いから」とか、そういう偏見が摩擦を生むとかあるよね。
それが学園内で、魔導士科と騎士科で起こっていたとしたら?
「非常に、面倒」
その一言に尽きる。
もともとベルトランド兄様に魔法を教わっていたこともあるし、自分にキュリロス師匠ほどの剣の才能がないことはわかっている。
ならば剣と魔法、その両方を駆使するしかない。
それなのに、対立とは
「面倒極まりない」




