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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
学園編

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65話

「ライ!!」

「ジャン兄様!」

部屋を出て王宮の外に向かうべく歩いていると、王宮の入り口のところにジャン兄様が立ってこちらに手を振っている。

「今日ベルトランド兄上と学園に行くんでしょう?その見送り。俺はライがまだ赤ん坊だったころからずっと一緒だっただろう?だからベルトランド兄上にお願いして時間をもらったんだ。」

そう言ってジャン兄様は嬉しそうにほほ笑んだ。

「それ、つけてくれてるんだね。」

ジャン兄様が自身の耳をちょいちょいっと指をさした。

それは、俺が社交界にデビューした時にジャン兄様とジョン兄様にいただいたピアスをつけている場所だ。

そっと指を伸ばせば、冷たい金属が指先に触れる。

「気に入っているんです。それに、兄様二人からいただいたものなので、できるだけつけておきたいんです。」

そう言うと、ジャン兄様が嬉しそうに顔を赤らめ俺を抱きしめた。

「うわっ!じゃ、ジャン兄様!?」

「もー!ライがいなくなるの寂しいんだけど!!」

ぎゅっと抱きしめてくる腕が一対だけなのが妙に寂しい。

「ジョンも、今年まで待てばライを見送れたのにね!」

南にシェンを学びに行ったジョン兄様はもちろんここにはいない。

「ライが学園都市に行ったらしばらくこうやって会えないね。俺も近いうちに王宮から出る許可はもらってるし。」

「気を付けてくださいね?ジャン兄様、無茶はしないでください。」

「うん。………………ライも、辛かったら、帰ってきたらいいからね。」

「はい。」

「……………俺も、ジョンもそうだったけど、母上だってライのことは気に入ってたんだから。」

「ありがとうございます。」

「………………寂しくなるね。」

本気でそう思ってくれているようで、わずかにジャン兄様の声が震えた。

愛されていることがわかり、心がぽかぽかと温かくなる。

「俺も手紙書くから、ライも書いてよ?」

「もちろんです、ジャン兄様。」

「平民として暮らすから従者は連れて行かないんでしょ?じゃあ、あまり会いに行かないほうがいい?」

「そう、ですね………。ジャン兄様が王族だってばれないように変装してくれるなら、歓迎します。」

「平民の変装………。うん、大丈夫。またジョンと一緒に行くよ。」

「はい。待ってます。」


「じゃあ、行ってらっしゃい。」

「行ってきます。ジャン兄様。」

改めて二人に挨拶をして、王宮を後にした。



生まれてから十三年。王宮から離れるのはこれが初めてだ。

ホフレのことは抜きにしたら、だけど。

パーティーに出席するとなっても、王宮で開かれるパーティーしか出たことがない。

勉強も鍛錬も王宮内で事足りてしまうのだ。

しかも東西南北、それぞれ各王妃の出身に合わせて誂えられた庭を見るだけでも楽しめるので、特別城下に行きたいと思ったこともない。

買い物の仕方ばっかりは学園都市についてから学ぶ必要がありそうだ。

物価とか品質とかは実際に経験しないとわからない。

「うん?もういいのか?」

俺が王宮の前に止めてある馬車の扉を開けると、先に馬車に乗っていたベルトランド兄様が少し驚いたようにそう言った。

「ベルトランド兄様…………。はい。また長期休暇には戻ってこれますし。」

「そうか。まぁ、何も学園都市は監獄と言うわけでもない。お前が帰りたければ、いつでも帰ることができる。」

「ええ。今は学園で学ぶことだけを考えます。」

「そうか……。」

それっきりベルトランド兄様は優しい顔でほほ笑んで、黙って窓の外に視線を向けた。

俺もそれに倣って窓の外を見る。


改めて説明すると、チェントロ王国の学園には大きく分けて三つのグレードがある。

平民や、下級貴族で家庭教師を雇う余裕のない者たちが歴史や計算などの一般教養を学ぶための初等部。

初等部をでた学生や、一定の試験をクリアした貴族たちが専門的なことを学ぶための中等部。

中等部では、騎士科や魔導士科などの職業ごとの科が存在しており、それぞれの学生が将来何になりたいかによって科を選べるようになっている。

高等部では、主に学園で教師として働くために学ぶ場だったり、より専門的なことを研究する場だ。

これは何か研究でいい成績を残したり、もしくは中等部にある科と同じ職業に就いたことがあるものが、人に教える方法を学ぶのだ。

いわゆる大学教授と同じようなもの。

研究する場を与えるから下の子たちに教えてね、みたいな。

俺が行くのは中等部の騎士科だ。

魔導士科に通うことも考えたのだが、魔導士科の履修内容はすべてベルトランド兄様に教えていただいたので、改めて講義を受けるまでもない。

もっと言ってしまえば、魔導士科の教鞭はベルトランド兄様がとっているので、今までに習ってきたことと重複するのだ。

また、学園都市ではキュリロス師匠と鍛錬ができないので剣の腕を鈍らせないためと言う理由もある。

騎士科からはその後有名な冒険者も多数輩出しているのでそれも楽しみだ。


「じゃあな、ライモンド。私は必ず学園都市の中にはいる。何か困ったことがあるなら私のところに来るんだぞ。」

「ベルトランド兄様は心配性ですね。大丈夫だよ。俺だってもう子供じゃない。」

両手を髪に当て、色をシルバーグレーに変えていく。

懐から色のついたガラスがはめ込まれた伊達メガネ。つまりはサングラスを取り出しかける。

とうてい王族に見えないラフな格好、綿のTシャツとズボンに着替えた。

「じゃあね、ベルトランドせんせ。学園であったらよろしくね?」

からかい交じりにベルトランド兄様をそう呼べば、ベルトランド兄様はふっと表情を緩める。

「どうやらお前には魔法の才能があるようだからな。いつでも我が科への移動は歓迎するぞ?ライ・オルトネク。」


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