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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
学園編

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61話

「ライモンド様。支度が整いました。」

「うん。ありがとう、イリーナ。」


十二歳になってから数か月。

今まではのらりくらりと理由をつけて逃げていたが、もう逃げることもできなくなった。

そう、十二歳とはそれすなわち王族にとっての社交界のデビューを意味している。

非常に憂鬱である。

なぜならダンスがあるし、将来の結婚相手を探すために令嬢と、将来自分の部下にするものを見つけるために子息と交流せねばならない。

そして俺はご存知王太子の座を狙う第七王子という立場なので、百二十パーセント興味本位の輩があつまるだろう。


「ライモンド様?どうかなさいましたか?」

イリーナが不思議そうな表情を浮かべ俺の顔を覗き込んできたので、安心させるためにふっと笑う。

「大丈夫。ありがとう、イリーナ。さて、そろそろ行こうか。」

俺の顔は、ジャン兄様やジョン兄様ほど華がないし、この目のせいでとやかく言う輩が多いせいで伸ばしていた前髪も、今日は仕方がないのでワックスで後ろになでつけた。

「んー。やっぱジャン兄様とジョン兄様には敵わないなぁ。」

あの二人は特にエルフのソフィア様の血を引いているため、人外の美しさを誇っている。

特に、ジャン兄様は食習慣を改善したことにより、以前とは違いすっかり健康体。

美しさに磨きがかかっている。

「ライモンド様も大変美しいです!」

イリーナが少し力強くそう言ってくれるも、それで俺の見た目が変わるはずもなく。

「そう?ありがとう、イリーナ。」

「い、いえ。」

改めて鏡を見てみるが、やはりどこかパッとしない。

「まあしょうがないよね。さて、じゃあ行こうか、イリーナ。」

「はい、ライモンド様。」



「ライ!十二歳の誕生日おめでとう。これ俺からのプレゼント。」

部屋を出てすぐに待ち構えていたのかジャン兄様が俺のもとに走りよって、耳に紫のアンタロスの花をさしてくれる。

自分では見えないが、俺の黒い髪に透明な紫のアンタロスがキラキラと輝いているだろう。

「ライ、紫のアンタロスの花言葉は知っている?」

「花言葉、ですか?」

「うん。アンタロス自体の花言葉とは別に、色ごとに違った花言葉があるんだ。」

そういえば、俺がまだ赤ん坊でマリアに抱き上げられていたころ、初めてジャン兄様に会った時に赤のアンタロスの花言葉は『ずっと大好き』だと言っていたはずだ。

だが紫のアンタロスの花言葉は聞いたことがないので、ふるふると首を振った。

「ふふ。紫のアンタロスは『完璧な美』。今日は一段と格好いいよ!」

ビシィ!と親指を立てバチコーン!とウインクをしてくる。

いつからこんなにフランクになったんだ、ジャン兄様は。

でもそんなジャン兄様も好き。

真正面から褒められて少し照れ臭く、ふいっと視線を逸らせば、それに気づいたジャン兄様が何も言わないもののほほえましそうに表情を緩めるのだからなんだかいたたまれない。

「おい、ジャン。それ以上ライをからかうな。」

ジャン兄様のように駆け寄ってくるわけではないが、ノトス連合王国からこの日のために一時帰国したジョン兄様も俺のことを部屋の外で待ってくれていたようだった。

「ジョン!でも、俺の弟が社交界デビューするんだよ!?俺の!弟が!!なのにテンション上げるなっていうほうが無理でしょ!?」

なるほどジャン兄様もテンションが上がっていたらしい。

「ジャン…………。はぁ、すまない、ライ。それより、誕生日おめでと。僕からのプレゼントだ。その、気にいるかわからないが。」

宝物を見せるみたいに握った両手を俺の目の前に突き付けて、そっとその手を開いた。

「これ、なんですか………?」

それは細いシルバーチェーンの先に銀細工の小さなかごが揺れるイヤリングだった。

そのかごを模したチャームの中には、キラキラと光を放つ宝石のようなものが入っており、それがシルバーに反射している。

ジョン兄様の手からそっとそれを受け取った。

「何か作ってると思ったら、ライへのプレゼントだったんだ。」

「え!?こ、これジョン兄様が作ったんですか!?」

まさかの事実だ。

「作ったのは俺だが、デザインを考えたのはジャンだ。その、僕はデザインを考える才能はないからな。」

「じゃあ、ジャン兄様とジョン兄様からのプレゼント、ですね。ありがとうございます。大切にします。」

「あ、ああ。」

真正面から感謝されることはやはり照れ臭いのか、ジョン兄様は顔を真っ赤にさせている。片方の手の甲を自身の口元にあて視線をさ迷わせながら照れるジョン兄様が女の子だったら絶対にモテモテだっただろうな。

いや、男の状態でも令嬢たちにモテモテなわけなんだが。

「ジャン、俺の代わりにライにつけてやってくれないか?」

「ん。わかった。ライ、これつけるの右と左とどっちがいい?」

「えっと、じゃあ左で。」

「わかった。」

俺の手からイヤリングがジャン兄様の手に渡り、そのまま俺の左耳にそっと手が伸ばされた。

「シュス。」

ぽそりとジャン兄様がそうつぶやくと、耳に重みがかかりイヤリングが俺の耳たぶについたことが分かった。

どうやらそっと手を伸ばして触れてみるも、取れる気配はなく、どちらかというとピアスみたいだ。

しかし穴をあけたような感覚はないのでノンホールピアス(魔法式)だろう。

「はずしたいときは手を触れてエーシュって言えば外れるからね。」

「はい。ありがとうございます、ジャン兄様、ジョン兄様。」

頭にはアンタロスの花。耳には輝くイヤリング。

「さて、それじゃそろそろ行こうか?じゃないと父上が待ちくたびれて迎えに来そうだ。」

「そうだな。ライ、準備はいいか?」

「はい。大丈夫です。」




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