60話
お久しぶりです。
ああ、そう言えば。五年前と変わったことがもう一つ。
「あと、もうちょっとでエルもくるよ。」
「え!?」
「エルフリーデ様も来るんですか!」
実はかわいい妹ができました。
ネストルとゼノンが驚きに声をあげたとき、タイミングよく部屋をノックする音がした。
「おにいさま!エルフリーデです!入ってもいいですか?」
鈴を転がすようなかわいらしい声。幼児特有の少し舌足らずなところもかわいさを引き立てる役割を担っているといえよう。
五年前に増えた新しい家族のもはや聞きなれた声に、俺は表情が緩むのが分かった。
「エル、いいよ。」
失礼します!と元気よく挨拶をして妹が入ってくる。
そう、妹だ。
あのツンデレな母上を、その持ち前のトークと魅力で恋する乙女に変えてしまった父上は、ツンデレという文化の差を乗り越え見ているこっちが恥ずかしくなるほどラブラブになった結果妹が生まれたのだ。
ビバ妹。妹かわいいよ妹。今まで兄さまたちばかりだったので年下の、それも女の子という妹の存在を俺は溺愛している。
母上譲りの黒い髪にグレーの瞳。
顔だちはどちらかというと父上に似ているかな?
「エルフリーデ様、お久しぶりです。」
「お久しぶりです、エルフリーデ様。」
すぐさまネストルとゼノンはソファーから立ち上がりエルにぺこりとお辞儀をした。
「お久しぶりでございます、エルフリーデ様。より一層かわいらしくなられましたね。」
マリアとキュリロス師匠も立ち上がり、マリアがエルに声をかけた。
「マリア!あなたも前よりもきれいだわ!」
「ふふ!ありがとうございます。」
ふわふわと俺の前で繰り広げられるほほえましい会話に、思わず頬がゆるむ。
ちらりとキュリロス師匠のほうを向くと、似たようなことを考えていたのかキュリロス師匠も頬を緩めていた。
「エルフリーデ様は日々勉学に励んでおられますからなぁ。ほぼ毎日お会いする私ですら目を見張るものがありますぞ。」
「ええ!エルは毎日リッパなシュクジョになるために頑張ってますの!」
ところどころ言葉の意味が分かっていないのに、どや顔するところもまたかわいらしい。
「ライモンド様。紅茶のご準備ができました。」
ちょうどいいタイミングでイリーナが紅茶を淹れて戻ってきた。
もちろん事前にエルが来ることを告げていたので、エルの分も淹れてある。
「ん。じゃあ座ってお話ししようか。」
子供は子供たちで、三人楽しそうに会話をしている。
イリーナがその三人に目を配ってくれているので、俺はマリアとキュリロス師匠と少し会話をする。
「そういえば、今年はライモンド様の社交界デビューですな。」
しばらく他愛もない会話を楽しんでいる途中、キュリロス師匠がふとそう話を切り出した。
「うん。だからジャン兄様が張り切ってるよ。」
「ジャンカルロ様が?」
「そ。俺の姿を絵に残すんだって。」
アンドレア兄様監修の服を着ることになっており、すでに長い時間アンドレア兄様には着せ替え人形にさせられていた。
「しかも、俺の誕生日に合わせるって父上が………。余計に力が入って困ってるんだ。」
俺は目立ちたいわけじゃないのに。周りの力の入り具合がすごい。
誕生日も兼ねた、第七王子の社交界お披露目とくれば、国内外の貴族たちがこぞって参加したがるに決まっている。
「非常に面倒だ。」
「先日バルツァー家のお茶会に参加した時に、レアンドラ様が随分そわそわしておられましたよ。」
そういえば、レアンドラ嬢に婚約を申し込まれていたんだった。
レアンドラ嬢のことを思い出すと芋づる式にそのバックにいるバルツァー将軍のことまで思い浮かび、少し顔をゆがめた。
「んー。バルツァー将軍がいるからなぁ。」
実は、あの日迷子のレアンドラ嬢に声をかけてからと言うもの、何度かお茶会に誘われている。
だが、彼女の、というかバルツァー家の主催するお茶会に参加することで周りからレアンドラ嬢とそういう関係だと認識されるのは自分にとっても彼女にとっても今は都合が悪い。
「ライモンド様が周りのことを考えておられるのは重々承知ですが、レアンドラ様とお話したことのある身としては応援したくなりますわ……。」
ちょっと複雑そうに、でも嬉しそうにマリアがそう言った。
どうやらマリアは俺とレアンドラ嬢の婚約の話には賛成のようだ。
それは、かつて話した保護云々の話を抜きにして、単純に俺の幸せを想ってのことだろう。
でも、
「俺は、彼女の人生を縛りたくないから。」
俺と婚約すれば、周りが彼女を逃がさない。
好きとか、嫌いとか、そういう話じゃない。
あんな小さい子の人生を、大変だとわかっているのに俺の都合に付き合わせてこれから先縛るなんてことしたくない。
「まあ、大人になっても俺のことを好きでいてくれるなら、俺も答えを先延ばしにしないでちゃんと考えるよ。」
真剣な思いをないがしろにはしたくない。
でも、今はまだ考える余裕も、それを受けて誰かを守る自信もない。
無意識のうちに机に置いた紅茶のカップの端を指ではじいていた俺の手を、キュリロス師匠がキュッと握ってくれた。
「何があっても、私がお守りいたします。そのための体で、腕で、武器ですので。貴方の盾となり、剣となり、貴方も貴方の守りたいものもすべて守りましょうぞ。」
キュリロス師匠マジイケメン。
お久しぶりでございます。
本業が忙しくなかなか更新できずにすみません。
夏は……繁忙期なんやでぇ……っ
みんなの休みには、必ずその休みを回すために働いている人がいることを……っ、忘れないでくれ……ッッ!!
なぜ人は長期休暇に旅行に行くのか……っ
トップシーズンは過ぎたのでこれからは徐々に更新していきたい所存。
それから、改めましてみな様書籍のご購入などありがとうございます。
出版者様から本の売れ行きなどを聞くたびに励みになります。
これからも少しずつ書きながら、皆様に楽しんでいただける作品が作れればと思っています。
まだまだ更新速度は遅いですが、よろしければ今後ともよろしくお願いいたします。




